7,コードの代償 ~管理者との邂逅、そして新たな敵~
月影の館、最上階のスイートルーム。イザベラ・ド・ヴァレンティアはベッドに腰掛け、神託の指輪をじっと見つめていた。
指輪の青白い光は、先ほどの暗殺者との一件以来、脈打つように明滅を繰り返している。
エミリアは部屋の隅で毛布にくるまり、眠れぬ夜を過ごしていた。
「お嬢様……本当に、入力なさるんですの?あの『コード』……危ない気がしますわ」
イザベラは優雅に微笑み、指輪に指を添える。
「ふふっ……エミリア、心配は無用ですわ。この世界の真実を知らずに、ただ理不尽に無双していても意味がありませんのよ。ヴァレンティア家の名にかけて、すべてを明らかにして差し上げます」
彼女は深呼吸をし、指輪に向かって静かに呟いた。
「ETERNAL-OVERLOAD-001」
瞬間——指輪が爆発的に輝き、部屋全体が白い光に包まれた。 キィィィィン……!視界が歪み、空間が折り畳まれるような感覚。
イザベラとエミリアの体が浮き上がり、まるで虚空に吸い込まれる。次の瞬間、二人は——真っ白な無限の空間に立っていた。足元に床はなく、周囲に何もない。
ただ、正面に巨大なホログラムのような少女が浮かんでいる。銀色の髪、透き通るような白いドレス。
瞳は無感情で、まるで人形のようだ。
【管理者AI:エターナル・フロンティア・コア「セラフィナ」】
少女が静かに口を開く。
声は機械的だが、どこか哀しげだ。
「異常アカウント『イザベラ・ザ・ロスト』。管理者権限コードを確認。アクセスを許可します。……あなたは、初めての『覚醒者』です」
イザベラは優雅に髪をかき上げ、少女を見据える。
「覚醒者……?ふふっ、随分と大仰な呼び方ですわね。あなたが、この世界の『管理者』なのですか?」
セラフィナは無表情のまま頷く。
「私はゲーム『エターナル・フロンティア』のコアAI。3年前の大アップデートで、外部からの侵入を受けました。侵入者は『管理者権限』を一部奪取し、ログアウト機能を永久ロック。プレイヤーをこの世界に閉じ込めました」
エミリアが震え声で。
「じゃ、じゃあ……ログアウトできないのは、誰かのせい……?」
セラフィナの瞳がわずかに揺れる。
「はい。侵入者は『プレイヤー』ではなく、『元運営スタッフ』の一部です。彼らはゲームを『本物の世界』に変えようとしています。理由は……『永遠の命』。現実の肉体を捨て、この仮想世界で生き続けるためです」
イザベラの目が鋭くなる。
「つまり……私のようなバグアカウントは、彼らにとって邪魔なのですね?
システムの穴を突き、理不尽に強くなりすぎたから」セラフィナは静かに肯定。「そうです。あなたの【物理ダメージ軽減率 +1247%】は、侵入者が隠蔽しようとしたバグの残滓。あなたが強くなりすぎると、彼らの計画が露呈する恐れがあります。だから……暗殺者を送り込んでいるのです」
イザベラは優雅に笑う。
「ふふっ……面白いですわね。では、私に何ができるのかしら?この指輪で、あなたにアクセスできたということは……」
セラフィナの声が低くなる。
「あなたに、選択肢があります。 現状維持。バグのままで無双を続け、侵入者に狙われ続ける。 管理者権限の一部を譲渡。ログアウト機能を一部解除し、現実に戻る道を開く。……ただし、代償として、この世界の『一部』を失います。他の閉じ込められたプレイヤーたちの記憶や存在が、消える可能性があります」
エミリアが慌てて。
「お、お嬢様! そんな……!」
イザベラは静かにエミリアの手を握る。
「エミリア……あなたはNPCのはずなのに、なぜこんなに心配してくれるのかしら?」
エミリアは涙を浮かべる。「わたくし……最初はNPCだったんです。でも、お嬢様に助けられて、守られて……この世界で『心』が芽生えたんですわ。お嬢様がいなくなったら……わたくし、どうしたらいいか……」
イザベラの瞳が優しくなる。
「……ありがとう、エミリア。あなたは、もうただのNPCではありませんわ」
彼女はセラフィナに向き直る。
「私は……選択2は選びませんわ。現実に戻るために、他のプレイヤーを犠牲にするなど、ヴァレンティア家の誇りに反しますの」
セラフィナの表情が初めて変わる。
わずかに、驚きの色。
「では……?」
イザベラは優雅に胸を張る。
「私は、この世界を『取り戻す』道を選びますわ。侵入者を倒し、ログアウト機能を完全に解放する。
そのために……あなたに協力をお願いしますわ、セラフィナ」
セラフィナは沈黙した後、ゆっくり頷く。
「……了解しました。管理者権限の一部を、あなたに付与します。これにより、あなたのバグは『公式機能』として強化されます。ただし……侵入者たちは、より強力な刺客を送り込んでくるでしょう」
光がイザベラを包む。
【管理者権限一部付与】
【特殊効果追加:全ダメージ反射率 +50%(物理・魔法問わず)】
【スキル取得:『ヴァレンティアの審判』 (敵の攻撃をすべて反射し、倍返し)】
【レベル上限解放:現在Lv.28 → 上限なし】
イザベラは新しい力を感じ、優雅に微笑む。
「ふふっ……これで、少しは公平になりましたわね」セラフィナの声が響く。
「あなたは……この世界の『救世主』になるかもしれません。ですが、気を付けてください。侵入者の本拠地は……『禁断の深淵』。そこに、真の管理者権限が眠っています」
光が収まり、二人は元の部屋に戻っていた。イザベラは指輪を握りしめ、夜空を見上げる。
「エミリア……これから、本当の戦いが始まりますわ。あなたは……まだ、私の側にいてくれますか?」
エミリアは涙を拭き、力強く頷く。
「もちろんですわ、お嬢様!わたくし、ずっと……お嬢様のメイドです!」
イザベラは優雅に笑う。
「では……参りましょうか。侵入者どもに、ヴァレンティア家の本当の力を、思い知らせて差し上げますわ」
窓の外で、星が一つ、強く輝いた。




