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取引

 沈黙。あれだけバラバラだった三人が、全く同じリアクションだった。


「……何? いきなり」


 最初に訝しげな声を出したのはラギリだった。


「アンタ、そういう冗談言うタイプには見えなかったんだけど」


「冗談じゃないからね」


「アイドルって……あの歌って踊るアイドルのことですか……?」


「うん。フィラムちゃんみたいに清楚なならきっと人気になるよ。他の二人だって」


「無理でしょ」


 遮るようにラギリが言った。


「アタシ達みたいな悪人にできるワケない。そんなの、周りも自分も……誰も求めてないわよ」


「私が求めてる」


「アンタ一人がね」


「というか覇王クン、先ほどヒガンにもアイドルがどうのと言っていたね。キミは一体何者なんだ?」


 ここまでの経緯を語ると、静かに聞き入っていたロメリアが「なるほど……」と小さく漏らした。


「キミは思ったより馬鹿だったんだね」


「ば、馬鹿!? アイドルのキャラとしてはありだけど、ここまで頑張った私の勇気と度胸をそんな一言で括らないでよ!」


「いやそんな命知らずの企画引き受ける時点で頭のネジ外れてるわよ。『無法街むほうがい』で暮らすアタシですら断るレベルよ。……いや、でも乗っかったフリして途中から関係者全員を『無法街むほうがい』に置き去りにしたらそれはそれで面白いか……」


 規格外の悪党どもから不本意な説教を浴びせられる。納得いかない気持ちだった。


「……わたしは、少し興味あるかもです……」


 地下牢の暗闇を照らす蓄光石ちっこうせきの光が、優しく微笑むフィラムの顔を浮き彫りにする。


「アイドルって、世界中の人と仲良くなれるお仕事ですよね……? だったら、きっとその分たくさんのお話を、聞かせてもらえますよね……?」


「もちろん。ファンとの交流はアイドルに欠かせないからね」


 フィラムの瞳が輝きを増す。他の二人に比べて純粋な性格だ。


「アタシはやらないわよ。メリットがないもの」


「それに関してはワタシも同感だね」


 やはりラギリとロメリアは強情だった。寧ろこっちの方が自然な反応と言える。


 想定内ではあった。色美しきみにだって考えはある。


「じゃあさ、私と取引しようよ」


「取引? アタシ達に何かしてくれるっていうの?」


「薬草の実験台にでもなってくれるのかい?」


「みんなをここから出す」


 色美しきみがそう宣言すると、三人の眉が僅かに上がった。


「出すって、地下牢からかい?」


「脱獄手段とか、持ってるんですか……?」


「ヒガンちゃんを説得する」


「ぷっ」


 思わずといった調子で吹き出したのはラギリだった。不規則に肩を揺らし、鎖が打ち合う音を響かせる。


「あはははははっ! 何を言い出すかと思えば、ヒガンを説得する? 平和な島国でぬくぬく育ってきた甘ちゃんが何ほざいてんのよ。すっかり頭がお花畑ね。流石考えなしの馬鹿企画を引き受けるだけあるわ」


「私はあなた達と違って外に出るチャンスがある。ヒガンちゃんがどんな処遇を決めるかわからないけど、部外者の私を永遠に閉じ込めておく事はないと思うんだ」


「そうは言うがキミ、相手は間違って殺人を犯しても眉一つ動かさないヒガンだぞ」


「勝算はあるんですか……?」


「わからない。こんな腐った街に常識なんか通じないし」


「ひっ、ひひ。アンタわかってて言ってるのね? 相手がアタシら三人を纏めて牢屋にぶち込んでおける怪物って、理解してて賭けに行くのよね?」


 色美しきみが頷くとラギリは一層声量を上げて高笑いする。大きく息を吐いて背中にもたれかかった。


「いいじゃない、その度胸買ったわ。やってみなさいよ。アンタがアタシ達を自由にできたらアイドルでも何でもなってやろうじゃない」


「言ったね。約束だからね?」


「ええ。アンタ達もそれでいいわよね?」


「はい。わたしはもちろん……」


「構わんよ。アイドルに興味はないが、一生ここにいるより遥かにマシだろう」


 言質げんちは取った。後はヒガンさえ説得すれば理想のアイドルグループを結成できる。


 ここまで来たら必ず成し遂げる。何が起きても。


 そんな最中だった。先ほど色美しきみの通って来た扉が勢い良く開いたのだ。


 ヒガンが来た。相も変わらず冷たい瞳で、手中の鍵を弄んでいる。


「ヒガンちゃん……」


「たった今お前の処遇が決まった」


 鍵を差し込み、鉄格子に細い指をからませてヒガンは告げる。


「お前は死刑だ。生かしておく意味がない」


 言葉の意味を理解するまでに時間がかかった。遅れて色美しきみの背筋に激しい悪寒が走る。


 夢への道筋を照らしていた光明が途端に萎んでいくのがわかった。


 クスクスと。ヒガンを呆然と見つめる色美しきみの背後から静かな笑みが聞こえた。


「頑張りなさいよ、覇王」


 こうなる事が読めていたのか、ラギリの声は実に楽しそうだった。

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