ガンマンとサムライ
二人が小屋の陰に潜むと同時に、ニッポン人が二人、通りの向こうから現れた。
「***?」
「**」
二人は血に濡れた刃物を手に、悪魔のような形相で何かを話している。
「何て話してる?」
「大した内容じゃない。……次はドコを襲うんだ、だってさ」
「あのロングソードで殺して回ってるのか」
「アレはカタナだよ」
「どちらにしろ、時代遅れもはなはだしい。もはや古代人の仮装だ」
「同感だね。……『言われた店は全部焼いた。中心部に向かおう』だって」
「……!」
デイモンは思わず拳銃を構え、ニッポン人二人の後ろに躍り出ていた。
「止まれ!」
「……!」
血まみれの二人がぐるりと振り向き、らんらんと光る目をデイモンに向けた。
「*****!」
二人はカタナを腰の前で握り、デイモンに何かを叫ぶ。
「何だって?」
「『殺せ』だとさ。……コレは正当防衛って言い張れると思うね、アタシの見立てじゃ」
「同感だ」
カタナを振り上げ、奇声を上げながら飛びかかってきた男に、デイモンは躊躇なく弾丸を浴びせる。
「ぬっ、……う……」
血で汚れた木綿の服にぽつ、ぽつと穴が空き、そこから彼自身の血が噴き出す。
「**……ご……ぼっ」
男はなおも何かを叫びかけたが、口からも血が滝のように流れ出し、そのまま膝から崩れ落ちた。
「**! **ッ!」
もう一人の男が倒れた相棒に駆け寄り、どうやら名前らしい何かを叫ぶ。
「**! *****!」
男はデイモンを見上げ、殺意に満ちた目でにらみつけた。
「*****!」
しかし彼が立ち上がるより早く、デイモンは相手のすぐそばに迫り、拳銃を彼の眉間に突きつけていた。
「あんた、こっちの言葉は分かるのか?」
「や、ヤー」
「それはドイツ語か? それともオランダ語か? 英語が話せるなら『イエス』と言ってくれ。そっちの方がありがたい」
「……イエス。ちょっと、話せる」
オランダ語訛りを感じるも、どうやら意思の疎通程度はできるらしかった。
「私はサリヴァン。あんたの名前は?」
「俺の名前はジュウベエ・イチカワだ」
「ではMr.イチカワ、あんたらは何故この町を襲っている? なにか理不尽な目に遭ったのか?」
「違う」
イチカワはカタナを横に置き、足の上に体を乗せる形で座り込んだ。
「俺たちの目的はこの町を主君に献上することだ」
「何だって?」
「我々はこの町を占領し、御家再興の足がかりとする」
「言ってる意味がさっぱり分からない。そんな訳のわからないことのために、罪のない人間を殺戮したのか?」
「大義のためだ」
「……私は寛容な人間であろうと心がけているが、お前たちのしたことは寛容の限度を超えている。善良な人間として、このまま保安官のところまで連行することにする。立て」
「分かった」
イチカワは立ち上がりながらカタナをつかみ――次の瞬間、デイモンに肉薄した。
「……っ」
「****!」
カタナが横に払われ、デイモンの胴を真っ二つにしかける。だが――。
「うっ!?」
ギン、と金属音が鳴り、カタナが遠くに弾かれた。
「穏便に接してくれてるお坊さん相手に不意打ちとは、お侍さんの風上にも置けないヤツだねぇ」
銃口から硝煙をくゆらせながら、キツネが物陰から現れた。
「そんでイチカワさんだっけか。急所は外してやったはずだ。今度こそお行儀よくおすわりして、きちんと話しとくれよ。一体なんだって、海の向こうのこの町を襲ったのかをさ」