息子が社畜と言われた
夫の番が見つかったその後の話
「お母さまっ!!」
学園に通い、充実した日々を過ごしているカサブランカが慌てたように執務室に飛び込んできた。
「お母さまっ。このままだとお兄さまが【社畜】になってしまいます!!」
こっちが注意する隙も与えず間髪入れず叫ぶカサブランカに同じく執務室で仕事をしていたタチバナが盛大に咽た。
「大丈夫ですか陛下っ!!」
慌てて側近が飲み物を渡したり、背中を擦ったり、書類を安全な場所に避難させていたりするさまを横目に、
「カサブランカ。その【社畜】って何なのかしら?」
初めて聞く単語に戸惑って尋ねると、
「カンナちゃんが教えてくれたんですけど……」
と、説明を始めてくれる。
カンナちゃんの母国。ヤーポンは独特の島国でその国独自の文化、技術を様々な国が欲している。良識ある国は文化交流でヤーポンの技術を勉強させてもらい……我が国は当然その良識ある国だ。という我が国自慢は置いておいて、良識のない国は技術者を誘拐していく。カンナちゃんはその誘拐された技術者の娘で、両親が亡くなった時に放り捨てられて我が国の孤児院に保護されたという流れだ。
ヤーポンに問い合わせたらそういう子供が多くて身内が特定できないと言われてしまった。誘拐対策も後手後手なのだとか。
そんなカンナちゃんが言う言葉は我が国にはない言葉も多くて……。
「会社に忠誠を誓い、会社で仕事をすること以外自分のしたいこともない人間のことを【社畜】というそうで、自分から望んで【社畜】になる人種と周りの空気で【社畜】にされる人種がいるとか。お兄様はその自分から望んで【社畜】になっていると。常に公務で自分のしたいこともしないで」
言っているうちに心配になったのかぼろぼろとカサブランカは泣きだしてしまう。
「お兄さまっ!! 【社畜】になってしまわないでっ!!」
不安になったままタチバナに抱き付くカサブランカ。やっと咳き込みから解放されたタチバナは、困ったようにカサブランカの頭を撫で、
「王族の公務を母上お一人にさせていたのだからこのくらいは普通なんだよ。全く働かない足手まといが居たから仕事が溜まっているんだ」
タチバナの言葉に毒が籠っている。まあ、言いたいことは分かるが、
「俺よりも母上の方が【社畜】だから」
そこでわたくしに話を振らないでほしいわねと思ったけど、ここで突っ込んだら完全に巻き込まれるので黙っておく。
「で、でも……、お兄さまが番を探しに行かなくなるのでは……」
公務ばかりで貴族令嬢と政略結婚もあり得るが、竜の血を引くのなら番を求めるだろう。現にお義父さまお義母さまは番だ。
あの夫も番にこだわっていたし。
「ああ。――占い師に尋ねたら5年後に生まれるはずだから。40歳ぐらいの時に迎えに行くよ」
息子は今19歳。
「「えっ?」」
わたくしとカサブランカの声がハモる。
「母上もご存じなかったのですか? 番を探す方法は占い師に頼るんですよ。父親はそんなのに頼るなど邪道とか言って、占い師を遠ざけて、かといって自分の足で探しに行かずに王城での贅沢な暮らしを捨てたくないからじっと籠って…………中途半端にもほどがある」
父親に関しての嫌悪感。軽蔑する響き。
「と言うことで、その時が来たらまとめて有給を取らせてもらうから【社畜】ではないよ」
安心させるように微笑んで、
「その時なら病気療養している祖母も回復しているだろうし、持てる力をすべて使って、祖母の病気の治療薬も開発させてますので祖父も手伝ってくれるでしょうし。問題なのは年齢差だけど、魔力操作を行えば外見年齢は今と変わらないだろうからそれで許してもらえるといいけど……。そう言えば、あの父親はそれすらサボって実年齢と同じ外見になって自分の番に抱き付いたな。竜の血を引いているのにどう見てもおじさんだったからな。軽蔑されて当然だから。それも気を付けないと」
と算段をつけているタチバナの計画に正直慄いた。
そして、それから20年ぐらい後に外見年齢10代後半か20代前半のままだった息子は本当に有給をまともに取って番を迎えに行ったのだった。
番を匂いだけで探すために旅出る王族も居ますけど、近年では占いに頼る方法もある。
そんな便利な手段もしないで、贅沢できないから旅にも行かない父をタチバナは軽蔑していた。後、竜の血が流れていると魔力操作で若くできる。元王妃(現王太后)は少し流れているので年齢よりも若く見える。でも、先王はそれすらサボっていた。




