第八話「先手必勝」
夏に入り、若干の暑さを感じながら私は登校する。そんな最中、ふと私の脳裏に、昔の出来事の記憶が蘇ってきた。
私は昔から勝負をするのが好きだった。それは幼稚園に通っていた時もそうで、遊ぼうとすればとにかく競い合いを持ち込んだ。だが生憎と私のそんな性格は周りには受け入れてもらえず、友達との仲が長く続くことはなかった。
それは中学校までも何度かあったことで、私の親はずっと心配していた。
そして高校初日。私は緊張する気持ちを抱えながら指定された席につく。中学校の頃からの友達と楽しそうに話す生徒、圧倒的なコミュニケーション能力で早速新しい友達を作る生徒。そして、隣の席にはものすごくおとなしい生徒・・・・・それがヒデだった。まあ、この時間は静かに過ごそうと思っていた、そのとき、
「よろしくお願いします」
ヒデから突然話しかけられた。私は正直関わることはないと思っていたので、驚いて目を見開いた。
まあ無視はよくない。私は短く「うむ」とだけ返した。そしてそれを機に、私たちは関わるようになり始めた。
「正直、高校からは勝負はやらないと決めていたんだが・・・・・」
ヒデのおかげで私は好きなことが続けられている。そう思うと、自然と楽しくなってくる。
「今日の勝負考えるか」
そして今日も今日とて、私は敵対視する。
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体育の時間。僕達のクラスはグラウンドに集まった。そこにいる人達の多くは嫌そうに声を漏らしている。なぜなら今日は持久走だからだ。
ちなみに僕も気は進まない。若干嫌気が差しながら先生の指示を聞いていると、皆とは違ってウキウキした表情のサヤカさんがスッと近寄ってきた。
「今日の勝負だ」
「今ですか」
「勝負は、先にコースを走り切ったほうの勝ちだ」
「・・・・・・・・・」
僕は黙り込んだ。
男子は1500メートル。女子は1000メートル。どう考えても不利なのだ。
「・・・・・変えよう」
流石にサヤカさんも気づいたようで、顎に指を当ててまた別の勝負を考え始めた。
「よし、しりとりだ」
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というわけで切り替わった勝負、それはしりとりだった。言葉が浮かばずに詰まった方の負け。相変わらずシンプルなルールである。
ちなみに持久走は出席番号を半分で分けた前半と後半でそれぞれ行う。僕とサヤカさんは前半なので、同じターンにスタートというわけだ。
僕は女子と男子でターンを分けるかもしれないとサヤカさんに話すと慌て出したが、この形式を聞いてホッとしていた。この勝負が破棄になったら今日はもう案がなかったらしい。
意外と苦労してるんだなぁ・・・・・。
「始めるぞー」
すると、先生がホイッスルを持って構えた。そしてすぐさま甲高い音が響いて、前半組が走り出した。
というわけで、しりとり開始だ。先行は持久走開始前のじゃんけんで僕だと決まっている。
「では。しりとり」
「リス」
「すいか」
「勝つ」
「・・・・・」
それってアリなの?
まあ、サヤカさんらしいということで気にしないでおこう。
「通話」
「なあ」
と、急に普通に話しかけられた。
「今度通話しないか?」
「何かの勝負ですか?」
「いや、興味があるだけだ。ワンコ。・・・・・そういえば、ヒデは犬派か? 猫派か?」
「強いて言うと猫ですが・・・・・駒」
「マッチ」
い、一体なんだろう。あの勝負好きのサヤカさんが、まるで進行を邪魔するかのように会話を挟んでくる。
僕は不審に思いながらしりとりを続けた。そして、また何度も同じようなことが繰り返されたのだ。
サヤカさんが「誕生日」というワードを出したとき。
「そういえば、ヒデの誕生日を知らないな」
「3月30日です。確かに話したことなかったですね」
「そうか。・・・・・当日は学校では会えないんだな」
「春休みですね」
そしてサヤカさんはなぜか寂しそうな顔をする。
僕が「趣味」というワードを出したとき。
「趣味ってあるか?」
「う、うーん。読書ですかね・・・・・」
「そうか。私は趣味がなくてだな」
「ちょ、ちょっと待ってください。しりとりしません!?」
「すまん」
と、長々続いたしりとりにも、ようやく終わりが来た。
「店」
「先手必勝」
「・・・・・おっ」
突然、サヤカさんは何か閃いたようで、ドヤ顔を見せつけてきた。
こういうのは大体沈没する。もうサヤカさんの性質は掴んできた。
そして、
「WIN」
予想的中のようだ。
「負けですね」
「なっ」
「おーい佐木山、香山! ちゃんと走れ!」
サヤカさんの負けが決まって、先生にも注意されたのでこれにて勝負は終了となった。
「・・・・・先手必勝だな」
「別に何も仕組んでませんけどね・・・・・」
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その日の帰り道。いつも通り僕達は一緒に下校している。
僕は問いかけた。
「今日の体育の時間、どうしたんですか? なんかいつもと様子違いましたけど・・・・・」
「まあ・・・・・詳しくなろうと思ってな」
「え?」
「敵については詳しくなっておいた方が有利だろう」
まあ確かに、と僕は心の中で頷く。
だが、引っかかる。今日サヤカさんが得た情報は、全てが今後の勝負に活かせるとは思えない。
だから僕は、つい言葉にしてしまった。
「それ以外になにか考えてるんじゃないですか?」
「む・・・・・」
どうやら図星のようだ。
僕が目線で圧をかけると、参ったサヤカさんはゆっくりと口を開いた。
「・・・・・友達のことは、もう少し知りたいじゃないか」
「友達?」
その瞬間、僕の脳内に宇宙が広がる。
あのサヤカさんが、僕を友達呼ばわりした?
「な、なんだその顔は」
「あっ、いえ。・・・・・顔真っ赤ですよ」
「いや違っ、これは夕暮れのせいだ!」
「そんな典型的な・・・・・しかも夕日まだ出てませんよ」
友達、か。僕は最初から友達だと思っていたが・・・・・サヤカさんから直接言われると、なんだか嬉しい。そして、無意識に笑っていた。
「じゃあ、サヤカさんのことも教えてください。僕ばっかり話してたので」
「・・・・・誕生日は8月7日だ。趣味は分からないが、苦手なことは勉強だ。猫派。身長は150センチ・・・・・いずれヒデを超えてやる」
と、サヤカさんは一気に話し始めた。
またまた笑ってしまう。
「僕より教えてくれますね」
「ふん、その分お返しは期待するさ」
そしてサヤカさんはニッと笑ってみせる。
「それじゃあ、また明日」
分かれ道で、僕達は手を振った。今日の「また明日」は、なんだかいつもより寂しい感じがした。だがその分、明日が楽しみになる。
「嬉しいな」
僕はサヤカさんと仲良くなれた気が感じられて嬉しかった。
そして、今日という日は、これからの僕達の関係のターニングポイントとなる。




