第六話 コーリング!#C
一通りのレクリエーションを終えたましろたちは、軽くシャワーを浴びてレッスンを終わりにし、別荘のリビングでテレビをつけて談笑していた。
「恭香さんまだ笑ってる」
「だって、ましろと千里さんの絵、すっごい良くて、っふふ……また絵心対決やろうね、ふふふ、あーダメだツボっちゃった、あははは」
「もう、そんなに笑われると恥ずかしいわ~」
恭香が笑い続ける中、テレビのチャンネルを変えていたましろがその手を止める。見ると、今始まったばかりのクイズ番組が映っていた。番組レギュラーとゲストの二チームに分かれて競うタイプの内容で、どうやら今日の放送では放送中の夏ドラマ出演者によるチームが挑戦するようだった。
『今夜は水曜ドラマ”夕暮れが、君を染める。”チームが登場! 主演の紅香さんとチームセブンライン朝波海月さんのPrincipal対決、勝つのはどちらか!』
注目のカードとして紹介されていたのは、二人のアイドル。
Principal―――恐らく、国内で今最も有名な女性アイドルグループ。楽園エンタテインメントから七年前にデビューした、五人組ユニットだ。大手の出ということもあってか、デビューしてから他の追随を許さぬ勢いでその名を大きくしていき、四年の間に国民的アイドルの座まで上り詰めており、アイドルに興味がなくともその名前を知らない人間の方が少ない。
今やテレビ・ラジオ・SNS・動画投稿サイトのどこを見ても、彼女らを見ることなく過ごすのはほぼ不可能と言ってもいいレベル……正に、アイドルとしてひとつの頂点にいると言って差し支えないような存在だった。
画面の中では、気の強そうなつり目にロングヘアの女性と、ボブカットに眼鏡をかけた知的で優しそうな女性が向かい合う光景が映されている。
『さあ紅さん。今回メンバーの海月さんが相手だけど、どう? 普段から勉強してるとこも見てると思いますけど』
『ま、よく見てますね。だからアタシも今日はちょっと、連勝止めてお灸を据えてやろうかなと』
『おぉ、やる気十分ということで! なんかね、全然勉強してそうな感じには見えないけど』
『オイ』
『海月さんの方はどう、自信ある?』
『もちろんです。香さん玲良ちゃんと同じでムキになりやすいんで、最初から飛ばしてペース掴んじゃおうと思います』
『簡単には負けてやんねーからな』
どこか楽しそうなやり取りをする二人を見ながら、彩乃がぽつりと呟く。
「Principalかぁ……」
アイドルになる前であれば、その存在は強く意識することのない、有り体な言い方をすれば雲の上、別世界にいるものと認識していた。しかし、自分がその世界に飛び込んだ今、彼女たちは目指すべき最終目標のひとつという現実的な存在となる。だからこそ、ただ目にするだけでも強いプレッシャーが心にかかるようになっていた。
そんな中、ましろも呟く。
「あの人たち、どんな景色見てるのかな」
どこか抽象的な言葉の意味を、はっきりと察せたものはその場にいなかった。それがただ収録現場の話をしているのか、それとも”国民的アイドル”という看板を背負うことに対する認識の違いを意味しているのか、それはましろのみぞ知るところだ。
と、そこへ玄関から柴崎が現れる。
「お取り込み中失礼致します。ご夕飯のバーベキューが準備できましたのでお知らせに参りました。すぐ始められますか?」
それを聞いて、レッスンで体力を消費している食べ盛りの四人が首を横に振るはずもなく。
「私すぐ食べたい!」
「あ、あたしも、できたらすぐお願いします!」
「わたしも~」
「ですって~、それじゃ外に出ましょうか~」
一も二もなく手を挙げた恭香に続いて、彩乃とましろが返答する。それを見た千里が先導する形で、ジャージ姿の四人は外へ出た。
庭は広く取られており、湖のほとりという絶好のロケーションが映える。バーベキュー用にセットされたテーブルの周りには、既に後藤と見知らぬ男女が立っていた。
「あ、後藤さん飲んでる~」
「お、見つかっちまったな~? 社長にバレたら減給だから、コレな、コレ」
わざとらしく口の前で人差し指を立てる後藤の手には、恭香の言う通りビールと思しき泡立つ液体の入った、プラスチック製のコップが握られていた。
