03
ひと通り、言い終えた。息もつかず言ったからか呼吸が苦しく、肩を大きく上下させる。
――本当に、私らしくない。乱されっぱなしとかなんてカッコつかないんだ。
しかも結構大きな声でさけんでしまった……
恥ずかしい。酷いザマだ。
「…言いたいことは、全部言ったか?」
「!…う、ん」
静寂の中、イキナリ発せられた国崎の声に少しびっくりし、私は1拍おいて国崎の顔を睨みあげた、が…
ヤツは口角を上げ、嬉しそうに笑っていた。
「……は?」
国崎の不可解な表情に、眉をひそめる私。
なに?Mか?君。罵倒が好きなんて、そんな本格的な変態だったのか?
だがそんなアホらしい思考も長くは続かず。
一瞬ふわりと国崎のにおいがした、と思ったら、
私はヤツの腕に包まれていた。
「――!」
国崎の体が近い。互いの心臓の音も聞こえそうな距離。私は身動きすらできずに固まってしまった。
――これは、どういう意味だ。
昨日のプレイバックか?こういうのを、ヤメロってんのに。
ぜんぜん、分かってない!
「っどけ!離せ!!」
ドンドンと、胸板を力いっぱい叩くが昨日のようにすんなりと離れてくれない。
それどころかさらに力を入れて抱き締められる。
っうあーっ、ヤメロヤメロ!!苦しいぃい!
「那津、」
抱き締めたまま、国崎がささやく。
なんだ!ハナせ!!
「…そんなに、俺のこと考えてくれてたんだ?」
~~!
傍から聞いても明らかに嬉しそうな声に、一気に体温が上がる。
…っなんだ、自意識過剰だろ!この俺様が!!そういう…恋愛的な意味じゃ、ねぇし!!
嬉しそうに笑ってんじゃねぇよ。殺すぞ。
「ちっ…違うし!誰が君のことなんか!」
うっわキモ。何だ私、何だその返答。
今時、ツンデレの人もこんなん言わないよ。
「可愛い。」
クスクスと、さらにヤツは笑う。
――その様子に、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。なんだか馬鹿にされたような気がしてイラッとくる。
私がこんなに焦って、ドキドキ(?)してんのにコイツの余裕そうな態度。
…そりゃあ、百戦錬磨の国崎君は怖いもんナシでしょうけど、私は人生のサブロードを地味に地味に生きてきたワケですよ、19年間。
気まぐれとか、ちょっとからかってやろう精神でこんなんをやられても、困る。
「……国崎。」
「ん?」
げしっっ!!!
ひとこと断りを入れ、私は国崎の革靴を思いっきり踏みつけた。……カカトで。
「―――!!?」
国崎は声にならない声を出し、抱いていた腕を緩めた。
その隙に、私はヤツから脱出。ステップを踏み、国崎から遠ざかる。
…ふう、心臓確保。ザマァみやがれ変態国崎。
「っ、那津……。」
余程痛かったのか恨めしそうに私を呼ぶ声が聞こえたが、フンと鼻を鳴らして冷たい目線を彼に向けた。
「君が悪い。」
先ほどと全く同じセリフを、今度はややスッキリとした気分で言う。
――そうだ、コイツは変態なんだ。マトモな神経で相手したら負けだ。何を血迷ってたんだ、私は。
思考を転換させ体も国崎の方へ向けて、ヤツを見下ろす。
なんか視界がクリアになった気がする。
―よかった、これぞ本来の私だ。戻ってきた。
私が仁王立ちしてたたずんでいると、ふいに複数人の足音が聞こえた。
「ナツちゃん!聖悟!こんな所にいたー!!」
斎藤だ。後ろから水谷信二と乾圭太朗も歩いて来るのが見える。
あーあ、オールスター揃っちゃったじゃん。
嘆息したくなるのを堪え彼らが来るのを待っていると、斎藤が私に向かって手を振る。
「ナツちゃん!今朝ぶり!どう、調子は?」
黙れ斎藤。こんな醜態をさらしたのは、元はと言えば君のせいだ。
「え、宏樹、ナッちゃんと会ったの?いいな~。ね、今度俺とも駄弁ろうよ。」
見た目通り中身もチャラいな、水谷。そんな予定は作りたくない。
「とりあえず外に出ましょうか。ここにいると、また昨日の二の舞になりますよ。」
あ、やっぱりこの人が1番常識人だ。乾のもっともな意見に、私は頷く。
ちらっと後方を見ると、女子がちらほらと集まってきていた。…恐ろしいことに。
「…あ、そう。じゃあ私は、これで。」
もう昨日のように強制逃亡は図りたくない。私は颯爽と右手を挙げて去ろうとする。
「どこ、行くんだよ。」
…やはり、国崎からストップがかかったが。
あ、やっぱり?つーかこれで通算何度目?
