暗闇ダンジョンは甘くない!
私の聖魔法とピカピカ武器で、十五階まできたけど、何だか様子が変だ。
「おどろおどろしい雰囲気だな!」
暗闇ダンジョンだから、ホラーな雰囲気なのは最初からだけど、空気が重い。
「アレク、ホーリー全開だ!」
白猫の指示で「ホーリー!」を掛けると、少しだけ空気が軽くなった。
「ここのボスは、重力魔法持ちかもな!」
えっ、白猫ってダンジョン作ったんでしょう?
「瑣末な事など一々憶えていない!」
酷い! でも、文句を言っても仕方ないから、脳内地図で探索する。
「あっちの沼に隠し部屋があるけど……パスする?」
見るからに毒がありそうな紫色のブクブク泡が出ている沼! そう、十五階は、薄気味の悪い湿地帯なんだ。
足元は、ずぶずぶだし、腐敗臭もキツい。
「いや、二度とこの階は来たくないから、攻略しよう!」
ルシウスも臭いには閉口している。ダンジョンに入る前に塗った松脂の軟膏を塗り直すよ。
足元が悪いのに、湿地からスケルトン騎士やグールが湧いてくる。
「ホーリー!」全開だよ。弱った魔物に二人がトドメを刺すけど、なかなか進まない。
「機械馬を出してくれ!」
裸馬では拙いから、騎馬騎士の馬だけ出してもらう。
「沼の隠し部屋まで急ごう!」
白猫も臭いが嫌なのか、サッサと攻略したいみたい。
機械馬で隠し部屋まで走る。後ろから、スケルトン騎馬騎士が追いかけてくるけど、先ずは隠し部屋を優先!
この沼の水は毒がありそう。機械馬が弱っている。腐食されているんだ!
「召喚獣は、召喚しなおせば良いだけだ!」
白猫は割り切っているけど、それで良いの?
体重負荷の大きいジャスを乗せていた機械馬が倒れそうだ。
「新しいのに乗れ!」
白猫が三頭出したけど、乗り換えのタイムロスで、後ろから追撃しているスケルトン騎馬騎士に追いつかれた。
「あいつらの相手は、騎馬騎士にさせる」
召喚士としては、正しいのだろう。私は、使い捨てみたいでチクッとしちゃった。
「馬鹿か! レベルアップさせないといけないのだぞ!」
それは、白猫もレベルアップするって意味なのかも。
なんとか沼の真ん中の小島に着いた。隠し部屋は、階段を降りた場所だ。
卵が腐ったような臭い! 硫黄かな?
「扉を開けるぜ!」
ジャスも少し緊張しているみたいだ。
扉を開けたら、そこは火山帯だった。
「白猫! 暗闇ダンジョンに火山? 可笑しいんじゃない?」
思わず文句を言っちゃった。
「いや、出てくる魔物は、ほらグール大トカゲとか、グールワイバーンだから!」
ルシウスもジャスも臨戦体制だ。
「ホーリー! ホーリー! ホーリー!」で私も先制攻撃だよ。
弱って落ちたグールワイバーンをルシウスとジャスが仕留めて、グール大トカゲは、ホーリーランスでトドメを刺す。
火山地帯なので、マグマが見える。落ちたら死にそう!
それに暑い! 快適シャツを着ていても、顔や下半身は暑さから免れないからね。
「もう一度、裁縫部屋に行かなくてはな!」
ルシウスも、ズボンが欲しいみたいだけど、絹生地だから、ズボン下かな? ステテコ?
そんな馬鹿な事を考える暇なんてない。
「ホーリー!」全開だよ。
ホーリーで弱らせて、討伐していくけど、あの火山の麓のボスって、遠目でよく見えないけど……スケルトンドラゴン?
「あれは、レッドドラゴンの骨だな。普通なら、炎攻撃には強いが、今はスケルトンだから、ジャスは炎の剣だ。アレクは、ホーリーランス!」
ジャスは、炎の剣でぶった斬ろうとするけど、魔法耐性も物理耐性も強い。
「闇の火を吐くぞ!」
白猫の注意で、バリアを張る。黒い炎で、バリアが壊れそうなので、二重、三重に張りなおす。
「アレク、ホーリーランスだ!」
私のホーリーランスは、手に持っている槍のイメージに引き摺られて細いんだよね。
白猫が騎馬騎士を召喚して、その武器の円錐形のランスを私に取れと言う。
「これって重そう!」でも、細いホーリーランスでは、スケルトンドラゴンには効かない。
身体強化でランスを持ち上げて、振り下ろしながら「ホーリーランス!」を撃ち込む。
ジャスとルシウスも攻撃に参加して、タコ殴りだ。
ゼィゼィ、なんとかスケルトンドラゴンを討伐できたけど、竜の肝は期待できない。スケルトンだからね。
「おっ、宝箱だ!」
スケルトンのドロップ品は、竜の骨だった。武器を作る素材に良いそうだ。弓を作ってもらおうかな?