「紹介するわね~、こちら笹塚と井之頭。二人ともうちのお手伝いさんなの~」
一方、千里が並び立つ男女を平手で示しながら紹介する。笹塚と呼ばれた女性が先に、井之頭と呼ばれた男性が後に礼をしてから、既に点いている火を育てる作業に戻っていった。
テーブルの上には、肉を中心に様々な食材が乗せられており、見るだけで心躍る光景となっていた。
「うわぁ~! 夢みたいかも!」
「恭香さん、お肉大好きですもんね」
「よく動かれる皆様のために、タンパク質を十分に摂取できるようご用意しました。満足いくまでお召し上りください。焼き上げはあちらの二人に頼めばお望み通りに仕上げます」
普段は年長者として周りを気遣う恭香も、この時ばかりは目を輝かせて鉄串に次々と肉を刺していく。同じように千里が手当たり次第に食材を焼かせていく中、ましろと彩乃は相談しながら少しずつ焼く対象を選ぶ。後藤は酒を少しずつ飲みながら既に頼んでおいた肉を待ち、三人の使用人は忙しなく動き回っていた。
やがて、炭の音に遅れて肉の焼けるいい匂いが立ち込めてくる。いの一番に焼き上がった肉をもらった恭香は、胡椒香る牛肉を実に幸福そうに食べ始めた。その後も、各々が好きに選んだ肉、野菜が次々と音を立てて熱され、辺りに芳醇な香りが満ちていく。野菜で挟んだ肉にかぶりつく彩乃、マイペースに食べ進めるましろ、上品な所作ながら次々と胃に詰め込んでいく千里と、四者自由な食事時を過ごす。
それまでのレッスンや特技披露で体力を消費していたこともあり、この夜のバーベキューは誰もが普段よりも多くの量を食べていた。
四十分後、すっかり食事を終えた四人は、用意されたベンチに座って一段落ついていた。都心を離れ自然の中にいると、夜空に浮かぶ星は段違いに多く、より輝いて見える。
「いやー……いい体験したー……千里さん、皆さん、ありがとうございます」
噛み締めるように独り言ちた後、恭香は座ったまま姿勢を正して柴崎たちに頭を下げる。それを見た彩乃も慌てて倣い、ましろもゆっくりとした所作で礼をした。
千里は首を横に振って、どこか憂うような顔で答える。
「私にお礼なんていいのよ~。みんながいなくちゃ出来なかったことだし、本当なら私一人でやるべきところを家に頼っちゃった訳だし~」
これまで口に出してこなかったものの、母の存在を意識してアイドルの道を選んでおきながら、こうして家に頼ってしまったという後ろめたさを千里自身も感じていたようだ。その表情からは、自分一人の力に対する無念が見て取れた。
家を離れ、仕事に就いているとは言え、それでも成人してから数年の大学生。一人の力で成せることは多くなくて当然だろう。それでも、自分の出した成果を自分のものとして認めてもらいたい、という渇望を抱く彼女にとって、今回の合宿で家を頼ることが本意でなかった部分も確かにあった。
「違う、と思います」
そこへ、彩乃が口を開く。決して大きな声ではなかったが、静寂の中にあってその一言は全員にはっきりと届いた。
「確かに、こんな遠い場所で、凄いとこまで連れてきてもらって、美味しいご飯もあって、それは千里さんの家だから出来たことだと思います。けど、あたしたちのために合宿を思いついて、それを社長にまで話してもらってこんな場を用意するっていうのは、千里さんがやったことじゃないですか。きっと、他の人だったら思いつかないし、お手伝いさんに迷惑かもって考えて止めちゃうかもしれないし。それでも千里さんがここまであたしたちを連れてきてくれたのは、それだけアイドルに本気だから、ってことなんだと思うんです」
その言葉に千里がはっとした表情になると共に、恭香が言葉を繋ぐ。
「うんうん、そうだね。ましろと彩乃も悩んでるだろうし、どうにかしなきゃって思っても、私じゃこんな大掛かりなことできなかった。千里さんが、自分にできる最大限まで頑張ってくれたから、みんな答えが明確になってきたんじゃないかな」
そう言って恭香が目配せすると、ましろも笑顔で答えた。
「わたしは、おいしいご飯も食べられたし、合宿のために仕上げたダンス見せられてとっても楽しかったです!」
