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秘書・氷上智花

「あっ……でも、あたし、ドレスを持ってきていないですね」


 志帆が困ったような表情で言う。

 最小限の荷物で来たみたいだし、当然だろう。


 ただ、「持ってきていない」ということは「持っていた」ということだ。


 そもそも普通の女子高生はパーティ用のドレスを持っていたりはしない。

 今回の場合、普通の結婚式で来ていくようなドレスと比べて、かなりフォーマルなドレスが求められるからなおさらだ。


 ただ、志帆はアイドルだったわけだし、実は名門・羽城家の娘なのだから、持っていてもおかしくない。


 いずれにせよ、ドレスの用意が必要だ。


「なら、明日、一緒に買いに行く?」


「えっ、いいんですか?」


「もちろん。休日だし。帝急の百貨店に行けば、ちょうどいいものがあると思うよ」


 帝都急行電鉄は百貨店も経営している。渋谷に本店があるから、ここからは歩いていける距離だ。

 小牧家の外商みたいな人もいるし、父の秘書を通せば話を聞いてくれるはずだ。


「兄さんとデートですね!」


「えっ」


「じょ、冗談ですよ?」


 志帆が顔を赤くして言う。冗談でも心臓に悪い。

 俺も頬が熱くなるのを感じた。


「でも、楽しみにしています」


 くすっと志帆は笑って言う。




 

 翌日の午前、俺たちのマンションの前に一台の車が止まっていた。

 黒のレクサスだ。


 小牧家の秘書に迎えに来てもらったのだ。


 外出するにしても、志帆が渋谷の街を歩いていたら目立ってしまう。

 俺と志帆はそれぞれよそ行きの格好に着替えていた。


 志帆はフリルのついたワンピース姿で、清楚で可憐、まさにアイドルといった見た目だった。


「どうですか、兄さん?」


 志帆がワンピースの裾をつまみながら、くすっと笑う。


「すごくよく似合っているよ。えっと、その……めちゃくちゃ可愛いと思う」


「そ、そうですか! 良かったです。兄さんもかっこいいですね」


 そう言われても、俺はシンプルに無地のTシャツの上にジャケットを羽織っているだけなんだけど。

 まあ、でも「かっこいい」と言われて悪い気はしない。葉月になら、可愛いと言われているところだったし……。


 相手が志帆なら、なおさらだ。

 妹にかっこいいと言われれば、たいていの兄は喜ぶと思う。まあ、俺は妹ができてから、一日しか経っていないから、世の中の兄の気持ちはわからないけど……。


「ずいぶんと仲が良さそうね」


 そんな俺たちに明るい声がかかる。

 はっとして振り向くと、そこには長身のすらりとした女性が立っていた。


 20代後半のすさまじい美人だ。

 短めの明るい茶色の髪に、タイトスカートの灰色の高級スーツ。いかにも有能なキャリアウーマンという感じがする。


 彼女はぱっと顔を輝かせると。


「久しぶり~! 公一君! 相変わらず可愛いね」


 突然、彼女は俺を抱きしめた。

 ぎゅうっと抱きしめられ、女性らしい身体と甘い香りに俺はくらりとする。


「や、やめてくださいっ! 智花さん」


「あっ、照れてるの? ほんとは嬉しいくせに」


 そんなことを言いながら、彼女は俺の髪を撫でる。

 この人は小牧家の秘書、氷上智花さん。東大卒、弁護士資格あり……という超有能な社員だ。


 そんな彼女は帝都急行電鉄の幹部候補生として、今は社長秘書を務めている。


 秘書といっても雑用をやっているわけではなく、経営のために重要な情報を収集し、社長をサポートする大事な役目だ。


 俺の父からの信頼も厚いとか。愛人疑惑をかけられているぐらい親しいとも聞く。

 そんな彼女は俺のことを過剰に気に入ってくれている。将来の小牧家後継者と親しくしておこうという、打算もあるのかもしれないが、しかし……。


「お願いですから、俺を愛玩動物か何かのように扱うのはやめてください……」


「えー、いいじゃない! なにかご不満?」


「いろいろ不満です」


 俺が暴れると、「残念」とつぶやき、仕方なさそうに智花さんは俺を放した。

 はあっと俺はため息をつく。

 

「智花さんも相変わらずで何よりです」


「まあ私が元気なのはいつものことだから! 今日も絶好調!」


「でしょうね……」


「それにしても、妹さんと仲良しみたいで安心したわ」


 智花さんがふふっと笑う。

 振り返ると、志帆がぷくっーと頬を膨らませている。


 ど、どうしたのだろう……?


「兄さんが大人の女の人にデレデレてしている!」


 志帆はそう言って、俺をジト目で睨んだ。

 つまり、嫉妬されている……のかな?

 






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