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2,街への道 ~理不尽は道連れを増やす~

イザベラ・ド・ヴァレンティアは、初期村「ルナリアの里」の出口で足を止めた。重鎧の裾が地面を擦る音が、妙に心地よい。

紅蓮騎士団のフルプレートを無理やり着込んだ姿は、まるで中世の女騎士貴婦人のようだ。

防御力+185。

見た目だけなら、Lv.50クラスの上級プレイヤー並み。

 「……ふふっ。意外と悪くないですわね、この鎧。ヴァレンティア家の紋章を刻めば、立派な家宝になりそうですわ

」独り言を呟きながら、ステータス画面を呼び出す。

【キャラクター情報】

名前:イザベラ・ザ・ロスト

職業:ナイト(初期職) Lv.3

称号:『理不尽無双』『PK狩りの公爵令嬢』『バグの貴婦人』『チュートリアルすらクリアできない令嬢』

ステータス:

 STR 5 (振り直し不可)

 VIT 0

 AGI 0

 INT 0

 LUK -47(非表示・固定)

特殊効果:【物理ダメージ軽減率 +1247% (バグ由来・永続)】

 【投擲攻撃時STR×10倍補正 (バグ由来・永続)】

装備:紅蓮騎士団の重鎧(防御力+185)、木の棒(攻撃力+1、耐久値3/100)

 「Lv.3……まだまだですわね。でも、このバグがあれば、レベルなど関係ありませんわ」

ログアウト不能の絶望は、まだ胸に残っている。だが今は、それを考えるより先に——

この世界で「生き抜く」ことを優先するしかない。街「エリュシオン」までは、徒歩で半日ほど。

道中は低レベルモンスターの生息地帯だが、イザベラにとってはただの「経験値の散歩道」だ。

 「さあ、参りましょうか」

優雅に歩き出す。─────────────────


森の小道を進むこと30分。突然、木々の間から狼の群れが現れた。【フォレストウルフ(Lv.5)×8匹】普通のプレイヤーなら、Lv.3のナイトが単独で遭遇したら即死コース。だがイザベラは、木の棒を優雅に構えるだけ。

 「まあ……下等な獣ですわね。ヴァレンティア家の庭を荒らす犬どもと同じくらい、みっともない」

 狼たちが一斉に飛びかかる。ガルルルッ!牙を剥き、爪を振り上げる。ざしゅっ! ざしゅっ! ガァン!!そして——  ぽよんっ! ぽよんっ! ぽよんぽよん!!

狼たちが逆に吹っ飛んで木に激突。

一撃でHPがゼロになり、消滅。【フォレストウルフを撃破しました ×8】

【経験値 +12(端数切り捨て)】

【レベルアップ! Lv.3 → Lv.5】

【ドロップ:狼の牙(売値10カッパ)×5、狼の毛皮(売値20カッパ)×3】

 「……あら。意外と経験値が入りますのね」

イザベラは優雅に髪をかき上げた。この理不尽反射は、物理攻撃なら何でも効くらしい。

魔法はどうだろう? 試してみたくなる。その時だった。森の奥から、慌てた足音が聞こえてきた。

 「ひゃあっ! 待って、待ってぇ!」

現れたのは、先ほどの村娘だった。NPCのはずなのに、なぜか追いついてきている。

 「お、お嬢様! 待ってくださいまし!」

村娘は息を切らしながら、イザベラの前に跪いた。

 「わたくし……エミリアと申します。ルナリアの里の村娘でございますが……お嬢様に助けていただいた恩を返したくて……!」

イザベラは眉をひそめた。

 「恩? ふふっ、礼など結構ですわ。私はただ、邪魔者を片付けただけですのよ」

 「でも……! お嬢様のようなお強い方が、この先の街までお一人で……危ないですわ!わたくし、道案内と……お荷物持ちをいたします!」

エミリアは必死に頭を下げている。

NPCのくせに、妙に人間臭い。

このゲームのAI、強化されすぎではないか?

