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アイドルに未練がある?

 志帆と二人で恋愛映画。しかも兄妹もの。

 そんな絶妙にそわそわする二時間が終わった。


 志帆は途中から目を覚ましていて、かなりエッチなシーンも二人で観ることになった。『恋雨』は原作は少女漫画のはずだが、普通に濡れ場もあった。


 とりあえず二人でそのまま渋谷の喫茶店に入る。

 ちなみに喫茶店はチェーンじゃないくて、レトロな純喫茶だ。

 

 ハンドドリップのコーヒーと、控えめな甘さの昭和風プリンが美味しい。

 志帆の好みを事前に把握した上で選んでいるので、喜ばれた。


「どうしてあたしの喫茶店の好みなんて知っているんですか?」


「雑誌のインタビューを読んだからね」


 言ってから、勝手に調べるようなことをして気味悪がられないか心配になる。

 けれど、志帆は首を横に振って、嬉しそうに笑う。


「兄さんがあたしに興味を持ってくれて嬉しいです」


 そう言われると、俺も照れくさい。


「それにしても……す、すごかったですね。あの映画……。兄妹であんなことやこんなこと……」


 映画の感想を話すとき、志帆はずっと顔が赤いままだった。

 たぶん、俺も赤面している。


「ま、まあ。少女漫画はけっこう過激なシーンもあるからね」


 そう言うと、志帆も俺も互いに目をそらす。

 志帆はかちゃかちゃとコーヒーカップをスプーンでかき回した。照れ隠しなんだろう。


「両親が二人とも出張でいないときは毎日エッチをしているなんて設定は、その、あの……」


「良くないと思った?」


 志帆は私生児とはいえお嬢様育ちだし、アイドルだから男性経験もない。

 だから、ハレンチだと志帆が言うと思ったのだ。


 ところが志帆は首を横に振った。

 そして、表情を隠すように、カップを両手で顔の前で持つ。


「羨ましいなって思ったんです」


「え? それって……」


「あ、あたしが兄さんとエッチしたいって意味じゃなくて、その……仲良しなのが羨ましかったんです」


「あれは仲良しというか、その……兄の方から襲ってたけどね……」


 恋雨のヒーローである春人は、主人公の秋乃の兄だ。春人は高校一年生で、秋乃は中学三年生。

 二人は兄妹として育ってきて喧嘩ばかり。だが、ある日、二人は血が繋がっていないことが判明する。

 かっこいい春人を秋乃はしだいに異性として意識するようになる。そして秋乃は春人に告白し、不意打ちでキスまでするのだ。


 春人は「兄妹だから」と交際を断っていたけれど、秋乃に「お兄ちゃんの意気地なし!」と何度も挑発される。

 そして、ある日、二人きりのときに春人は秋乃を強引に襲って身体の関係を持ってしまう……というストーリーだ。

 そのうちに秋乃は妊娠が発覚する。


 とはいえ最後はハッピーエンドで、そこに至るまでの過程も割とイチャイチャしているだけなのだけれど、けっこう面白かった。

 ただ、どうしても兄妹ものだから、志帆との関係を連想してしまう。


 志帆がふふっと笑う。


「兄さんもあたしを襲っちゃいます?」


「あの映画の秋乃もそうやって挑発したせいで襲われちゃったわけだし、志帆も気をつけてよ」


「あっ、あたしが挑発したら襲っちゃうんだ?」


「かもしれないよ。本当にそうなったら志帆は困るよね?」


「あたしは……平気です。だって、あたしは兄さんの婚約者ですから、」


「でも、志帆はまだ十五歳だし」 

 

「兄さんだって十五歳でしょう?」


「だから、結婚はできないよ。日本で結婚可能なのは18歳からだから……」


「なら、三年後には結婚できますね!」


「そういうことじゃなくて……」


「あたしは乗り気なんですよ?」


 志帆がぐいと身を乗り出す。

 大きな胸が揺れて、俺は思わず赤面する。


「そ、それにしても主演の女優、エトワール・サンドリヨンの子だったよね?」


「話をそらしましたね、兄さん?」


「あ、あはは」


「でも、そのとおりです。水主町さんは努力家ですごいんですよ。いろんなお仕事に挑戦してますし、努力量だってピカイチです」


 でも、人気では志帆の足元にも及ばないんだな、と思う。そのぐらい志帆の才能はずば抜けていたんだろう。

 志帆がため息をつく。


「あたしも映画やドラマの主演とか、やってみたかったな……」


 志帆はつぶやいてから、はっとした表情になる。

 そして、慌てた様子でミルクコーヒーに口をつけた。


 もしかして……。

 俺は志帆を見つめる。


「志帆ってやっぱり、アイドルに未練があるんじゃない?」


「そ、そんなことないです! あたしは普通の女の子になりたいんです」


「本当に?」


「……ちょっとはやり残したこともありますけど」


「志帆がアイドルに戻りたいなら、俺は応援するよ」


「ありがとうございます。でも、兄さんはそれでいいんですか?」


「俺?」


「せっかく国民的アイドル、それも人気ナンバーワンを妹として独占できるんですよ? 恋雨みたいに彼女にだってできるかも」


 志帆は冗談めかして言ったが、ちょっと不安そうだった。志帆は俺の家族でいたいと望んでくれていて、でもそれがこの先も続くのか心配している。

 何より、俺に拒絶されることを恐れているのかもしれない。


 どう答えてあげるのが、良いのだろう?

 俺は考えて、そして、志帆の頭をぽんと撫でた。


「に、兄さん……?」


「志帆を独占するのも魅力的だけどさ。俺はアイドルとして輝いている志帆も好きだから」


「そ、そうですか……?」


「アイドルじゃない普通の女の子の志帆のことが俺は一番大事だよ。でも、アイドルとして志帆が活動したいなら、俺は全力で支えてあげたい。もちろん、志帆がアイドルを辞めたいなら、俺はその選択を尊重する」


 それは俺の本心だった。

 俺はもともとエトワール・サンドリヨンのことが好きだった。アイドルとして輝く画面の向こうの少女に憧れていた。


 実際の志帆は誰よりも輝くアイドルでありながら、普通の女の子でもある。

 そのことを俺は理解していた。


 だからこそ、俺は志帆の選択を尊重したかった。志帆はアイドル活動にトラブルを抱えていたようだし、それが解決できなければ復帰は難しいかもしれない。

 逆に言えば、それさえ解決できれば、本当は志帆はアイドルの世界に戻りたいのではと推測もしていた。


 志帆はふふっと笑った。


「兄さんは優しいですね。そうですね。ちょっと考えてみます。でも、アイドルに戻るために、あたしは致命的な問題があるんです」


「え、そ、それって……!?」


 志帆はいたずらっぽく片目をつぶってみせた。


「好きな男の人ができちゃいましたから」





更新間隔空いてすみません……! これから第一部完結(10万文字)まではなるべく毎日更新できればと思います!


面白い、続きが気になる、ヒロインが可愛い!と思っていただけましたら


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