ダンジョンの外は雨季
食物ダンジョンに入る前から、雨季になっていたけど、蒸し暑さにうんざり!
ドロップ品で取っておく物、オークションに掛ける物以外は、ギルドに売る。
「依頼が出ているのをチェックして持ってきてくれ!」
相変わらず、ギルドの受付の列は長い。ルシウスと機械兵に荷物を持たせて並ばせて、私とジャスで依頼があるかチェックする。
「早くエールを飲みたいから、さっさとしようぜ!」
行く前にルシウスもチェックしていたと思うのになぁと、二人で愚痴りながら依頼票の前で調べる。
「はちみつ、ロイヤルゼリー、薬草はアレクが使うのか?」
「はちみつ、ロイヤルゼリーは、何個かは売るって話しただろう。薬草は売らないよ」
酒系の依頼も多いけど、これはダンジョンの中で売る分は決めてある。
「はちみつ酒は売らなくて良いんじゃないのか?」
私が依頼票を取る手をジャスが止める。
「ルシウスが売る分を決めたじゃん!」
かなり依頼票が集まったので、それをルシウスに渡す。
「やれやれ、やっとエールだ!」
ルシウスは、清算の列に並んでいるけど、私とジャスは生ぬるいエールをぐびぐび!
ただ、復帰した金級のパンサーの噂が飛び交っているので、私はジャスがヘレナの件で怒り出さないかと冷や冷やして、いつものようにはエールを楽しめない。
「お代わり!」
ジャスは一気飲みして、お代わりをしているけどね。
「おお、相変わらずルシウスに精算させて、エールかよ!」
ジャスが肩を叩かれて振り向くと、そこには『草原の風』のリーダーのシャムスが笑っていた。それに、他のメンバーも疲れた様子だけど、無事みたい。
「おお、帰っていたのか!」
ジャスも歓迎して、同じテーブルに座るように促す。
「エール、全員に!」
ルシアが私の横に座って、大変だったと愚痴りながらエールを飲む。
「まぁ、オークダンジョンを見つけたから、俺たちの仕事はお終いさ」
斥候が得意な『草原の風』だからね。ただ、シャムスや他のメンバーからも『月の雫』の悪口が!
「アイツら、村に居座ってこちらに探させるだけなんだ! その上、見つかったら自分の手柄にするんだからな!」
バッカスって、嫌な奴みたい。まぁ、本人に会った事はないんだけどさ。
「おお、皆、無事だったみたいだな!」
ルシウスも精算を終えて、合流する。
「ああ、何とか依頼達成した」
ギルドからの依頼は、オークダンジョンの探索だったからね。
「これから、オークダンジョンを殲滅させなきゃいけないんだな!」
ポンとルシウスの肩を叩いている。
「『草原の風』は参加しないのか?」
斥候が多いけど、ダンジョン外の魔物もいるから、必要なんじゃない? ルシウスが尋ねている。
「バッカスの顔は当分見たくない。少し休憩したら、交易都市か自由都市群への商隊の護衛任務を受けるさ。『月の雫』は護衛はしないだろうから」
聞いているルシウスとジャスも難しい顔だ。
「オークダンジョンの殲滅は『金の剣』に依頼されるんじゃないのか?」
ジャスは、前からバッカスが嫌いだったし、『草原の風』から話を聞いて、この依頼を受けるべきか考え直しているみたい。
ただ、私は膝の上でミルクを飲んでいる白猫に言われるまでもなく、女神様の神命がくだっているんだよね。
「『金の剣』が引き受けてくれるさ!」
ルシウスの楽観的な票に一票入れておく。
『草原の風』もギルドマスターに『月の雫』の遣り方は報告していると思うからね。
脳筋のギルドマスターが相棒だったパンサーが復帰した件で、混乱してなきゃ、『月の雫』に任せたりしないだろう。
うん、それを期待したい!
『草原の風』もお疲れモードなので、今日は早めに解散した。
雨が降っているので、湿気が凄い。北の大陸育ちには辛い季節だ。
追っ手が来ないなら、交易都市で暮らしたい気分になる。
雨に濡れないようバリアを掛けて、金熊亭まで歩いていると、チラリと懐かしいチビ達の姿が見えた。
声を掛けようかと思ったが、雨を避けるように走り去った。
「雨が降らない寝床が見つかったのだろうか?」
心配になったけど、私より逞しいのかもしれない。
頭の上の白猫が尻尾で顔を叩く。
「人を助ける前に、もっと強くなれ!」
その通りだけど、ちょっとムカついたので、お風呂に入れよう!