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今日も今日とて敵対視  作者: リュウ星群
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第六話「油断は禁物」

 下校時間。

 

「うわぁ」


 無意識にそう呟いていた。

 無理もないだろう。霧で前は見えないに等しく、地で跳ね返れば段差を軽々と越える勢い。そんな大雨を目の前にしていたのだから。

 横のサヤカさんも真顔で似たような反応をする。

 ため息をつきながら、僕は傘を差した。しかし、サヤカさんはそんなそぶりを見せない。


「・・・・持ってない感じですか」


 察した僕はそう尋ねる。

 僕の予想通りらしく、サヤカさんはびくりと肩を震わせてから「うむ」と短く返事を返した。


「よかったら」

「これは機会だ!!」


 よかったら一緒に入りませんか、と誘おうとしたところでサヤカさんに遮られる。

 両手で拳を握るサヤカさんが言葉を続ける。


「ヒデが傘を使おうが構わんが、私はこのまま突っ走る」

「本気ですか・・・?」

「勝負はこうだ。明朝、体調の優れない方の負けだ」

「体張りすぎです・・・・」


 一体それに何の意味が・・・・ん?

 今回だけじゃなく、今までの勝負も改めて考えれば意味が・・・・・・・いや、考えるのはやめておこう。


「無理せず傘に入ってくださ」

「さらばだ!」


 傘を寄せようとした瞬間、サヤカさんはもう走り出してしまっていた。


「はあ・・・・・」


 どんどん小さくなっていく背中を見ながら、僕はため息をついた。


「せめて滑らないように気をつけてください・・・・・」


 聞こえるはずのない声量で注意だけして、僕はサヤカさんとは真逆にゆっくりと歩き始めた。

____________________________________


 18時頃。

 

「本当に大丈夫かな・・・・・」


 机の前に座りながら携帯をいじっている時、唐突に大雨を突っ走ったサヤカさんが脳裏をよぎった。

 そして、無意識に席から立ち上がっていた。


「・・・・・・行くか」

____________________________________


 つい来てしまった。

 サヤカさんの家を前にようやく己の行動に後悔し始める。

 念の為にコンビニで用意したゼリーの入ったビニール袋が、後悔の勢いを増させる。

 しかし、ここまで来て退くわけにもいかず・・・・・・僕は恐る恐るインターホンに指を伸ばした。


『はい?』


 お決まりの音色が響いた後、知らぬ女性の声が機械越しに聞こえてきた。きっとサヤカさんの母親だろう。


「こんな時間にすみません。サヤカさんいますか?」


 問いかけの後に「さっちゃん、友達来たよ!」という声が聞こえ、続け様に足音が響いてくる。

 そして、勢いよく扉が開くと、


「ひ、ヒデ!? どうしたこんな時間に・・・」


 特になんの変哲もないサヤカさんが現れた。


「あ、えっと・・・・・大丈夫ですか?」

「ん? ああ、平気だが・・・・・・?」


 その返事を聞いた途端、安心したのか僕はため息を吐いた。

 

「今日大雨を突っ走ったので、風邪でも引いたんじゃないかと・・・・・・」


 というか、なんと馬鹿なのだろう。

 携帯で連絡すればよかっただろうに。


「そうか、すまなかったな・・・・。ただ、それだったら携帯で連絡すればよかったんじゃないのか?」


 このタイミングで言わないでほしい。

 そして、チラリとサヤカさんの視線に釣られてゼリーの入ったビニール袋に目が行く。


「こ、これは・・・・。えっと、よかったらどうぞ・・・・・・」

「いいのか? 嬉しいが・・・・」


 素直に受け取ってくれたサヤカさん。

 それで少し気分が落ち着いてきた。それでもまだ少し、焦るような気持ちが残る。

 と、ふいに。


「よかったら上がってくれ」


 予想外の発言があった。

____________________________________


「まあ、入っても特に用はないと思うが・・・・」

「・・・・お邪魔します」


 早速僕はサヤカさんの部屋に案内された。

 自由に座ってくれと頼まれたので、僕はちょうどカーペットが敷かれたその場で正座。


「心配かけてすまなかった。見ての通り、元気ピンピンだ」


 気を遣っているのか、慣れない笑顔でサヤカさんはそう言う。

 

