オトモダチのなりかた
――大型チェーンのファミリーレストラン。
大学から程近く、値段もお手頃なので、この付近の学生によく利用される。
私もよくここに食べに来るが、入ってすぐにこんなに視線を感じたのは、恐らく初めてだ。
…主に、女子の熱い視線。言うまでもなく、私の前に入って行ったあの男たちに。
――しかし、やはりコイツら、どこ行っても目立つのか。迷惑な。
1人ならまだしも、こんなのが4人も揃うと、なあ……
イケメンはイケメンを呼ぶ?そういうもん?
「ナッちゃん、こっちこっち。」
「ナツちゃん、ここ、座ろうか。」
「那津?早く来いよ。」
そして、どーしてこの中に私がいるのかねぇ…。手招きして呼ぶの、止めてくれないかな。このアホ男どもが。
客はもちろん、接客のお姉さんまで信じられない、みたいな眼差しを向けてくれるし。
…安心しろ。それは、客観的に正しい反応だ。
ため息を吐きながら立ち尽くしていると、国崎に顔をのぞき込まれた。
「どうした?気分悪いのか?」
「……あぁ、視線に酔った。帰りたい。」
いや、マジで。
「視線??」
4人がおかしそうに首をかしげる。
「…って、酔うもんなの?」
「こんなの、大学内に比べれば、まだマシですよ?」
「ホラ、とっとと座れって。」
もしや皆さん、免疫出来てます?なんか小慣れてる感じなんですけど。
私は、一生慣れそうにありませぬ。
「いや、やっぱ帰「今から皆でお前ん家行くのと、どっちがいい?」
「…座ります。」
クソ、この俺様野郎が…テメェなんかこっぴどく振られちまえ。
…無理か。絶対追われるタイプだよなぁ、国崎は。
「さ、嫌がる彼女も座ったし。」
えぇ、嫌がってますけど。分かってるなら解放したまえ。
「注文してい?俺、もう腹ペコ。」
斎藤がそう言うので各々メニューを見て、オーダーをとる。
…特にお腹の空いてない私は、ブラックコーヒーで。
「そんだけー?もっと食べないと大きくなれないよ?」
女性に言うセリフか?それ。相手は小学生じゃないんだぞ。これだから天然君は…。
「奢りますから何でも頼んでください。」
「おっ圭、太っ腹ー♪俺のもよろしく!」
「信二、俺はナツさんにだけ言ったんですけど。」
「冷たっ!」
私はそんな乾と水谷の会話を聞き流し結構です、とだけ言っておいた。
我ながらそっけない。ゴメン、わざとだけど。
「……あの、何で私、ここにいるのかな?」
注文したものがちらほら来始めた頃、私はそう切り出した。
「ん?聖悟に聞いてない?」
…朝の通話はひとことで切れましたけど?
「…聞いてないし。」
「言ってないから。」
私は国崎をジロリと睨みつける。ヤツはさらりと流す。
膠着状態に陥った私たちを見、水谷は苦笑しながら話した。
「今日、飲みに行かねーかって。ちょうどタダ券あんのよ、居酒屋の。」
………。
………はい?
何、その拷問。
「そー。お友達になった記念にさ、いいでしょ?」
ニコニコと笑いながら、ハンバーグを頬張る斎藤。
いや、全然いくないんですけど。そもそもいつトモダチになりましたっけ?私たち。
しかも飲みに行くのにここで飯食ってていいのか?
「那津に拒否権は無いから。」
…んで、どうやら君の中では私は人間じゃないらしいな、国崎。
そんな横暴が許されるとでも?
「いや、普通に拒否したいんですけど。」
「えぇーー!?何でぇー?」
キッパリと否定の意を伝えると、駄々っ子のように頬を膨らます水谷。
いやいや、全然可愛くないから。
「…友達になった覚え、無いし。」
「今なったじゃんか。
そう重く考える必要は無いって。楽しくお話して、仲良くなったらもうダチ。
Take it easy. OK? 」
斎藤はニッコリ笑って、私の方を見た。
…最後、無駄に発音いいな、君。ムカツクわ。
どうにもよろしくない展開に私は内心、頭を抱える。
えっと、どうすりゃいいかな、これ。
とにかく『友達にならない』ルートに持っていきたいんだけど。
――とすると、
「……そういや、君ら、彼女とかいるワケ?」
悩んだ末、私はガラッと話を変えた。新たな突破口を模索だ。
いるだろ、彼女の1人や2人や3人。セフレでも構わんから、いるって言え。逃げ道が、欲しい。
―だが、
「俺、いない。」
「最後に別れたのは、2か月前かな。」
「俺は、かれこれ1年くらいいませんね。」
「セフレも随分前に、全員切ったしなあ。」
希望はブクブクと沈んでいった。……撃沈。
そっか。女子共が群がるのは全員がフリーだからか。私、さらに不利じゃん。
「…作る予定は?」
てか、作れ。
「ナニナニ~?立候補してくれるの~?」
水谷がちゃかしてそう言うと、
「信二、一遍死ぬか?」
何故か口を挟んできた国崎が怒った。
…この人、友達相手にこんな冷たい視線送れるんだ……!
