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脳内計算  作者: 西山ありさ
本編
1/126

地味女、現る

はじめまして。ALISAと申します。

笑えるラブコメ目指して頑張った(?)作品です。どうぞ読んでみてください。



――車が行き交う大道り。多くの通行人が慌ただしくすれ違う。

サラリーマンのおっさん、OLのお姉さん、短いスカートの女子高生、チャラい暫定フリーター男。

たくさんの人が、それぞれの目的地に向かう。

こんなに大勢の人がみんな他人であって、それぞれの人生を生きているんだなぁとか、少し哲学的に思ったり。


ちょっと立ち止まり、また足を踏み出して歩き出す。


昨晩の雨のせいで路面は少し湿っていて水たまりが所々できていたが、見上げると雲ひとつ無い青空が広がっていた。

きれいな五月晴れだ。ピクニックにはもってこいだろう。


「……いい天気だなぁ。講義サボって散歩でもしたいなー。」


そうボヤいて空を仰ぎポケットに手を突っ込みながら通行人の一部にまぎれる女が、ひとり。


私は、本城 那津(ホンジョウ ナツ)。

19歳。一応、女。

地元を出てただ今一人暮らし中の至って普通の大学二回生だ。


……いや、普通だと思うがね、私は。

あるヒト曰く私はどうにも『一般的な女子大生』とは異なっているとか。


私のことを客観的かつ単純に例えるなら―――『陰キャラ地味女』、らしい。

ほとんど化粧もしない上に常にジーパン、黒ブチ眼鏡。テキトーにそろえた肩くらいまでの髪。

その人からは女を放棄してるとも言われたっけな……


別にいいだろうが、どーでも。個人の自由だよ、諸君。

そんなことは特に気にしてないし、こんな容姿故にめったに誰かに声をかけられはしない。

悠々自適な一匹狼として過ごしているわけだ


…寂しい奴だ、とか思っただろうが、私はこれで満足しているんだぞ。

ええ、なんの不満もありませんとも。





歩いていたら私の通うS大学がもう目の前にあった。ドンと、重厚感のある門が立っている。


退屈な講義を聴くのは実に面倒だし、精神的にも苦痛だが……

仕方ない、と肩を落として校門をまたぐ。

…今日は本屋に寄って帰ろう、うん。

何か自分にご褒美を与えないとやっていけないや。


今日の講義室の場所を思い返しながらそこそこ広い棟内を歩き回る。

――と、あった。プレートの番号を確認して中に入る。


中では14、5人くらいの男女がそれぞれのグループで仲よさげに話している。

私はサッと教室内を見渡しうるさいグループから離れた場所に座ることに…。

…おい席は詰めろよ、邪魔くさい。鞄を座席に置いてるんじゃねぇ。


そうして行き着いた先は窓際の、後ろから2番目という好位置。

…こんなことでラッキーを感じる私はきっと小さい人間だろうな。

日当たりがよく景色もよく見える。


窓の外をのぞくと中庭で大道芸まがいの――ジャグリングか、あれ――をやっている男子が数人。

…あ、失敗した。恥ずかしそう。辺りを見回している。

ゴメン、バッチリ見ちゃったよ。はは。



――そんなところでチャイムが鳴り、ハゲた英語の講師が入ってきて出欠をとる。しゃがれた、いかにも年配らしい呼び声に私は気の抜けた返事を返して、授業がスタートするのをぼんやり眺めていた。


…あーあ、つまんね。前の奴なんかゲームやってるよ。


そうぼやいていると、英語教師の抑揚のない声が響いて教室を満たす。

最初の10分くらいはマジメに聞いていたが……いかんせん、ここは気温・日当たり・先生の死角という3条件をすべて満たした神席。

当然(?)のごとく、私はゆっくりと舟を漕ぎだした。


…学生の本分?そんなの知らない。だって眠いもんは眠いんだから。





―チャイムが鳴る。どうやら授業が終わったらしい。

私はムクッと起き上がって真っ白なノート等を片づける。

そういえば、もう昼だ…。今日は学食を食べようか。

思い立った私は食堂へ行った。


学食を販売する食堂は、私の学部棟からほど近いところにあって非常に便利だ。

着いてみると、まだ早い時間だからかあまり人が見えない。

これまたラッキーだ。

私はさっとメニューに目を通し適当に手ごろなものを頼んで席についた。


学食って何気に美味い、とかぼんやりと思いつつ、のろのろと箸を進め完食。

ごちそうさまでした、日替わりランチAセット。おばちゃんもいい腕してるなあ。

ついでにコーヒーを頼み、ブラックのまま一口飲んだ。


そして、持参してきた本屋でもらったカバーつきの小説を取り出し、開いて読む。さらに携帯音楽プレイヤーのイヤホンを耳につけ、再生。


―あとは自分の世界に入るだけだ。

ゆっくりと耳に流れ出した音楽を聴きながらページを繰っていく。

1日のうち私が最も至福を感じる時間。今日もそれを存分に満喫することにする。





1時間くらい、そうしていただろうか。

人も随分と増えてきて辺りがザワザワしてきたので、私は音楽プレイヤーを止め本を閉じて席を立った。

人の多いところは好まない。集まってきたらすぐ退散。

―それが、私のルールです。

ふん、と鼻を鳴らし、こそこそとその場を後にした。


食堂から出たものの今日はまだ授業が残っているので、大学内をゆっくり散歩することにする。


外に一歩出ると、爽やかな風が春の温かな雰囲気を演出していた。

……ん、ちょっと詩人くさい表現だったか?

しかしそのくらい気持ちのいい春風の中、足を鳴らして歩くのは最高に爽快だった。

いい。この新鮮な空気。都会の汚染された空気とは無縁みたいだ。

私はそのままブラブラ歩いた。


しばらくすると始業時間間際になったので、う~んと伸びをして

午後の授業に向けてガッツを入れて、私は再び学部棟へと歩き出した。





これが私の日常である。


たらたらとつまらない授業を聞き流し、時々バイトもして、たまには家族にも連絡して……。

いや、最後のヤツは無いか。私、実家すらなかなか帰らないしなぁ。


まあ、とにかく。

こんなつまらない日常が私は心底好きだった。

誰の目にも触れられず、山も谷もない平坦な人生。

少しのラッキーで幸せになれちゃう、お手軽な毎日。

死ぬまでそうだろうと思っていたのに……


判らないのが人生なのか、それとも神サマとやらのいたずらか。


―とにかく私の日々は見事なまでに崩壊することとなる。 





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