アイドルの妹vs美人のお姉さん秘書
「いや、デレデレなんてしていないよ?」
「兄さんの嘘つき」
いや、まあ、たしかに智花さんのような美人から抱きしめられたら、ちょっと照れてしまう。
そこは男子高校生なので仕方ない。
「可愛い幼馴染だけじゃなくて、こんな美人の大人のお姉さんがいるなんて……」
志帆がつぶやく。
智花さんがくすくす笑う。
「ごめんね。ヤキモチ焼いてるんだ? 可愛い……」
「べつにヤキモチなんて焼いていません」
志帆がすねたように言う。どう見ても妬いていると思う。
「まあ、公一くんが私みたいな大人の女性に見惚れるのもわかるけどね。女子高生では勝てないもの」
煽るように智花さんが言う。俺はぎょっとするが、智花さんは片目をつぶってみせる。
志帆をからかって遊んでいるらしい。やめてほしい……。
案の定、志帆はムキになった。
「そんなことないです!」
「でも、公一くんはあなたにメロメロってわけでもなさそうだし」
「あたしは大人気アイドルだったんですよ!? 兄さんをメロメロにするぐらい簡単です!」
志帆は叫んでから、はっとした表情をする。
そして、みるみる顔を真っ赤にして、涙目になった。うん、可愛い。
志帆は俺を上目遣いに見る。
「あたしの方が可愛いですよね?」
そう問われると、俺の答えは決まっていた。
「もちろん、志帆の方が可愛いよ。大事な妹だからね」
「……ちょっと求めている答えと違うんですけど、まあ可愛いと思うならいいです」
志帆は照れたように言う。智花さんも美人だけど、俺は同年代か年下の可愛い女の子の方が好きだ。ロリコン……なんて言わないでほしい。俺もまだ15歳なんだから。
智花さんが「ひどーい」と冗談めかして言う。
「公一くんの浮気者」
「俺は智花さんの彼氏になったことなんてないですよ?」
「なら、なってみる?」
智花さんに問われ、俺はうっと言葉に詰まる。葉月に振られた後なので、冗談とわかっていてんもちょっと魅力的だ。
けれど、そこに志帆が割って入る。
「だ、ダメなんですから! 高校生の相手は高校生がいいんです!」
「ふうん」
「さっきみたいに抱きつくのもハレンチなんですから」
「羨ましいんだ? ならあなたも公一くんに抱きついてみたら?」
「そ、そんな恥ずかしいこと、できません!」
「ただの兄妹のスキンシップでしょう?」
そう言われて、志帆は顔を赤くしながら「スキンシップ……」とつぶやき、俺をちらりと見た。
本当にするつもりなんだろうか……?
智花さんは微笑ましそうに俺たちを見る。
「ふふっ、本当に可愛い。はじめまして。私は小牧家秘書の氷上智花です。羽城のお嬢様、よね?」
お嬢様、と呼ばれて、ぴくっと志帆が震える。
やはり志帆は羽城家の人間で、それを隠している。
不安そうに志帆が智花さんを見上げた。
智花さんは微笑む。
「怖がらないで、取って食べたりしないから」
「取って食べるって、どういうことですか……?」
「私、女の子も好きなのよね」
志帆がびっくりした表情で智花さんを見つめる。
くすりと智花さんは笑う。
「冗談はさておき、行きましょうか」
運転席に智花さんが座り、俺と志帆は後部座席に乗り込む。
車が走り出した。
鼻歌を歌いながら運転する智花さんに、俺は尋ねる。
「父がポートマンさんと再婚した理由を、智花さんは知っていますか?」
「愛し合っていたからでしょう?」
智花さんはからかうように言う。
「そういうことではなくて……」
「なら、どういうこと? 人と人が結婚するのに、愛し合う以外の理由がある?」
「いろいろあるでしょう。小牧家なら、なおさら」
「そうねえ。もちろん、あなたのお父様――社長はポートマンさんを愛しているわ。仮に、他の理由があったとしても、この場では話せないかな」
智花さんは言う。たしかにここには俺だけではなく、志帆もいる。デリケートな話題だったかもしれない。
ただ、志帆は平然とした顔をしていた。もともと母親と折り合いが悪いし、政治的な理由での結婚かもしれないとは知っていたのだろう。
それに……。この智花さん自身が父さんの愛人だなんて噂もあるわけだけれど、そのあたりは父さんはどうするつもりだったのだろう?
智花さんは小さくつぶやく。
「みんなが幸せになれるといいのだけれど」
「え?」
「まあ、これはわたしのお祈りみたいなものかしら」
智花さんはふふっと笑ったけれど、その表情はどこか寂しそうだった。
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