「冗談だってー。」
―しかし、あまり気にした様子の無い水谷。慣れてるのか。
「…まぁ、欲しいと思ったら作るけどさぁ、今んトコ、予定ナシかな。」
「だから、安心していいですよ、ナツさん。」
斎藤と乾が笑いながらまとめる。
う。見抜かれてたか。
彼女いるんなら、仲いい女友達とか、気まずくね?…と、いうわけで辞退しまーす☆作戦。
「…………。」
意気消沈。私は無言でじっと自分の膝を見る。
どうやったら誘いを断れるか、思考をめぐらすが、全然コイツらに勝てる気がしない。
っああ!面倒くさ!!
――それにしても、しつこい。しつこすぎる。
国崎の時も思ったが、何でここまで食いつく?
基本、来る者拒まず・去る者追わず体制じゃないのか?君らは。それとも恋愛と友情は別なのか?
…こんな女、面倒臭いって言って、捨ててくれればいいのに。
―じっと、あらぬ方向を睨みつけていた私に、ふいに水谷が話しかけてきた。
「…聖悟と宏樹に聞いたんだけどさ、ナッちゃん、人嫌いで目立つのが嫌なんだろ?あと寄ってくる女の子たちが怖いとか。別に、俺らと一緒にいることが嫌ってワケじゃないんだよな?」
瞬間、苦いカオをしてしまう。
…ゲ、そう捉えたか。しかし、
『君らとトモダチ』=『目立つ、女子の目の敵にされる』
の方程式が成り立つこと分かってんのか?
「ならさ、俺らが女の子たちをうまーくあしらえば済む話じゃん。」
「その『うまく』が大変なんですけどね…。」
「圭は女子嫌いだからなー。でもなんとかなるでしょ。」
「…まあ、」
からからと陽気に笑う水谷に、やや同意する乾…
い、いかん。このままだと、ノンストップで流されてしまう!!
異議あり!!!
「…ちょ、待て。だから私は1人がいいんだってば!君らとも、誰とも付き合いたくないの!!分かる!?」
私、必死。
――しばらくの静寂。
私が必死に反論した後、4人と私は黙り込んだ。しかし、次の国崎の行動によってソレは破られる。
「ちょっと、来い。」
「……え?は!?」
「ちょっと、外出てくるわ。お前ら先に、居酒屋行ってて。」
国崎は3人の了承も聞かないまま、私の腕を引っ掴んで外に連れ出した。
私はただ引かれるままだ。いきなりのことで、頭がついてかない。
は?え?こ、コイツ、何するつもりだ?なんか怖いんだけど!
「座って。」
行き着いた先は、ファミレスの裏にある公園のベンチ。
小さな公園だからか、人はいない。
「……何。」
不信感を全面に出す私。いいから、と国崎が催促するので私はしぶしぶ座った。
「……。」
「……。」
座ったまま、お互い無言を貫く。
…ナンだよ。連れて来たんだったら、なんか話せよ。
すぐ隣に座っている男の方に首を傾けると、ちょうど国崎も私を見ているのに気付いた。
形の良い唇が縦に開く。
「…那津ってさ。ホント変な女だよな。」
「あ?」
聞き違いかとも思ったが、確かに彼の口から放たれた言葉。
――考えたセリフが、それか?ボキャブラリが貧困ですこと。
とはいえ、馬鹿にされたのに変わりはない。多少、苛立ったような気持ちになった。
「失礼だな。変わってんのは、重々承知だよ。…で、そんなヤツをここまで呼ぶとはどういう了見?」
「…いや、なんとなく。」
「気分かよ!」
気まぐれに付き合わせんなよ!何かと思ったじゃん!!
「那津。」
「…だから、何――」
と、そこで私のセリフは止まった。
…国崎に、いきなり片手を掴まれたのだ。顔もかなり近い。
――相変わらず行動が唐突なヤツだ。少しは心の準備期間をくれよ、アホが。
それでも目は逸らさずに国崎に向かって何だ、と問う。
すると国崎は、一瞬目を逸らし、
「…那津って、弱いよな。」
呟いた。