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魔法使いの漂流者  作者: 三幸奨励
絶海孤島編
3/23

第3話 地図にない島

三度も僕を殺したあの化け物は、今やただの無残な肉の塊だ。

火球が威力補正の影響で出力を抑えるのが少し難しい。

「焦がさないように……」

小さな声でつぶやきながら、肉をじっくり焼く。

潮と血と煙が混じった匂いが鼻をつく。焼けた肉を一口かじると、重みが口に残る。

同時に体の奥に温かさがじんわり広がる感覚もあった。


夜になり、簡易的な火を囲んで座り込む。

空にはまだ残光が残り、海からの風が火の灯りを揺らす。

俺は頭の中で、ここまでのことを整理してみる。


《死に戻り》――死ねばその場で復活する。ただし時間は戻らない。同じ死因では発動できない。死因が分からないと復活できず、経験は残るが経験値はリセットされる。

「……うーん、思ったより怖いな」

『はい』

「死因を理解しないとダメってことは……」

『偶発的な即死の場合、復活は不可能になることがあります』

見えない呪詛、理解不能の力。

「……初見殺しが一番危険なのか」

苦笑する。

「結局、慎重に生きろってことか……」


次に、《認識転写》――死に戻り後、十五秒間だけ発動可能。経験値が五割未満で、理解したものだけを転写できる。

「……なるほど。かなり便利なスキルだな」

また挑め――そう言っているようだ。

ゲームみたいだが、痛みは現実だ。



翌朝、森の中を歩く。

慎重に。

少しずつ。


《波長理解》を流すと、もう慣れてきた揺らぎが視界に広がる。

木々の奥に、複数の魔力反応。

「多い……」

『小型個体が七匹です』

「七……!?」

息を潜めて後退する。今は戦うべきではない。魔物たちは追ってこない。

『賢明です』

「死に戻りがあるからって、死に急ぐ理由はないもんね」


森の奥へ進むと、開けた丘に黒い石柱が立っている。触れると、びり、と微かな振動が伝わる。

『高濃度魔力反応です』

「これの仕業なのか?」

魔物は濃度の高い魔力の物に吸い寄せられる。その濃度が高ければ高いほど強い魔物が生まれる。

この島はいったい、なんなんだ。


ふと、違和感。山の方角を《波長理解》で見やると、昨日見た空間の裂け目のような巨大な揺らぎがある。視線がこちらを見つめている。しかし襲ってはこない。試されているような感覚だ。

「あれは……どうがんばっても無理だ」

拳を握る。焦らない。死ねば強くなれる。しかし、無駄死には燃料の浪費だ。

理解してから死ね。

理解してから転写しろ。

それが、この力の本質だ。


森の奥で、昨日の狼型魔物を見つける。

白灰の毛並み。昨日、肉を受け取った個体だ。


今度はこちらから声をかける。

「昨日の肉、美味かった?」

狼は警戒しながらも、こちらを見る。


沈黙。


『補足します。《波長理解》の継続使用により、魔力波長の読み取り精度が向上しています。相手の意図をより深く拾えるようになっています』


なるほど。昨日は「肉をくれ」程度しか拾えなかった。今は、もう少し複雑な何かが届く気がする。


狼は、やがてぽつりと呟く。

「ここは、落ちた者の島」

胸がざわつく。

「落ちた?」

「選ばれ、捨てられ、流れ着く場所」

それ以上は語らず、森の奥へ消えていった。


落ちた者の島。選ばれ、捨てられた者の居場所。

「……帰れるのか、僕は」

『不明です』

即答。嘘はつかない。だが、希望も保証しない。


カルドは山を見上げる。あそこに、この島の答えがあるのだろう。

「……まずは、生き延びる」

理解を積み、再構築の準備を整える。

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