冬の補助線(ほじょせん)
冬の帰り道の空には、
子どものころにだけ見える“せん”があるような気がします。
このお話は、
とある街の冬の空の下で生まれた、小さな光の記録です。
どこかの誰かが見上げた空と、
もしかしたら同じかもしれません。
【童話版】
放課後の学校は、もうだれもいなくて、
ちょっとひみつの場所みたいだった。
ぼくときみは、いちばんはしっこの下駄箱を出て、
いつもの帰り道を歩きはじめる。
角のところにある自動販売機で、ぼくはココアを買った。
ガタン、と、じはんきからココアが出てきた。
あたたかいかんが、手のひらをじんわりあたためてくれる。
『ふーっ』
息をはくと、しろいけむりみたいになって、
すぐに空にとけていった。
きみはぼくより、ほんのすこし歩くのがはやい。
いつも半歩だけ、前を歩いているきみの背中。
空を見上げると、冬の星がいっぱいだった。
キラキラしているのに、さむそうで、でもきれいで、
まるで夜のえんぴつで、だれかがてんてんと丸をつけたみたいだ。
「あの星、いちばんひかってるね」
きみが言う。
ぼくは、どれのことかわからなくて、
同じ空を見つづけた。
星と星のあいだには、せんなんて見えない。
でも、もしだれかが空にせんを引いたら、
あの星とあの星は、つながるんじゃないかな、と思った。
オリオンの三つ星みたいに、
ならんで、ちょうどいいきょりで、はなれずに。
『おじいちゃんやおばあちゃんも、この三つ星を見てたのかな』
『ねえ………』
ぼくは言いかけて、やめた。
きみは、もしかしたら、ぼくじゃない遠い星のことを
考えているのかもしれない。
知らないぎんがの、知らないひみつを。
でも今は、同じさむさの空気をすって、
同じように鼻のさきが赤くなって、
へんな顔になって、ふたりで笑っている。
それだけで、なんだか安心だった。
ぼくときみは、星みたいだと思った。
ぴったり重ならないけど、
でも同じ空の中で、それぞれちゃんと光っている。
冬にまたたく、さんかくおにぎりみたいな、ひとつのかどっこみたいに。
家の前につくと、きみは手をふった。
ぼくも手をふる。
明日になったら、またちがう空みたいに、
ちがう一日がはじまるかもしれない。
でも、この冬の日に、
ぼくときみが、ここに見えないせんを引いたことは、
きっと消えない。
星ざ (せいざ)みたいに、
ぼくの胸の中で、ずっと小さく、またたいている。
きっと、ずっと昔の男の子も、
これから生まれてくる女の子も、
同じようにこの冬の空を見上げて、
届かない指先で、見えないせんを引くんだろう。
正解なんて出せないまま、
それでも、そばにいるだれかのあたたかさを感じながら、ぼくらはまた、夜を泳いでいく。
子どものころに見上げた冬の星は、
今よりずっと近くて、
手をのばせば届きそうに思えました。
大人になってから見上げる空にも、
あのときの光が、
そっと残っているような気がします。
このお話が、
だれかの胸の中にある“冬の光”を
少しだけ思い出させるものになればうれしいです。
※本作は、ぼっち・ざ・ロック!挿入歌「星座になれたら」の空気に
そっと触れながら生まれた童話です。




