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「古代」妄想狂

 キツネにところどころ翻訳してもらいつつ、デイモンはイチカワから、彼らの計画の全貌を聞き出した。

「我々は元々、菜代(なじろ)藩家臣の出であったが、諸々の事情で御家は取り潰しとなり、浪人となって千々に散ることとなった。いつの日か御家を再興するべく、元家臣の間で細々とながらも、親の代から協力し合っていたのだが、そうこうするうちに幕府が倒れ、新政府が興り、我々の武士としての身分も有名無実のものとなった。この調子では御家再興どころか、我々の身の上も危うい。そう考えてこの計画を――即ちアメリカに渡り、ここに我らの新たな城を築くことを企てたのだ」

「そのために店を焼いたってのかい? なんてバカなんだい、アンタたちは!」

 呆れるキツネに、デイモンも同意する。

「ああ、荒唐無稽にもほどがある。仮にこの町を制圧し、君たちの言うオイエサイコーとやらを成し遂げたとしても、合衆国政府が認可するわけがない。ましてや町ひとつ滅ぼすような危険な組織を放っておくわけもない。おそらくはもう既に、近くの州軍基地に緊急連絡が伝わっているはずだ」

「む……」

 黙り込むイチカワを前に、デイモンとキツネは顔を見合わせる。

「で、このバカをどうするかだけど」

「彼一人のことを考えるなら、即刻連行するのが得策だろう。だが話を聞くに、相手は1人じゃない」

「だねぇ。アタシが覚えてるだけでも、明らかに元お侍さんって感じのが10人はいたはずだ。コイツ一人牢屋にブチ込んだところで、他が暴れてるってんじゃ意味がない。全員とっ捕まえなきゃね。

 で、イチカワさん。残りは何人いるんだい? もちろん正直に答えておくれよ? まさかお侍サマともあろう者が、こんな状況でウソついてアタシたちをだまそうなんて思ってやしないだろうね?」

「俺と、さっきそっちの男にやられたチバを入れて、浪人は11名だ。代表はクラノカミ・フナバシで、50そこそこで白髪の、小柄な男だ」

「そのMr.フナバシがリーダーか。そいつを何とかすれば、他の奴も止められるかも知れないな。どこにいるのか分かるか?」

「分からない。他の者と共に、どこかで行動しているだろうとは思うが」

「リーダー自ら? ……いや、たった11人で町一つ滅ぼそうとするなら、全員体制で動くのが当然か。探すしかないな」

 話を聞き終え、デイモンは近くにあったロープで、イチカワを縛る。

「Mr.イチカワ、ここでじっとしていろ。後で保安官に突き出す」

「……」

 イチカワはそれ以上何も言わず、されるがままに、近くのひさしの柱にくくりつけられた。


 デイモンたちは町の、まだ襲われていない箇所を周り、浪人たちを探し回った。時刻はまだ早朝ながらも、どうやら騒ぎに気付いた者がデイモンたち以外にも相当数いたらしく――。

「いたぞーッ!」

「殺せ! 撃ち殺しちまえ!」

 あちこちで銃の発砲音と、男の悲鳴が聞こえてくる。

「この様子じゃ、浪人さんたちの分はかなり悪そうだ。いや、もう負けたも同然だろうね」

 そうつぶやくキツネに、デイモンは首を横に振った。

「確かにこのままローニンたちが全滅し、騒ぎが収まる可能性は高い。……だが疑問はある」

「って言うと?」

「そもそも町に着いた時点で、彼らはその規模を確認していたはずだ。敵情視察もせずに砦に攻め込むのは愚策、いや、無策にもほどがある。いくら蛮勇の持ち主といえども、敵の居場所も分からないのに刃物を振り回して、成果が出ると考える者はいないだろう。それ以前に敵すらまともに定まっていない、攻撃目標が不明なまま作戦行動を行っていると言うのでは、もはやただの暴徒だ。

 第一、フナバシがリーダー、つまりは指揮官を務めていると言うことになるが、指揮官がここまで荒唐無稽な行動を執らせるだろうか? 何を以て作戦終了した、勝利したと伝えるつもりなんだ? 彼らの行動のどこをどう切り取っても、論理が破綻している」

「アンタはまたゴチャゴチャと考え事してるけど、つまり何が言いたいんだい?」

 苛立ち気味に尋ねてきたキツネに、デイモンは「サルーンに戻ろう」と返した。

「なんだって? 浪人さんたちを放っといて三度寝しようってのかい?」

「ローニンたちに関しては、おそらく我々の助力なしでも町の人間がどうにかできるだろう。それよりも謎を究明する方が建設的だ。サルーンの店主もこの騒ぎで目を覚ましている可能性は高いし、町のことを聞くならうってつけだ。話を聞きに行こう」

 そう答え、デイモンはサルーンへと足を向けた。

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