彼はどうやら足の痛みから解放されたらしい。足を軽く振りながらこちらに来た。
ずっと沈んでてくれて良かったのに…。
「…だって見てよ、あの女子軍。私100%カンケーないし巻き込まれたく無いから。」
冷静な声でそう反論する私。
正論だ。…正論だろう?単なる自己防衛のためだから。とっとと行かせてくれ。
――だが。
「…悪いけど、ソレ、無理。」
「は?」
「どうも…囲まれたみたいですね。相変わらずスゴい方々だ。」
―!
乾のその声に、私は絶句する。
こんな短時間で…だと?どんだけネットワークが繋がってるんだよ!?
てか、なにしみじみと言ってんだ!乾!
「んじゃ、逃げっぞ。」
「!?」
国崎がそう言うのと同時に、私の体は宙に浮いた。
はぁ!?な、なんだ、なんだぁ!?
混乱の中突如変わった視界。お腹辺りに圧迫感があり、足は投げ出されたまま。
そう、ヤツが私を抱きあげ左肩にのせたのだ。簡単に言うと米俵のように担がれている状態。
「…ちょっ、何してんの!降ろせ!」
私は足をバタバタと動かして、叫ぶ。
―が。
「ヒュー♪聖悟、やるねぇ。」
「じゃ、行きますか。」
「裏門イケそう?」
「一気に抜けるぞ。」
彼らに『聞く耳』は無いらしい。いや、人の話聞けよ。何で私も、逃亡班に編成されてんの?
――勝手なヤツらばっかだな、マジで。
そうやって私を無視し、2言3言、言葉を交わした後、4人は走り出した。…+私。
かなりのスピードだ。周りの景色がビュンビュン流れていく。
「っわーー!速いっ!速いって!!落ーちーるー!!」
「うるせぇ。あの女共の中に落とすぞ。」
「!!」
ひぃっ!!ドS再臨!!そうくると私は黙るしか無いじゃん!!
あとの3人もクスクス笑いながらも、余裕でついて来る。四方八方から迫り来る女子を避けながら……
…って女子、怖っ!!
「き…君ら、いつもこんな感じなの!?」
思わず、走る彼らに問いかける。
や、これ異常だろ。
よく1年間同じ大学にいて気付かなかったな、私。
「んー?いつもよりは、ちょっと激しいかもなー。」
『ちょっと』、なんですか?水谷君!!
「この学部は初めて来たから興奮してるだけでしょ。理系学部の子も、初めはこんなんだったんじゃない?」
…はぁ、そうですか。スゲェ。マジでアイドル並みだ。
「ゴチャゴチャ言ってねぇで、走れ。」
4人(+私)は、文字通り女子軍団の中を駆け抜けた。
もちろん、女子の皆さんは1人残らず私を睨んで行きましたよ、ええ。
明日からどうしよう。死亡フラグ何本か立ったな、こりゃ…。
……。
いや、明日にはもうこの世にはいないかも…。過激派に爆撃されるとか?
…あぁ、思えば短い生涯だったな……。ゴメン、兄ちゃん。私は先に逝きます―――
「…那津?聞いてんの?」
私が遠い目をしていたら、国崎に話しかけられた。
…何さ。私は帰って遺書を作成しなきゃ―――
「那津がいいなら、俺はこのままでもいいけど。」
…え。
そう言われて今の状況を確認すると、→国崎に担がれたまま、校門前。
「……わぁっ!?降ろせ!」
一瞬の沈黙の後、私は再び暴れ出す。
そうじゃん!何、この体勢!女子軍のせいで、すっかり忘れてたぁ!
「ハイハイ。」
喚く暇なく、今度は素直に降ろされた。すとん、と両足そろってコンクリートを踏みしめる。
…ハァ、良かった。久しぶりに地面と再会……。
「はは、ナッちゃん可愛いな。顔、真っ赤ー。」
「…見んな、水谷。」
―と、思ったら水谷に顔を覗きこまれた。どうやら私はすぐ赤面するらしい。
しょうがないじゃん。なんたって男性経験0女ですから。
「…うん。やっぱりそっちの方が素敵ですよ、ナツさん。なんか生き生きしてます。」
不機嫌な私の顔をまた覗きこみ、上品に微笑む乾。
へ?そっちって、なに。地が?こんな、毒舌で陰気なんが?
頭の上にハテナマークを飛ばしていると、また笑われた。
…なんか、感じ悪。やっぱりこの人たち、私と感覚違う。
「おい、圭太朗。口説いてんなよ。それよかどっか店入らない?俺、腹減っちゃった。」
唐突にそう斎藤が提案したので、私たちは近くのファミレスに入ることになった。
…そう。私も強制連行だ。
帰らせろ。
最近、家が恋しくて仕方ないのは、気のせいでは無いだろう。