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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
11/126

混乱




PLLL…PLLL…


私の携帯から固定着信音が鳴り響く。のそっと起き上がりぼやける視界の中、時計を確認。

只今の時刻…5時、12分………


誰だ、こんな時間に。非常識な。どうせイタズラ電話だろう。もう少し寝よう。

私は無視を決め込むと、再度布団にもぐりこむ。


PLLL… PLLL…


…コールが長い。もう20コールは鳴ったんじゃないか?いい加減あきらめろよ。


PLLL…PLLL…


長い…長い…なが……


PLLL… PL‥「あーっもう!誰だ、こんな朝っぱらから!」

相当ムカついていたので、私は相手が誰かも確認せずに電話に出た。


ウザい、ウザい!私の安眠を妨害すんな!


「だれ…」

『俺。今日、お前んとこ行くから。』


プツッ……ツーツー…


そうひとこと残して、電話は切られた。


……………。……は?


なに、この謎の着信。おそるおそる着信履歴を見ると、[国崎聖悟]の文字が。


…国崎。お前には、常識というものは無いのか?いや、私に何か恨みでも?

覚えは……あるけどさ。


いやそれより、さっきのヤツの言葉だ。…今日、来るって?

オイオイ、午前5時に送る冗談にしちゃヘビー過ぎんだろ。

…え、本当?マジッスか。しかも決定?決定なんスか。

大学、休みてぇ………


一気に脱力した私は、枕に頭を押しつけ、がくりとうなだれた。





重い足取りでキッチンまで足を運ぶ。誰かさんのおかげで、すっかり目が覚めてしまった。

冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを飲むと、冷たい水が私を潤してくれる。


無駄に早起きしちゃったか……

どうしよう。今からまた寝たら、起きられなくなりそうだし。


んー。


―1分ほどの思考の後、私は早朝の散歩に出ることに決めた。

何気に散歩は好きだ。走るのは苦手だが。


パジャマを脱ぎ、ジャージの上下に着替える。こんな朝なら誰にも会わないだろうと予測し、顔を洗ってすっぴんのまま外に繰り出した。元々、化粧はそんなする方じゃ無いけど。