バトンのように繋がれていく言葉に、千里は胸の奥から何かがこみ上げてくるのを感じた。ゆるやかな風が吹いているというのに、その熱は染み入るように千里の全身へ行き渡る。
自然と上がった口角に安心を覚えながら、千里は少しだけ俯いていた顔を前に向けた。
「そうね。私、間違ってないって思ったからそうしたのよね。ありがとうみんな」
ゆっくりと立ち上がった千里が、別荘の方へ戻ろうと歩み始める。
「もう一度シャワー浴びたら、少しゆっくりする時間に」
「あっ」
彩乃が上げた声に、その場の視線が集中する。咄嗟に出た声が思わぬ反応を呼んだことで、彩乃は顔を赤らめながら、足元に置いていた花火を取り出した。
「えっと……夏だし、みんなでやったら楽しいかなと思って、準備してきたんですけど……」
正直、彩乃自身これを言うか、かなり迷っていた。あくまで今回の名目は”合宿”であり、遊ぶために来ているのではない。
しかし、季節のこともあり偶然目に入った花火を気付けば買って持ってきてしまい、今も勿体ないという気持ちが勝ってつい口に出してしまった。
恐る恐る、周囲の反応を伺う。すると、千里が珍しく鋭い声を出した。
「柴崎!」
「十五分いただきます」
言うが早いか、柴崎はアクション映画のような軽々とした身のこなしで車に乗ってどこかへ走り去る。その素早さに呆気に取られている間に、笹塚と井之頭がどこからかロウソクを用意し火をつけた。
「準備できました、お嬢」
「心ゆくまでお楽しみください」
「おっしゃ、地元一花火渡すと危ない女・後藤ちゃんに任せろ」
あまりに手早い準備と、真っ先に遊びだそうとする後藤を見て緊張が解けたのか、恭香がましろに向けてウインクした。
「それじゃ、お楽しみ第二弾ってことで」
「えへへ、大歓迎!」
次々と集まって花火を要求され、彩乃は慌てて包装を剥く。それからは、手持ち花火を楽しむ時間の始まりだった。
「綺麗ね~」
「そうですね!」
「んー、勢い良い花火って見てて気持ちいいよね!」
「うん、綺麗」
少しの時間が経つと、車が戻ってくる。降りてきた柴崎は抱えきれないほどの花火を買ってきており、中には地面に設置して使う大型のものまであった。
「お好きにご利用ください。残った分は私共で私的に楽しみますので」
更にバラエティ豊かな花火の登場で、場はいっそう盛り上がる。
「これは何~?」
「お、ちさとん目の付け所がいいな。そいつは火つけてちょっと遠くに投げると面白いぞ」
「後藤さん、結構危ない遊び方しそうなイメージなのに真面目ですよね」
「そりゃお前ネズミ花火は危ねーだろ?」
「え~い」
「全然遠くに投げれてない!」
「これさ、大筒並べてその前で演奏するの、やってみたくない?」
「おー、凄いアリ」
「とてもロックな提案ですが、今は専門家が不在ですので残念ながら」
「くー! 惜しいなー!」
そうして、更に時間が経つ。結局花火を使い切ることはできず、自然と規模を縮小していき最後は線香花火を楽しんだ。
ひとしきり花火を楽しみ終えると、千里が立ち上がる。
「楽しかったわ~! それじゃ、私先にシャワー浴びちゃうけどいいかしら~」
「あ、はい! どうぞ!」
鼻歌を歌いながら、楽しげな足取りで別荘へ戻っていく千里。それに続こうとした三人を、柴崎が呼び止めた。何かと思って振り返った三人の前で、深く頭を下げる。
「皆様、本日はお付き合いくださり、ありがとうございます」
「え、いやいや、だってこっちの都合でやってもらって、ねぇ?」
「え、あー、うん」
予想外の言葉に彩乃が焦る中、柴崎は顔を上げて続ける。
「……お嬢の母上、奥様は世界的な音楽家。旦那様は音楽レーベル企業の役員。どちらも中々家に帰ってこられず、私共の仕事と言えば掃除とお嬢のお世話ばかりでした。そして、お嬢が巣立っていった今、やることと言えば広い屋敷の掃除ばかりです」
それまでほとんど無表情だった柴崎が、悲しげな目で語る。
「誰も使わない広すぎる屋敷を、いつかもわからない予定のためにくまなく掃除して回り」
「……」
「広く長い廊下を利用してパターゴルフを嗜み」
「……ん?」
「手入れした庭で宝探しゲームに興じ」
