第94話 それぞれの大義名分
ケイト達は、城の追手に追いつかれる前に町を出た。
毛布にくるまったローザをレンヴィルが優しく抱き上げて馬車に乗り込んだ。
リーアもついてくる事になった。
ケイトの配下に入った訳ではないし、忠誠も誓ってないのだが、やはりあの時と同じ様に、町と自分を天秤にかけて逃げるケイト達についてくる事にした様だ。
同行を許す必要は無いが、それこそ置いていって自分可愛さにケイト達を国に売られても困るので連れていく事にした。
勿論、ケイト達もただ逃げ出す訳では無い。
この国を放っておいて、ただこの国だけが滅ぶのであれば放っておくのだが、あの状況から召喚魔法の失敗が続いて国民が少なくなれば、その矛先は他国へと向かう可能性が高い。
それが五大大国になるかもしれないし、もしかしたらクロノソレイユになる可能性もゼロでは無い。
いまは大義名分がない。なら、大義名分を作ればいい。さらに、助けた人の受け皿を用意できれば最高だ。
助けたとして、今のクロノソレイユにあれだけの弱った人間を受け入れる余裕は無いのだから。
目的地は前回ケイトが通ったのと同じウィンダムだ。
くしくもルートは同じで今回の旅とマッチしている。
しかし目的は違う。マグノリア女王を巻きこみ、他の王も巻き込んであの城の惨状を糾弾するのだ。
魔王を隠しているケイトのクロノソレイユと言う国は五大大国の力が無ければ小さく弱い為に叫んでもかき消されてしまう。
だからより大きな力を使って糾弾し、大義名分を無理やり作り出すのだ。
大義名分さえできれば、クロノソレイユの戦力は五大大国を軽く凌ぐ。まあ、ほとんどケイトとミステルトの力であるが。
この事をあの時リーアに伝えれば納得しただろう。だが、言う義理はない。
今回はついて来たが、その情報を国に売りにいく事も考えられたのだから。
夜明けの街道を、ケイト達の乗る馬車はまっすぐにかけていくのであった。
___________________________________________
「クソ、賊はまだ捕まらんのか!」
怒鳴り上げたのはアンクリシア王であった。
叫んだ勢いで、二重顎がたぷんとゆれた。
「只今、捜索中でして……」
蚊の鳴きそうな声で宰相が答えるが、それでは怒りはおさまらないだろう。
何せ国の秘密を知られたのだ。
「早く見つけ出して、そして殺してしまえ!」
癇癪を起こした様に叫ぶと、アンクリシア王はぜいぜいと息を切らした。
「ほ、報告を差し上げます! 門番の兵士が、賊の情報を掴んでいたそうです」
伝令から情報を耳打ちされた宰相がアンクリシア王に発言する。
「なんだと、早く教えろ!」
「は、はい。賊はクロノソレイユの王を名乗っており、し、しかしその正体は我が国が召喚したゴミであったとの事です!」
「なんだと!ゴミにしてやられたと言うのか!」
宰相の報告にアンクリシア王は怒鳴り散らすが、途中で何かに気づいてニヤリと口角を上げた。
お叱りが怖くて身を縮こまらせて目を瞑っていた宰相がゆっくりと目を開けると、その顔は先ほどまでとは違って機嫌が良さそうであった。
アンクリシア王にとって、ゴミの召喚者が本当かどうかなど、この際関係なかった。
五大大国が勝手に通達してきたクロノソレイユなる新参の国を、認める気は毛頭なかったのだが、ゴミがそこの王を名乗ったのならば、今回の事をきっかけに滅ぼしてやればいい。
五大大国の中心地を植民地にできれば、国としての格も少しは上がる。
失敗続きの召喚魔法の苛立ちも少しは落ち着くであろう。
「アグノスに連絡を取れ、戦争の準備だ! 今回の事で無礼を働いたクロノソレイユ国に戦争を仕掛けるのだ!」
アンクリシア王の宣言により、戦争の準備が進められていくのであった。