外はまだ薄暗く、日が出てまだ間もない、といったところ。

通りには誰もいないし、日中渋滞する交通路も今の時間帯は車がまばらにしか走ってない。

私は新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、歩き出した。


あぁ…久しぶりに散歩するけど、なんか気持ちいいな。少し肌寒い気のする気温も、街路樹の青々とした様子も、私には好ましい。


――そう。私にはやっぱりこういう、1人のゆったりとした空間が合う。

若者のくせにババくさいとか思われるかもしれないが、こうした時間が何よりも好きだ。

…最近、少し余裕が無かったのかもしれない。ここらでリラックスしとこう。


――1人でいる、セカイ。

このスタイルを変えるつもりはない。やっと手に入れた私の自由だ。みすみす逃すものか。


そう、改めて願った。





大通りを歩き、交差点に差し掛かる。

ほとんどの店はまだ閉店中だ。いつもは活気にあふれるショップ街も今は閑散としていた。

ちょっと立ち止まって腕時計を見る。

…6時ちょっと過ぎ、か。

まだまだ時間には余裕があるな、といつもは歩かない道を通ってみることにした。


そう決め、歩き出すこと10分。



「あれ、ナツちゃん?」



早くも後悔した。何故まっすぐ帰らなかった、自分。


――目の前には、今最も会いたくない3…いや、4人の中の1人。

斎藤 宏樹がいた。

私と同じくジャージ姿。額には汗が浮かんでいる。


「ナツちゃん、家この辺なの?」


わ、なんかいきなり親しげに話しかけてきた。…爽やかだ。背景がなんかキラキラしてる。


「…はあ、一応。」


一応って。何だ、自分。


「へぇ。朝の散歩中?」

「あ、今日は珍しく早起きしたんで。斎藤君は、ロードワーク中ですか?」

「うん、そう。あー…敬語はいいよ、同い年だし。なんか、他人行儀でヤダなー。」


言いながら、笑顔を向けられる。

…るっせ。私はその一線を引きたいんだって。


「遠慮します。」


私も作り笑いを浮かべる。


「えー、聖悟にはタメだったのにー?」


ここでアイツを出すな。てか黙れ。もうどっか行け。

心の中で毒づくも、全く効果は見られない。

にこにこと笑う彼は、なんで?とまた聞き返してきた。


「…国崎は、ムカツクから。」


なんかいい理由が思いつかず、とりあえず、そう言う。


「ハハッ、ムカツクって…。そんなこと言う女子、ナツちゃんくらいだよ。」


そっスか。ソイツは、私の中で呪いたい奴堂々の1位なんですが。


「…あ、えっと、ランニングの邪魔ですよね。失礼します。」


会話を無理矢理中断させて帰ろうと、来た道を戻ろうとするも、


「まぁ、待ってよ。」


と、斎藤が立ちふさがった。

…うわコイツ、身長でかい。180後半はありそう。


「…何ですか。」


身長差に怯みながらも、そう言葉を吐く。少し不機嫌が混ざったのを知られたかもしれないが、まあいいや。


「あのさ、メール読んだんだけど…俺たちとつるむの、そんなに嫌?」


斎藤は笑っていたが真剣な口調でそう聞いてきた。

―ああもう、この際はっきり言っておこうか。


「嫌です。」

「キッパリ言うね。何で?」

「何でも何も…、貴方たちといると私の生活が乱れるんです。」


そうだ、私の平穏を返せ。利子つけて。


「あー、それはそうかもね。素のナツちゃん、目立つの苦手そうだし。」

「そうです。カラオケでの私は死にましたから。私を相手にしてもつまらないですよ?」

「そんなことないよ。」


――は?


「は?」


意味を量りかねて思わず声に出して聞き返してしまった。慌てて口を塞ぐももう遅い。

斎藤はくすっと笑って私に目を向けた。


「俺たちはさ、確かにカラオケでの君を見て面白いなって思ったけど、それだけじゃわざわざ友達になろうなんてサムいこと言わないよ。」


…サムい自覚はあったのか。


「…じゃ、何故?」

「聖悟がさ。気に入ったって言ってるんだよ、君のこと。

あいつ、めちゃくちゃモテるからさ恋愛関係はどっか冷めてんだよ。でもナツちゃんに関しては、自分から関わりたいらしいんだ。」


は?え、何それ。

だから、気に入ったって…それは私のキャラの話でしょ?

…てか恋愛って、ナニ。何の妄想トーク?これ。


「しかも素の方がずっと魅力的なのに、わざわざ性格作ってる所も面白いって。俺、絶対アレがナツちゃんの素だと思ったのにさあ…。聖悟ってスゴイよねー。」


カラカラと笑う斎藤。対照的に、私は顔面が赤くなったり青くなったりと忙しい。


な、なに言っちゃてんの、斎藤……いや国崎、か?

冗談にしてもキモ過ぎるぞ。私を掴まえてミリョクテキて。

やっぱり、目…いや脳が腐ってたんだ。可哀そうなヤツだ。


「…それで、俺や他のヤツらも興味が湧いたの。今までの子とは全然違うし、ナツちゃん。」


1歩、斎藤は前に出てきた。

…な、何さ!



「俺も、君が気になるよ。」



―オレモ、キミガキニナルヨ―


………。

……ちょ、待て。

これ、なんてギャルゲ?今流行りの乙女ゲーか?それで、今、主人公が『きゅん』とかなる場面?

アホか、お前ら全員!国崎にも思ったことだが、現実でそんなこと、やっちゃダメ!!

そして、相手が私とかやめようか!絶対、合わない!


私は真っ赤になってるであろう顔をぶんぶんと振り、ハッと気付く。


!!まさか、コイツ…天然タラシとか!?

性質悪ぃ!!しかもソレにいちいち反応する私って!!!


容量いっぱいになった使えない私の脳はエラーを掲げ、私は。


「…るっさいわ、ボケ!私は君らのことなんか知らん!!

あと、そういうセリフは、もっと乙女な君んとこのファンに言ってやれ!

きっと泣いて喜んでくれるからぁ!!」


恥ずかしいやら、屈辱やらでかなりの暴言を吐いてしまった。

叫んだ直後、あ、しくった。と思う。しかし時すでに遅し。


「ククッ、それが素ー?やっぱいいわ、ナツちゃん。」


斎藤に爽やかに笑われた。私は自分の行動が恥ずかしくなり、俯く。

…うう。私って、こんな短絡的な人間だったか?

いつも自爆してる気がするよ……自重せねば。


「…っとにかく、もう帰る!斎藤!君なんか、もう2度と会いたくないわー!!」


悪役の捨てゼリフを言い残して、走り去る。

視界の隅で斎藤が手を振っているのが見えた。




………っ。

本当に私、最近走ってばっかりだ。苦しい。心臓が、うるさい。

あの天然タラシ、何て事言いやがる。


――素の方が魅力的


 聖悟がさ、気に入ったって


関わりたいらしい


  君が気になるよ


      『那津。』



「~~っ!」


顔がボッと赤くなる。き、昨日の国崎が出てきた…

…何だコレ。制御不能だ。

からかうのはもう止めてくれよ。心臓がヤバい。


「…破壊力、ありすぎ。」


私は、混乱した。

ぐるぐるのごちゃごちゃの、混沌とした渦の中にいるようだ。


――かき乱される。アイツに。






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