「結構楽しんでますね……」
変わらぬトーンで挟まれたジョークに彩乃が思わず突っ込みを入れると、柴崎は少し嬉しそうな顔になって続けた。
「ですので、お嬢があのように仰っていたとしても、私共からすれば頼っていただけるのが嬉しいのです。見ているだけで刺激になる、類い稀なお人ですから」
刺激になる、という言葉に彩乃は苦笑で返し、恭香とましろは笑顔で頷く。その顔を一人一人じっと見つめてから、柴崎はもう一度丁寧に礼をした。
「世話係の仕事を抜きにした、個人的なお願いです。これからも、どうかお嬢の良き友人として、よろしくお願い致します」
後片付けに勤しんでいた笹塚と井之頭も、手を止めて姿勢よく一礼する。ましろたちは顔を見合わせた後、笑顔で頷いた。
「はいっ!」
☆
五十分後。四人は順番にシャワーを浴び、最後に出てきた恭香が髪を乾かし終えたところに彩乃がやってきた。
「恭香さん」
「ん、彩乃。どした?」
窓から月の光が差し込む中、二人は言葉を交わす。
「そっか。頑張れ!」
「はい!」
力強く頷くと、彩乃は恭香に背を向けて歩いていく。その背を見送り、窓の外を見てから恭香も歩き出した。
「さて、私も行くか!」
二階の一室。千里はスマホに送られてきた今日の写真を眺めていた。自分たちで撮ったもの、後藤や柴崎の撮ったもの、送られてきたそれらを保存して眺めるその顔は、過ぎた時を慈しむような穏やかな笑顔となっていた。
静かな部屋に、扉をノックする音が響く。どうぞ、と返すと入ってきたのは彩乃だった。
「えっ、と、失礼、しますっ」
緊張しているのか動きは固く、顔も心なしか少し赤い。その様子から千里もすぐに要件を察したものの、まずはその緊張を解こうといつも通りに返す。
「彩乃ちゃん、どうしたの~?」
「あ、えっと、その」
彩乃はしばらくもじもじと言い淀んでから、深呼吸して千里へ向き直る。
「あ! あたし! 千里さんと……ユニット、組みたいですっ!」
「あら、どうして?」
当然、理由を聞かずに承諾する訳にもいかない。手を出して、その心の内に問いかける。
「あの、今日の、演奏……聞いて。あたし、すっごい感動したんです! それで、ああいう音楽も踊ってみたいって、なって。あ、あと! ユニット組むっていうなら、ダンスもしなくちゃならないから、あたし……あたしなら、千里さんの苦手克服も手伝えると思って。あたしなりに、真面目に考えて。千里さんと、組みたいって、思いました」
話していくうちに、彩乃の顔は徐々に赤くなっていく。器用とは言えないものの、生真面目な性格がよくわかる、実直な回答だった。
「あたし、その……姉とかと違って、自信持つのが苦手っていうか、受け身な方だから。千里さんみたいに、何が起きても動じないくらい強くなりたい、ですし。なんていうか、家族を安心させられるようになりたくて。あたしに出来ることなら全部やるんで、あたしも千里さんから学ばせて欲しいんです!」
胸の前で拳を握って、思いの丈を吐き出す。家族に対する少なくない劣等感と、その家族を安心させたいという末っ子らしさの入り混じった願いは、他にない熱を持っていた。
千里は黙って頷き、彩乃が話し終わるまで相槌を打つ。そして、ゆっくりと手招きをした。戸惑いながらも近づいてきた彩乃の頭に手を置いて、優しく撫でる。
「色んなところを見て、たくさん考えたのね。ありがとう彩乃ちゃん、とっても嬉しいわ」
「そ、それじゃあ」
「ええ、私は大歓迎。一緒に、高いところまで行きましょう」
ましろは、二階テラスに出ていた。涼しい風が頬を撫で、満天の星空はいくら見ても飽きない。
何も考えず、ただ空を見上げるその視界が、突然何かに塞がれた。
「まーしろっ、何してんの」
「恭香さん」
目を塞いだ手をすぐにどけて、恭香は笑顔でましろの隣に座る。
「綺麗だねー」
「はい。だから、ちゃんと覚えておこうと思って」
話しながらも、ましろは空を見上げ続けている。そんな彼女の横顔を見て、恭香は嬉しそうに頬杖をつき微笑んだ。