 「……まあいいですわ。せめて道中、暇つぶしに付き合って差し上げましょうか」

イザベラは優雅に頷いた。こうして、ゴミ令嬢アカウントに、初の「従者(?)」が付いた。─────────────────さらに道を進む。今度はプレイヤーらしき集団が待ち構えていた。《黒狼団》

中堅ギルドで、PKプレイヤーキルを趣味にしている悪名高い連中だ。リーダーの男が、ニヤニヤしながら近づいてくる。

 「へぇ〜、Lv.5のナイトが一人で歩いてるじゃん。しかもフルプレート着てんの? 盗品か?」

仲間たちがゲラゲラ笑う。

 「紅蓮騎士団の鎧じゃん! マジで盗んだだろw」

 「女なのに重装備とか、笑えるわ」

 「よし、狩っちゃおうぜ。装備剥ぎ取って売ればウハウハだ」

イザベラは静かに木の棒を構えた。

 「……あらあら。下賤な盗賊どもが、私の前に立ちはだかるなんて」

エミリアが慌てて後ろに下がる。

 「お、お嬢様! 危ないですわ!」

 「心配無用ですわ、エミリア。この程度の輩など……お仕置きして差し上げます」

黒狼団が一斉に突撃。剣、弓、魔法——あらゆる攻撃がイザベラに集中。  ドガァン!! ズドォン!! ビュンッ!そして——  ぽよんっ! ぽよんっ! ぽよんぽよんぽよん!!全員が吹っ飛んだ。弓矢は跳ね返って射手自身に刺さり、魔法は自爆。

剣士たちは鎧ごとへこんで地面に沈む。【撃破数:12/12】

【大量の経験値を取得しました】

【レベルアップ! Lv.5 → Lv.8】

【称号『PK返しの貴婦人』『理不尽の道連れ』を取得しました】

生き残ったリーダーが、震えながら後退。

 「な……何だよこの女……バグかよ……!」

イザベラは優雅に歩み寄り、木の棒で軽く肩を叩く。

 「バグ? ふふっ、正しくは『神の祝福』ですわ。ヴァレンティア家の血筋に相応しい、特別な力ですのよ」

リーダーは逃げようとしたが——イザベラが棒を投げる。  ブオンッ! ガキィン!!頭に直撃。

即死。【撃破:黒狼団リーダー】

【ドロップ:黒狼団のマント(防御力+30)】

 「……まあ、悪くないですわね」

イザベラはマントを拾い、エミリアに差し出した。

 「エミリア、これを着なさい。寒いでしょう?」エミリアは涙目で受け取る。「お、お嬢様……ありがとうございます……!」

こうして、二人はさらに街へ向かう。─────────────────

夕暮れ時、エリュシオン城壁が見えてきた。街の入り口で、衛兵がイザベラを止めた。

 「そこの貴族風の女! 身分証を見せろ!最近、PKギルドの残党が紛れ込んでいてな……」

イザベラは優雅に微笑んだ。

 「身分証? ふふっ、このヴァレンティア家のイザベラ・ド・ヴァレンティアが、そんな下賤なものを必要とすると思いますの?」

衛兵が一瞬固まる。

 「……ヴァレンティア公爵家? あの没落寸前の……?」

イザベラの目が細くなる。

 「没落寸前? あら……面白いことをおっしゃいますわね」

次の瞬間——イザベラが衛兵の槍を軽く叩く。  ぽよんっ!槍が跳ね返り、衛兵が吹っ飛んだ。

【衛兵(Lv.15)を撃破しました】

【犯罪値 +10】

【通報されました】

街の入り口で大騒ぎになる。だがイザベラは優雅に歩き続ける。

 「ふふっ……この世界、理不尽ですわね。

でも、それでいいですわ。

ヴァレンティア家の名を、このサーバーに刻んで差し上げます」エミリアが慌てて後を追う。「お、お嬢様! 待ってくださいまし!」街の中へ入る瞬間、イザベラの瞳に、わずかな輝きが宿った。ログアウト不能の絶望。

バグの理不尽。

そして、この世界で「貴族令嬢」として生きるということ。すべてが、彼女の無双の始まりだった。



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