【4月6日】——開かない窓と、ひらかれた道
◆相川太一・現実パート
朝9時に一度目が覚めたが、すぐに布団に潜った。
次に目を開けたときには11時を回っていて、
カーテンの隙間から見える空は、曇っているのか晴れているのか、よくわからなかった。
「……今日は、外出ないかな」
そう呟いて、太一はTシャツのまま、台所で冷蔵庫を開ける。
炊いてあった米の残り、昨夜のレトルトカレー。
何も考えず、それをレンジにかけて食べた。
午後はYouTubeでゲーム実況を流しっぱなしにして、
ベッドに寝転がってスマホをスクロールして、
何もせずに1時間が過ぎた。
そしてふと思い出す――
“彼女”は、今日はどんな土曜日を過ごしているだろうか。
窓の外は静かだ。
だが、彼の中のもうひとつの世界は、今も動いている。
◆女子高生日記パート《あいか》
4月6日(土) はれ
お母さんとお父さんと、久しぶりに3人で出かけた!
桜が満開って聞いて、車で隣町の公園までお花見ドライブ。
お弁当はお母さんが作ってくれたけど、卵焼き焦がしてて、
「まぁ、そういう味ってことで(笑)」って言ってた。
お父さんが道ばたで買った屋台の焼きだんご、めっちゃ美味しかった!
ちょっと焦げてるのがまたいいんだよね〜
芝生にレジャーシート敷いて、みんなで寝転がって空見た。
鳥の声、子どもたちの笑い声、風の音。
「あ、これが“春の音”ってやつだなぁ」って思った。
写真部の先輩に借りたカメラで、桜の木を撮ったら
「人が小さく映ってると、桜の大きさが引き立つ」ってアドバイス思い出して、
お父さんをモデルに撮った。
なんか、笑ってるお父さんの顔、久しぶりに見た気がする。
あたし、こういう一日を忘れないようにって、
カメラのシャッターだけじゃなく、心の中にも焼きつけておいた。
夜。
太一は、書き終えたあいかの日記をぼんやりと眺めていた。
弁当、桜、笑顔。
自分が体験したことのない、けれど確かに“存在してほしい”春の記憶たち。
カメラのシャッターのように、彼もそっと目を閉じた。
その目の奥には、きっと誰にも見えない、
「理想」と「取り残された過去」がぼんやりと映っていた。