【4月7日】——沈黙と会話のあいだで
◆相川太一・現実パート
昼前。
カーテン越しに差し込む光がまぶしくて、太一はしぶしぶ起き上がった。
顔を洗い、シャツを着替え、髪をくしゃっと指で整える。
鏡に映る自分は“外出する”という感じがあまりしない。
だが、それでも今日は、なんとなく――出ようと思った。
「……図書館でも、行ってみるか」
特に借りたい本があるわけでもない。
けれど、あの静かな空間がふと恋しくなったのは、なぜだったのか。
バスに揺られて15分。
久しぶりの図書館のロビーには春休みの子どもたちが数人いて、
参考書をめくる高校生がいて、静かな窓辺で文庫本を読む若い女性がいた。
太一は「写真入門」という古い本を手に取り、
窓際の席に腰をおろした。
ページをめくりながら、ふと気づく。
今、あいかも――こういう本を読んでいるのかもしれない。
その想像が、なぜかほんの少し、心を軽くした。
◆女子高生日記パート《あいか》
4月7日(日) あったかい日
杏ちゃんと、初めてふたりで電車に乗って、隣の駅のカフェに行った!
雑誌で見たパンケーキが食べたくて、それが目的だったんだけど……
正直それ以上に、今日はいろんな意味で濃かった(笑)
道に迷って、スマホのマップ見ながら笑いながら歩いて、
「ほんとにこっち?」「ちょっと、遠藤くんに聞いてみようか」とかふざけながら。
カフェはちょっとおしゃれすぎて、最初緊張したけど、
店員さんの「おふたりさまですね」って笑顔で一気にほぐれた。
杏ちゃんと話してると、ほんとに何でも話せちゃう。
将来のこととか、好きな人のこととか。
「遠藤くん、絶対あんたのことちょっと好きだと思うけどね」
って言われて、ストロー噛みそうになった(笑)
帰り道、風が気持ちよくて、電車の窓から見た夕焼けがすごかった。
ああ、春って、こういう日をくれるから好きなんだなぁ。
図書館の帰り道、太一は駅前のスーパーに寄り、
普段は買わない苺をひとパック買った。
誰かに渡すわけでも、誰かと食べるわけでもない。
ただ、何か甘いものが食べたくなったのだ。
少しだけ、春っぽいものが。
部屋に戻って、窓を開ける。
冷たい風が少しだけ入ってきたが、それが心地よかった。
そして、いつものようにパソコンを開き、“彼女の日記”を書き写す。
そこには、自分にはない休日があって、
だけどどこか、自分も同じ景色を見ていたような気がした。