ショートストーリーそのさん
息抜きショートです。
小話的なものなので、軽く読んでください。
SS「翌日の聖悟&那津」
※前話「風邪っぴき」の後日談です。会話形式。
pipipipi……
「お、36度4分だと。よかったな、熱が下がって。」
「まあ、おかげさまでね。」
「明日は大学に来れるだろ?授業終わったら校門のところで待っとけ。送るから。」
「いや、そこまでしなくても徒歩で帰ってこれ……ああ、嘘です、ハイ、待ってます。」
「よろしい。」
一瞬、殺気のようなものを感じた那津が即座に言いなおすと、聖悟は満足そうに頷いた。
那津は、はーっと息を吐いた後ジロリと下から彼を見上げる。
「―で、なんで君は風邪になってないわけ。」
「あー、お前ほど身体弱くねぇから、俺。」
「そこはかかっとけよ、テンプレートだろ。」
「テンプ通りに行かないのがこの作品だろ?…そういや俺、ここ数年風邪ひいてなかったし。」
「(この体力バカが…)」
「なんか言ったか?」
「イエ、何も。…しかしまあ、風邪引かなくてよかったじゃない。」
「ちょっと残念だけどな。俺も那津に甘えたかった。」
「健康が一番でしょ。つーかいつものアレで甘えてないって言うの…?」
「ああ、そうか。代わりに甘やかしてくれるのか?」
「え。そんなこと一言も」
「なー、那津ちゃん。俺、お前にやってほしいことあるんだけどー」
「え、ちょ、」
「これつけて?」
「い、いやだ。」
「いいだろ、これくらい?なあ、那津?」
「嫌だ、断る!わああ!病人に乱暴反対ぃいい!」
END(那津逃亡)
SS「ホラー映画鑑賞会」
「ホラー映画、見ない?」
「は?」
那津が頭をあげると、水谷はにっこりと笑った。
時刻は午後2時30分。
今日の分の授業が終わり、カフェにて優雅に午後のティータイムを楽しんでいたところに話しかけられたのだ。那津は文庫本を閉じ、眉をしかめる。
「何それ、嫌。」
「うわ、即答かよ。もう少し話聞く気はないの?」
「ないね。つか、邪魔。どっか行け。」
しっしっと腕を振って図々しく目の前の席に腰をかけた男を追い払おうとする。
那津のじっとりとした視線を受け、水谷は『相変わらずだなー』と苦笑し、口を開いた。
「あのさ、去年くらいに流行ったホラー映画、知ってる?」
「何話し始めてんの、聞かないって言ってるのに。」
「俺、そのDVD借りて来たからさ、今からナッちゃんも一緒に見ようぜ。」
「無視か。」
「ほら、時間軸的には夏だろ?今。ぴったりじゃん。」
「時間軸とか言うな、カス。」
苛立ち交じりに男に向かって本を投げる那津。それを水谷は悠々と避けるのでさらに彼女のイライラは増した。
―マジで死ねよ、こいつ。私の時間を邪魔するなよ。
「いーじゃん、どうせ暇だろー?」
「暇じゃない、今日バイトあるし。」
「いや、ないだろ?聖悟が今日はシフト入ってないって言ってた。」
「…なんであいつ、私のシフト把握してんの。」
「さあ?」
嘘を即座に見破られて黙る那津を、水谷はにやにやとした顔つきで覗きこむ。
那津は心の中でチッと舌打ちを打った。
「じゃ、行こうか。」
「って、ちょっと待て。私何も言ってないんだけど。」
「いや、聖悟がさ、『どうせ拒否するだろうから無理矢理にでも連れて来たらいい』って。」
「つまりはまた強制か!?…ちょ、わあ!」
「はいはい、動かないの。うっわ、ナッちゃん軽っ!」
「放せ!こら!」
ひょいと体が宙に浮き、俵担ぎされる。まあ、お決まりのパターンとなりつつあるが。
那津はやっぱり水谷に連れられて彼らの城―自宅へと連れ攫われるのであった。
――
「ただいまー」
「お、連れて来た?」
「おう、この通り!」
「流石ですね。―こんにちは、ナツさん。」
「…はろー。」
水谷は戦果報告のように自慢げに連れて来た那津を見せびらかす。
対する本人は『これで何回目だよ…もうヤダこいつら』と頭の中でぼやいていた。
「…いつまで抱えてんだよ、放せ。」
「あだっ!」
―が、つかつかと近寄ってきた聖悟に殴られ、一瞬で戦利品を取り上げられた。
正面から抱きとめられ、那津は聖悟の胸の中に飛び込む。
顔を上げるといつもの不敵な笑みを浮かべる聖悟が見え、那津はむっとした表情を作った。
「…人を物扱いしないでくれるかな。」
「ん?じゃあナニ扱いがいいって?」
「あ、ごめん。すいませんでした。そういうフラグとか別にいいんでっ!」
しかし、口でこの男を言い負かせられるわけがない。
那津はさっと顔色をなくし、怪しい雰囲気になる前に、と平謝りした。
「よし、じゃあ始めっか、『一番のビビリは誰か決定戦』!」
「あれ、そういう名目なんだこの企画。」
「こういうホラー苦手なやつとかいるだろ、絶対。で、5人それぞれの反応を見てみよう!…って。」
「誰が言ったのさ、それ。つまんない。」
「企画倒れもいいところだな。」
「ちょ、ナッちゃんも聖悟もそう言ってやるなって。作者が傷つくだろ。」
「いいよ別に。ネタが尽きかけて更新停滞してるヘボ作者なんか。」
