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魔法使いの漂流者  作者: 三幸奨励
絶海孤島編
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第1話 三度目

「お金がないなぁ……」

港町の石畳に腰を下ろしながら、僕――カルドは空を見上げた。

三度目だ。今月に入って三度目の討伐失敗。

「やっぱパーティー組むべきだよなぁ……」

そうは思うけど、現実は甘くない。

魔法の才能が低い僕を誘う物好きなんて、見たことがない。

ギルドの扉を押し開けると、昼下がりのざわめきが耳に刺さった。

視線が一瞬だけこちらに向いて、すぐ逸らされる。

「ごめんなさい、討伐依頼、無理でした。あはは……」

受付嬢は苦笑いを浮かべる。

「あら、今回も無理だったのね。仕方ないわ、無茶するからよ。薬草探しの依頼もあるのだけれど、こっちにしてみない?」

はぁ……仕方ない、か。

「ありがとうございます」

薬草採取。

魔物討伐に比べれば安全。

でも報酬は安い。

紙を受け取りながら、僕は小さく息を吐いた。

ふむふむ、森の浅い場所か。

これなら今日は食いつなげる。

――そんな日々が、ずっと続くと思っていた。



数日後。

「海沿いの魔物討伐? 弱い個体らしいけど……」

報酬は悪くない。

今月の赤字を埋めるには十分だ。

「やります」

口に出してから、ほんの少しだけ後悔した。

海は嫌いだ。

何が潜んでいるのか分からない。

だが、金がない。

夕暮れの海。

潮の匂いが濃い。

目標は、小型の海魔。

浜に打ち上げられる魚を荒らす厄介者。

早めに終わらせよう。

「よし……」

簡易詠唱。

火球。

威力は弱いが、直撃すれば十分。

海面が揺れた。

現れたのは、確かに小型だった。

鱗に覆われた四足の魔物。

「いける……!」

火球が当たり、悲鳴が上がる。

――その瞬間。

海が、割れた。

巨大な影が、水中から立ち上がる。

え?

さっきのは、餌?

理解が追いつく前に、衝撃が走った。

黒い尾が、僕の身体を弾き飛ばす。

呼吸が止まる。

視界が回る。

冷たい水が肺に流れ込む。

苦しい。

上も下も分からない。

光が遠い。

……ああ。

やっぱり、無理だったか。

意識が沈む。

完全な暗闇。

――

次の瞬間。

「……は?」

咳き込んだ。

海水を吐き出す。

身体は甲板に転がっている。

痛みは、ない。

さっき、確かに……死んだはずだ。

「……なんで、生きてる?」

頭の奥に、声が響いた。

『確認しました。スキル《案内人》を使用します』

「……は?」

『おはようございます、カルド様』

無機質な、しかしどこか柔らかい声。

『私はスキル《案内人》。貴方の能力を補助します』

僕は甲板に座り込んだまま、ただ海を見つめた。

さっきの巨大な影は、まだ近くにいる。

現実は、何も変わっていない。

時間は戻っていない。

僕だけが、元に戻っている。

『復活にエネルギーを消費しました。残量、中』

「……何なんだよ、これ」

目の前の海が、不気味に揺れる。

あれは、まだいる。

逃げるか。戦うか。

刹那――神々しい光が、一直線に伸びた。

視界が白に染まる。

同時に、激しい痛み。身体が貫かれる感覚。熱いのに、冷たい。叫ぶ暇もない。海が爆ぜ、空気が焼ける。

僕の胸を、光が通り抜けた。

死……

『スキル《死に戻り》を使用します』

なんだ、それ――

まただ、胸が貫かれたはずなのに……

元通りだ。生きてる。

『スキル発動にエネルギーを消費しました。残量、少』

『スキル《認識転写》を使用します。15秒間のみ、1つの追加スキルの取得が可能です』

「は?」

『取得候補を提示します』

視界の端に、淡い光が浮かぶ。

『海炎魔の鱗:熱と水への耐性向上』

『魔物の魔力波長理解:魔物の気配と動きの先読み』

『低位火球の威力補正:火球の密度と威力の向上』

鼓動が早まる。

「こ、これは…」

十五秒。

波が、近づく。

巨大な影が、再び動いた。

『取得しますか?』

『エネルギー残量が少です。次の死亡時、《死に戻り》は使用できない可能性があります』

頭の中で、その言葉が転がる。

使えない。

つまり、次に死んだら、本当に終わる。

逃げれば助かるかもしれない。

脚は動く。距離も稼げる。

……でも。

火球が当たった瞬間を、僕は思い出していた。

鱗に覆われた四足の魔物。

あれは、あの巨大な影の餌だった。

なら、あれを狩り場にしている漁師は?

明日の朝、この浜に来るはずの人間は?

別に、正義感なんてない。

ただ、なんか――癪だった。

こんなとこで終わるのが。

「……威力補正」

目は海から逸らさない。

波が砕ける。

巨大な影が、再び光を集める。

カルドは立ち上がった。

――三度目だ。

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