「わたし、景色って好きなんです。どんなに見慣れてても、全く同じ景色ってないから。それに、わたしが今見てる景色は、わたしじゃないと見れない。わたしの身長で、わたしの目線で、アイドルになって、ユニットを組むのが遅くなって。遅くならないと、今日の景色は見られなかったから」
その考え方は、ともすれば能天気や結果論とも取れるもの、いち芸能人として正面から褒められるものではなかったが、恭香は笑顔のままそれをましろらしさ、彼女の長所と捉えて聞いていた。
―――そりゃ、月乃とは合わないよな。
憂いとも慈しみとも言えない複雑な感情を視線に乗せ、恭香はましろの横顔を見る。
「わたし、中学に入ったらやりたいことを見つけるって決めて、色々探してたんです。ひとみとかお母さんにも手伝ってもらって。でも、二年半経っても何も見つからなかった。それで三年の夏に、お母さんに勧められてアイドルのライブビューイングを観たんです。それでビックリして。アイドルって、素敵な景色を見ながら、素敵な景色を作ることもできるんだって、わかって」
それは、普段のましろでは決して見られない興奮の混じった言葉だった。頬を少し紅潮させながら話すその横顔には、紛れもない夢への羨望が浮かび上がっていた。
満天の星空を見上げながら、ましろはその羨望を展望へと昇華させていく。
「わたし、アイドルになって、新しい景色がたくさん見たい。アイドルじゃなきゃ見れない景色も、わたしじゃなきゃ見れない景色も、まだまだたくさんあるはずだから。それで、色んな景色を見たら、いつか大きなステージに立った時、わたしだけの素敵なステージができると思うんです。わたしだけに作れる景色を、ファンの人たちに見てもらいたい」
星々を映したましろの目は、これからの未来を見ているかのように無数の小さな輝きで溢れていた。言い切った後、恭香に向き直り目を細めて笑う。
それを見た恭香も、頷いてから問いかけた。
「ましろ、アイドル楽しい?」
「はい、楽しいです!」
―――考えるのは、私がやる。だから、何も考えず一緒に走ってくれる人がいい。
「私も楽しい。だから、ましろと一緒にもっと楽しいことしたい!」
勢いよく立ち上がり、恭香はましろに手を差し伸べる。ましろもすかさずその手を取り立ち上がった。
「一緒に目指そ、オーディション優勝!」
「はい!」
☆
翌週。ジュエリーガーデンプロモーション社屋には、またも十人のアイドル全員が集められていた。
資料を持った左枝が、深呼吸してから声を張る。
「みんな、ありがとう。この度、五組のユニットが出揃った。九月から、いよいよBrand New Duoの一次予選が始まる。ここまでも大変だったと思うけど、ここからが本番だ。うちから出場するのは」
表情を引き締めるアイドルたち。その顔をよく見てから左枝は宣言した。
「悠姫ましろ、音路恭香。『ファンタジスタ!』!」
ましろと恭香は、顔を見合わせて笑い合う。
「天宮月乃、栞崎ひとみ。『Luminous Eyes』!」
月乃は余裕ある笑みを浮かべ、ひとみはぐっと拳を握った。
「明星稔、菓蘭子。『ステラ・ドルチェ』!」
蘭子が両手をぎゅっと握り締め、その頬を稔が人差し指でつつく。
「堤弦音、愛内深冬。『えれくと☆ろっく』!」
弦音が深冬の手を握り、深冬とクーちゃんは頷いて返した。
「そして貴宝院千里、出羽彩乃。『Classical Wing』!」
体を強ばらせた彩乃の肩に、千里がそっと手を置く。
「以上五組、ライバルは多いがどのユニットにも他に負けない特色があると信じてる。頑張ってくれ!」
「はい!!」
☆
「そう言えば、そろそろ予選始まるよね。Brand New Duo」
「ああ、宝多さんのところも出るんだったか?」
「言うて新人だろ、宝多さんが直でプロデュースしてるわけでもないし」
「っていうかあの輝きオバケはどこ行ったのよ、本番十五分前なんだけど」
「みんなお待たせー、ちょっと長くなっちゃったけど、話ついたよ!」
「お帰りクリスちゃん。何の話してたの?」
「うん、Brand New Duo始まるでしょ。気になるから、私たちも審査員やらせてもらおうと思って交渉してきたの」
「はぁ!? 何やってんのよバカ! 今になってそんなの」
「出ていいって! Principal全員!」