宝箱に期待しているルシウス! 鑑定したら、罠がある。
「開けたら毒が出るみたい!」
離れた場所に置いて、白猫が召喚した機械兵に開けさせる。紫色の毒がシュッと出たけど、機械兵は平気みたい。
「浄化!」を掛けてから宝箱に近づく。
中には、スケルトンドラゴンの盾が入っていた。
「へぇ、聖魔法以外は全て跳ね返すし、物理攻撃も軽減!」
鑑定したら、優れものだった。
「これはジャスがマジックポーチに入れておけ!」
ジャスは、スケルトンドラゴンの盾を持って、感じをつかもうとしている。
「ちょっとの間は、シールドバッシュの練習をしたい」
炎の剣を出す為の大剣をしまい、ピカピカの大斧はベルトに挟んで、大盾を持って歩く。
魔導書で得た「炎の盾!」で、十五階のグール騎馬騎士達をぶっ飛ばしていく。
でも、段々とまた空気が重くなっていく。
「なぁ、これってベヒーモスじゃないのか?」
ジャスの言葉に、ルシウスが首を傾げている。
「ベヒーモスは、中級ダンジョンボスだろう? 暗闇ダンジョンは二十階あるのに、十五階でベヒーモスが出るか?」
可笑しい! 白猫を頭の上から下ろして、顔と顔を合わせて話をする。
「なぁ、なんかやった?」
白猫は、素知らぬ顔だ。
「アレクが、ベヒーモスの皮が欲しいと願っているから、女神様のプレゼントではないのか?」
マジで? ちょっとそれは困ります!
「ベヒーモスは、ベヒーモスでもグールだから、皮は腐っているかもな……ドロップ品なら大丈夫なのか?」
まるで他人事の白猫は、置いておいて、三人で協議する。
「グールベヒーモスかも……」
ルシウスとジャスは「そんな事だと思ったよ!」と笑ってくれたけど、本当に困るからね! 後で、教会に行って文句を言っておこう。
「ベヒーモスでも、グールだから、本体よりは弱い。スケルトンドラゴンに勝てたのだから、グールベヒーモスぐらい楽勝だ!」
白猫の無責任な言葉に、涙がでそうだよ。
臭いけど、ここで休憩して、回復薬を飲む。
「女神様は、オークダンジョンの殲滅を命じられたぐらいだから、強くなるように中ボスを用意してくれたのだろう」
ベヒーモスは中ボスじゃないと思うけど、これを倒すしかないのか?
「十階に戻る?」と二人に聞いてみる。
「いや、グールベヒーモスぐらい討伐できなくて金級は目指せない。ジャスは盾役! 俺は、大地の剣で戦う。アレクは神聖魔法とホーリーランスだ!」
恥ずかしいスキルだけど「ファイト一発!」も叫んでおく。
うん、グールベヒーモスなんか中ボスに思えてきたよ。ベヒーモスは、土竜のような、熊のような魔物だ。それが腐っている。非常にキモい!
先ずは、グールだから「ホーリー!」だ。白猫は、機械騎馬騎士に総攻撃を命じている。
ジャスの炎の盾! シールドバッシュ! かなり効いているけど、グールベヒーモスの重力魔法で、機械騎馬騎士が崩れ落ちた。
「バリア!」で直接攻撃を防ぎ「防御!」で重力魔法を軽減する。
ジャスのスケルトンドラゴンの盾に護られながら「ホーリーランス!」を連発。
ルシウスは「大地の剣!」で連続攻撃! 重力系のベヒーモスには有効みたい。
いざとなったら、女神様の裁きを出そうかと思ったけど、なんとか討伐できた。
「女神様! お願い!」
教会に文句を言いに行くのはやめるから、ベヒーモスの皮をドロップさせて!
『勝手な愛し子ね!』女神様の苦笑が聴こえた気がする。
「おお、ベヒーモスの皮だ!」
私は駆け寄って、皮を抱きしめる。うん、腐っていない!
「女神様、感謝します。でも、強敵を用意するのはやめて下さい!」
これ、本当に重要だから!
他にもドロップ品があり、大きな魔石とピカピカのランスだった。
「ははは、これでアレクも暗闇ダンジョンで無双できるな!」
ジャスが大笑いしているけど、神聖魔法だけでも無双状態だよ。ホラーは嫌いなの!
「今日はこれまでにしようぜ!」
ルシウスも疲れたみたい。それはジャスも私もだよ。全員に浄化を掛けて、転移陣で地上に戻る。
隠し部屋のドロップ品と中級回復薬以外は、全て売る。
金熊亭に戻って風呂に入らなきゃ! いくら浄化を掛けても、気持ち悪いからね。
「白猫も洗わなきゃね!」
何百年、千年? も風呂に入ってないのだから。ブラッシングから念入りに綺麗にしなきゃね!




