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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
10/126

02




ぶつくさと文句を言うも、結局送ってしまったものは仕方がない。

私がついには黙って窓の外を覗きこんだ。


――車がS大を通り過ぎる。私の家まではもう目と鼻の先だ。

しばらくして、ふて腐れている私に国崎はまた話しかけてきた。


「…分からねーんだけど、お前何がそこまで嫌なワケ?」

「何がって…何が?」

「質問を質問で返すな。何で俺らとダチになんのが嫌なのかって、聞いてんの。」


何だ、そんなこと。…んなの、答えは1つ。


「私は、君らと関わりたくないからだよ。」

「……。」


国崎は黙って私の方を見た。…運転中は前を見ようぜ?


「…あ、別に君たちにだけじゃないよ。私は誰とも交流しない。1人でいたいだけ。」


―言っただろ?私に友人はいらない。私には一匹狼がお似合い。

大学に入ってようやく自由になれたんだ。私は、このまま普通に過ごしていきたいだけだから。

――どうか、このまま放っといて下さいよ。


国崎の綺麗な眉根にしわが寄る。ハンドルを握ったまま、彼は口を開いた。


「…人嫌い、か?」

「あー別にトラウマとかそんな大層な過去はないけど、多分そうかな。…だから、君たちのお友達にはなれません。ごめんなさい。」


国崎と目線を合わせペコリと頭を下げた。そのままの姿勢を保ちつつ、男の反応を待つ。


…ここまで人が真摯になって謝ってんだ。そろそろ私のことなんか諦めて、他のもっとキャラの強い子でも見つけてはくれまいか。そっちと遊んだ方がよっぽど面白いと思うぞ?私なんかより。


そう願いながら待っていると、国崎が静かに口を開いた。


「それで?」

「…は?」


『それで』とは何ぞや。これ以上話すことなど何も無いが。


「それで…俺たちが納得するとでも思ってんの?」


……え?

目を瞬かせる私に彼の眼差しが重なる。どこか暗い色を施したソレは私を真っ直ぐ見ていた。


「那津、もう1回言うけど、」


赤信号で車が止まる。同時に国崎は私の方へ身を乗り出した。



「『俺は』、お前を気に入った。そう簡単に逃げられると思うなよ?」



……!?

私は再びフリーズした。顔もひきつってたかもしれない。

隣で国崎はフッと笑うと、前を向いて運転を再開した。


………こ、

この…


オレサマがぁああーーー!!!?


嘘だろ?なんでそうなる?

普通、『あ、そう。じゃあな。』で済む問題だろうが!

男前はそんな執着なさそうって、私の勝手な妄想だったのか?いくら私が君に興味ないからって、イケてるメンズのプライドなんて発動させなくていいから!!

マジでうぜぇええ!!


「…しつこい男は嫌われるよ?」


とりあえず恨みを込めてそう言ってみる。


「しつこくて結構。…さ、着いたぞ。ここじゃないか、家?」


しかし彼は意に介すことなく。さらりと流されてしまった。

って、着いた?…あ、ほんとだ。いつの間にやら。

眼前には、まさしく私の住んでいるアパート。3階建のグレーの物件。

よかった、帰ってこれた。…無傷じゃあ、無いけど。

ホッと一息ついた私を横目に、国崎はアパートの前に音も無く車を停めた。


―バタン。


私は助手席のドアを閉めて、国崎の車を降りる。そして持ち主の男も、反対側のドアから降りた。

……って、何故に?


「何で君まで降りる?」

「別に。なんとなく。」


あ、そーですか。


「あ~、じゃ、どうも送っていただいてアリガトウゴザイマシタ。」


一応お礼を言っておくとしよう。ま、人として、ね。


「何で棒読みなんだよ。誠意が感じられねェ。」


…るっせ。言ってもらえるだけマシと思えよ。今、腹わた煮えくり返ってんだから。

私は振り返って、男に向かって人指し指を突き付けた。


「…国崎。」

「?」

「君も早いとこ帰って寝て、夢から覚めた方がいいよ。君はどうやら一昨日から幻覚を見てるらしいから。」

「ったく。俺は正気だっての。何で信じねーかな。」


信じられるワケないじゃん。

こいつの今日の行動は、はっきり言って奇行としか思えない。

それか、ドラッグでもやってんのか?


「那津。」

「――!?」


ジーッと睨んでいると、突然ヤツの腕の中に引きずり込まれた。

そのままぎゅっと抱き締められる。


…本日2度目!?


「っわ!?オイ、離せ!叫ぶぞ!」

「もう叫んでるし。近所迷惑だからやめた方がいいんじゃない?」

「~~!」


てめっ!卑怯だぞ!


「ま、運賃だと思って。那津って中々抱き心地いいんだよな~。」

「デッカイぬいぐるみ、郵送してやるから!とにかく離れろぉ!」


じたばたもがいてやると、国崎は舌打ちして私を離した。

…舌打ちしたいのはこっちだっつの、こんの変人が!また顔が熱くなるじゃんか!


