【4月5日】——放課後、誰かの夢の続き
◆相川太一・現実パート
金曜の夕方、定時を5分過ぎた頃、太一はPCをそっと閉じた。
上司に会釈してオフィスを出る。
週末が近いせいか、いつもより駅が混んでいる。
電車の中、高校生らしい制服の男女が「部活どうする?」と話していた。
剣道部だの軽音部だの。彼らの笑い声は、どこか遠い世界の音だった。
「部活……なつかしいな」
ぽつりと呟いたが、思い返すほどの記憶はなかった。
中学の途中で辞めた卓球部。高校では帰宅部。
放課後はいつも、アニメとゲームが部活の代わりだった。
それでも“部活”という言葉の響きには、何かまぶしさが残っていた。
自分にはなかった、何か大事なもの。
帰宅後、着替える前にパソコンの前へ。
今日はあいかを、部活動に向かわせよう。
自分の代わりに、輝くような放課後へ。
◆女子高生日記パート《あいか》
4月5日(金) はれ
放課後、部活見学行ってきた!
杏ちゃんは「軽音行く〜」ってノリノリだったけど、
あたしはなんかもっと静かなとこがいいなぁって思って、美術部と写真部をのぞいてみた。
美術部はすごい静かで、先輩が真剣に石膏デッサンしてた。
けど……ちょっと静かすぎて息詰まりそうだった(笑)
写真部の方は、なんか雰囲気ゆるくていい感じ!
カメラ触らせてもらって、校庭の桜を試しに撮ってみたら、先輩が
「あ、構図うまいじゃん」って褒めてくれた!
なんか、それだけでテンション上がっちゃって……
帰り道、空とか道端の花とか、やたら写真撮りたくなった。
まだ仮入部だけど、多分ここにすると思う。
「好き」って、きっかけなんてほんとちょっとでいいんだなって思った。
あと、遠藤くんはバスケ部に見学行ったらしい。
体育館の前で見かけたけど、
あいかわらずシュート外してて、ちょっと笑っちゃった(笑)
文章を書き終えて、太一はふうと小さく息を吐いた。
“写真部”というのは、ふと思いついたものだったが、
どこか彼自身の「もしも」にも似ていた。
もしあの頃、もう少し誰かと話せていたら。
もし放課後の教室に、居場所をつくれていたら。
そんな“あり得たかもしれない自分”を、
あいかが少しずつ代わりに歩いてくれている気がした。