「まあ、大事なのは明日なんだがな」

 

 と、そこで明日の朝の具合が勝敗を決めるのだと思い出す。


「今夜はちゃんと温まって寝てくださいね」

「ふっ、そうする」


 何がおかしいのか、サヤカさんはクスクスと笑い出した。

 顔に出ていたのか、サヤカさんは察したように語り出す。


「いや、いつものヒデとは違った様子だからつい、ふっ・・・・すまん、ふふ」


 謝りつつも笑うのをやめない。

 そんなサヤカさんを見ていたらなんだか僕も笑えてきて、しばらく一緒に笑い続けた。

 そんな雰囲気もしばらくして切り替わり、サヤカさんがゼリーを食べ始める。味が好みだったのか、嬉しそうな顔で食べ続ける。と、じっと見られていたことに気づいて、サヤカさんが恥ずかしそうに手を止める。


「す、すまん、一人で勝手に」

「いえ、僕が勝手に持ってきたものですし」

「今度、お返しをする」

「いや本当に大丈夫です」


 勝手に持ってきた物にお返しなどされたら、僕の気持ちはとうとう持たなくなる。

 

「でも、本当に何もなさそうで良かったです。割と本気で心配してたので・・・・」

「そっ、そんなにか」

「は、はい」


 ああ言わなければよかった。恥ずかしいぞこれ。

 ただ、サヤカさんはなんだか嬉しそうな顔でこちらを見ていた。


「ふん、敵の身を案ずるとは」


 それがなんだか照れ隠しに見えるのは、きっと僕の気のせいだろう。


「じ、実は、あの時な・・・・」


 と、ふいにサヤカさんが恥ずかしそうに話し始める。


「傘に、入らなかったのは」


 ・・・・・・・・。


「あ、相合傘がっ、恥ずかしかったから・・・・だ」


 そこで思い出す。

 あの時僕は、純粋にサヤカさんの身の為に傘を分け合おうとした。しかし、サラッと相合傘を誘っていたのだ。

 一気に恥ずかしくなる。

 

「・・・・すみませんでした」


 顔を逸らしながらとりあえず言葉を返す。

 お互い顔を合わせずに、しばらく沈黙が続く。そして同時に顔を見合わせる謎の流れとなった。

 サヤカさんはまだ恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。


「・・・・・・・・」


 なんだろう、この感じ。

 ちょっと甘酸っぱい展開が来たせいか、目の前のサヤカさんを見ていると鼓動が激しくなる。


「な、なんとか言ったらどうだ」


 サヤカさんが不満そうに言う。

 と、つい、


「可愛い」


 そんなことを口にしていた。

 サヤカさんは思考停止する。

 

 やってしまった。


「・・・・・ごめんなさい死にます」

「ま、待て待て待て!!」


 流石のぶっ飛び発言にはサヤカさんの思考も戻ってきた。


「・・・・・・・逆にヒデが風邪を引いてる可能性が出てきたぞ」

「・・・・・・・・とりあえず、今日は帰らせてもらいます」


 そして今日はそのまま帰宅することとなった。その日の夜は、全く寝付けなかった。

____________________________________


 次の日の学校。

 

「結局か・・・・・・」


 サヤカさんは学校に来なかった。朝に結局熱が出たと聞いている。勝負に負けたということで、文面から悔しさが溢れ出ていた。

 

「あれ、サヤカちゃんいない?」


 と、そこで横から聞いたことのある声が。

 チラリと視線を横に向ければ、その声の主はやはり茶川モエカさんだった。


「今日風邪らしくて・・・・」

「そっか、寂しいなぁ」


 ・・・・・・・・サラッと話しかけてきたけど、僕達そこまで仲良くないような。これがコミュ力の差か。


「まあ、寂しいですけど。・・・・今日は極力会いたくないな」


 昨日の記憶が蘇って、つい言葉が漏れる。


「なになに? 何かあったの?」


 と、何かのセンサーに引っかかったのか茶川さんがものすごく食いついてきた。ここで「家にお邪魔した」なんて言えばただでは済まないだろう。


「えーなになに! なにかあったの!?」

「秘密です!」


 今のうちに昨日の記憶は消しておかなければ・・・・・・・・。

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