「っじゃ!もう帰る!」

「おぅ。また明日。」

「永遠にサヨナラ!!」


最後のヤツの言葉は無視してヤケクソ気味にそう叫ぶと、私はそのままアパートへと走った。

―残された男はしばらく立ち尽くした後、嫌な笑みを浮かべ、自分の車に飛び乗った。




「っはー…、何だっての…。」


部屋に入る。しっかりと鍵をかける。お腹がすいたので、カップラーメンにお湯を入れる。

…何やっても先の出来事が頭をかすめる。気を抜いたら、すぐに国崎の顔が浮かんでくる。


コレは、ヤバい。ヤツの毒気にあてられたようだ。

何、この脳内に占めるあのアホ男の割合の大きさ。こんな乙女脳、私じゃない。


………。


「っだーー!もう、ヤメヤメ!」


思考をブチ切って、頭をぐしゃぐしゃとかく。


やっぱり、アイツの顔が良すぎるのがいけないんだ。

あんな感じで迫られたら、誰でも、こう、ドキッとするにきまってる!私の女の部分(どうやらあったらしい)が過剰に反応してしまってるに過ぎない!

ああいう…多分、国崎にとっちゃ何でもないことに動揺する自分が腹立たしい。

私だけこんな悶々と悩んでるなんて、不公平だ!

もう、忘れてしまえ!!

そうして、私は雑念を払うため、シャワーを浴びることにした。




シャワーを浴びると、少しはスッキリした。チューハイを飲みながら髪を乾かしていると、


「……あ。」


鞄から飛び出た私の携帯電話が見えた。

そういえば…あの3人からメール、来てるかも。

まだ今日やるべきことがあったのに戦慄し、私は慌てて携帯を取り上げた。


しかし。

…うう。見たくない。

電源ボタンに触れる親指が震える。携帯片手に顔を青くしながら苦悩する私は、どう見ても不審者だ。


………。


っええい!自意識過剰だぞ。本城那津!

アドレスが渡ったからって、あっちはメールなんか打ってないかもしれないじゃん!ハイ、メールボックスは空でした☆かも!!!


そんなこんなで私は覚悟を決め、携帯の電源を入れた。



――結論から言おう。

メールなんざ3日に1通ペースの可哀想な我がブルーの携帯は、前代未聞の事態に陥っていた。


『着信 18件

新着メール 39件』


まさに驚きの数字だ。こんなに連絡がきて我が携帯もさぞ驚いただろう。

……どうすんのコレ。電源切っといて良かったわ。

着信は全部、知らない番号3つから。やはりあの3人で間違いなかろう。

ちょっとしたストーカー並みじゃあないか…お顔がすばらしく整った方々だが。


着信履歴は放置しメールを読もうと、メールボックスを開く…が。

ここで問題浮上。


私、あの人たちの名前…知らないじゃん。


どうしたものかと、あごに手を当てて、考え込む。

うーむ。

国崎のように直接聞くのは避けたい。…もう懲りたし。どーしよっかな。


―結局、考えた結果誰が誰だか分かんないが、1番古いメールから順に開けてみることにした。

文字の羅列を目で追う。


―ほとんどが、昼のときの謝罪…と明日の誘いだ。

大体書いてある内容に大差は無かったが、幸運にもなんとなく文面で顔と名前が一致した。

…いやー文章って性格出るんだな。助かった。



爽やか系黒髪ピアスの男が、

斎藤 宏樹(サイトウ ヒロキ)


チャラい茶髪スポーツマンが、

水谷 信二(ミズタニ シンジ)


ジェントル黒髪眼鏡の人が、

乾 圭太朗(イヌイ ケイタロウ)


――と言うらしい。一応ちゃんと記憶しておかねば。

しかし、この人たちも半日でよくもここまでメールを送れるもんだ。私は物臭だから、メールは基本しないのだ。


すべてのメールを読み終え、メールアドレスと携帯番号を登録し終えた私は、今度は新規メール作成画面で頭を悩ませる。


返事、どうしよう。流石にこれだけのメールを全無視する度胸は無い。

しかし…さっきも言ったが、メールは大の苦手だ。

絵文字も顔文字も、特には使用しないし。

というか事務連絡くらいにしか、メール使ったこと無いな。


――そんな女子失格の私は、苦心して同じ文面を3人に宛てて作成した。



『今日は突然逃げて、すみません。

でも女子の友達が欲しいなら、他をあたって下さい。

おやすみなさい。

         本城』



コレで、いいか?そっけなさすぎ?

いやいや、でも正直な気持ちだし。怒ってもらった方が逆にいいか。

――よし、送信。


送信完了画面を確認し私は携帯を放り投げた。そのまま自分の体も布団に投げ出す。

―なんか今日、超疲れた。まだ寝るには早い時間だがすごく眠い。


「…もう、うぜぇ……。」


思わず零れた、心の声。


もうヤダ、あいつらめんどい。…何なんだよ、トモダチって。

今まで友人なんざ数えるほどしか作ったこと無いから、よく分からねぇよ。

――面倒なことは大嫌いなのに。

もう学生時代の繰り返しはゴメンだ。なんとかして逃げ切らないと。


どうやったら、飽きてくれるのかな……

誰か、他の人紹介しようか…


…………。


そんなことを考えながら、私は微睡(マドロ)んだ。





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