「あれ、なんでだろう。なんか涙出て来た……」
何故か瞳が潤みだす水谷は放置して、斎藤と乾はいそいそと映画鑑賞の準備をすすめた。
――さて、気を取り直して。
―ポップコーンにジュース、クッション。
映画鑑賞に必要なグッズを撒き散らして、全員がソファの周りに座った。
水谷がレンタルビデオ店の袋からDVDを取りだし、デッキに入れる。
すぐに再生画面がテレビに映し出された。
「ほい、再生っと。」
「それ、幽霊の呪いが感染していく内容の映画…でしたっけ?」
「あれ、殺人鬼が出てくる洋画じゃないの?」
「あー圭が言ってるやつが正解。約120分の邦画。」
「意外に長いな。…こりゃいい。」
「あれ、聖悟ホラー好きだっけ?」
「さあな。」
ニヤリと笑う聖悟にぞくっと悪寒が走る那津。
―な、なんか嫌な予感が……
思わず抱えたクッションを握りしめてしまった。
「那津、おいで。」
「ど、どこに…?」
「ほら、ここだよ。お前の定位置だろ。」
「いつから君の膝の上が定位置になったんデスカ、私は。」
「今。いいから来いよ。」
と言われて、強引に腕を引かれ聖悟の膝の上に腰を下ろした那津。
後ろから腰に手をまわされてぎゅっと抱きしめられる。
にこにこと笑顔を崩さない彼に対し、嫌な予感が全く治まらず、ぞくぞくと鳥肌までたつ始末だった。
「…ちょっと、何をする気?」
「いや?抱き枕替わり。俺もホラー怖いからさ、なにか抱えてねーと。」
「嘘つけ!」
ぎゃあぎゃあ至近距離で言いあいを始める彼らを、他の3人は生温かい目で見ながら、ぼりぼりとお菓子をむさぼっていた。
―その内に映画が始まる。
***********
―舞台は経営不振から倒産し、廃墟となった廃病院。
そこに夜な夜な女のすすり泣く声が聞こえるというベタな噂に食いつき、男女6人が噂の真偽を確かめようと出かけるところから始まる。
しかし面白半分で訪れたその場所で、思いもよらない出来事が……
そんな内容の映画が放映される室内。
「うわあああっ!びびったあ…そこで後ろから来るかよ…」
「―!意外とよく出来てますね、これ。」
時折叫び声を上げながら、気分を盛り上げるために電気を消した室内で、5人は真剣に映画を観ていた。
……否、約一名は除くが。
「あー怖いな、那津。」
「っちょっと、どこ触って…っ」
「いいから、前見てろって。ほら、幽霊が出たぞー」
「棒読み!?全然怖がってないしっ!おいこらっ!」
もぞもぞと手を動かし、暗闇を利用して那津に悪戯をする聖悟。完全にホラー映画そっちのけである。
緊張感あふれる場面や絶叫シーンでもまったく気にする様子はない。
―だから嫌な予感がしたんだってばぁ!!
…そして、那津も最早映画どころではない。両手を駆使し、どうにか背後の男から逃れようと必死だ。
結局、そうこうしている内に、映画は終わってしまった。
おどろおどろしい曲とともにエンドロールが流れる。
水谷は、はあーっと息をはいた。
「ああ~終わったー。案外怖かったな。流石、話題作って感じ。」
「そうですね。結構よく作られたシナリオでしたよ。」
「冷静だな、圭はー。俺、結構絶叫しちゃったよ。…あれ、ナッちゃんどうしたの?」
「………無駄に、疲れた…」
「なんで?」
「驚きすぎて心臓が疲れた、ってことだろ。」
「そうなんですか?」
「意外とビビリだねー。」
「あ、もういいよ、それで……」
ぐったりとする那津に何故か生き生きとしている聖悟。男子たちは首を傾げた。
「しかし、やっぱりこの企画失敗だったね。絶叫してたの、無駄にリアクションがでかい水谷ぐらいだったじゃん。」
「ちょっと、無駄はないでしょ無駄はー。」
「まあ、確かに。大の大人がそう簡単に怖がるわけないよなー。」
「…はは、そうだね。」
DVDをデッキから取り出し、ケースにしまうと水谷はそう言って笑った。他の者も賛同し、今度はアクションものでも見るかーなどと話し合った。
その後、流れで夕食を5人で食べ、
那津は聖悟に送られて自宅に戻り、乾も同じフロアの部屋に戻った。
室内には後片付けをする水谷と斎藤が残る。テーブルを拭いていると、斎藤はおもむろに隣の男に声をかけた。
「ね、信二……」
「ん?どうした宏樹。」
「…今日、隣で寝ていい?」
「―は?」
END
おまけ
『一番のビビリは誰か決定戦』
選外
国崎聖悟
「那津って耳柔らけーのな。」←映画観てない
本城那津
「うわああ!舐めるなぁ!て、手を動かすな!」←映画どころじゃない
3位
乾圭太朗
「(ふーん。ここで幽霊の呪いが発動して、後半に謎解きですかね。もうキーアイテムも出たし、フラグは何本かたってますが…)」←冷静に展開を予想・分析
2位
水谷信二
「わああああ!うっわやっべ、超びびった!今のねーわ、マジねーわ!!」←純粋に映画を満喫。絶叫シーンで必ず大声を上げる
そして……
1位
斎藤宏樹
「(ヤバい、今日トイレ行けないかもしれない……)」←ホラー超不得意。ビビって声も上げられず