表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

【4月8日】——誰かの一歩と、誰かの足踏み

◆相川太一・現実パート

朝。

起きて、着替えて、会社へ向かう。

昨日図書館に行ったことが、少しだけ「特別なこと」に思えてしまうほど、

今日の朝はいつも通りだった。


駅のホームにはスーツの群れ。

オフィスの蛍光灯は今日も均等に眩しい。

デスクには、金曜日の続きの書類。

上司は「おはよう」と言い、後輩は「資料ありがとうございます」と笑った。


だが太一は、そのどれにも特別な意味を感じなかった。


「……俺って、いつまでこの感じなんだろうな」


仕事をこなして、昼を食べて、帰宅して、シャワーを浴びて、

冷凍餃子とコンビニのごはんで夕食を済ませた。


パソコンを立ち上げ、キーボードの前に指を置く。

変わらぬ日々の中に、誰かの小さな変化を描くことだけが、

太一にとっての“逃げ道”であり“生き方”になっていた。


◆女子高生日記パート《あいか》

4月8日(月) はれのちくもり


今日から授業スタート!

教科書ってあんなに重かったっけ?ってレベルでカバンパンパン(笑)


一限目の現国、初っ端から「随筆って知ってるか」って聞かれて焦った。

杏ちゃんはとなりで寝かけてた。


でも、それより今日のメインイベントは……新しい友達ができたこと!


名前は美月みづきちゃん。席が斜め前で、プリント落としたとき拾ってくれて、

「あ、ありがとう」って言ったら「コンタクト落としたかと思ってびびった〜」って返ってきた(笑)


話してみたら、同じマンガ好きで、しかも写真部に興味あるらしくて!

「あいかちゃんって、写真撮るの得意そうだね」って言われて、ちょっと照れた。


休み時間に一緒に行動する人が増えるって、

学校がちょっとだけ違って見えるんだなって思った。


この春、ちゃんと“新しいあたし”に会いに行けるかも。


あいかの書く日記を読み返しながら、太一はふと小さく息を吐いた。

変わっていく人々の記録。

自分が書いているはずなのに、それはまるで、

どこかで本当に生きている少女のように、自然だった。


誰かに「おはよう」と言われて、

誰かに「一緒に帰ろう」と言われる。

それだけで人の一日は、どれほど鮮やかになるのだろうか。


太一の一日は、今日も色のないまま終わった。

だが、あいかの一日は、ほんの少しだけ光っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