第四話「仲を深めよう作戦」
「くそ、先を越されたか・・・・」
「今日は勝負なしって話じゃ・・・・?」
場所は映画館のあるモール前。
お互い家は遠くないはずだし、一緒に目的地に向かえばいいと思ったのだが、何を企んでるのかサヤカさんが目的地で集合と言い、今日の行動が決まった。
そして、冒頭の発言というわけだ。
「モエカめ、面倒なことを・・・・」
今回、ホラー映画を観て怯えた方の負けという勝負をする予定だった。
しかし、予定を立てた当日、帰ろうと昇降口で靴に履き替えていた時に茶川さんが現れた。
「あ、仲を深めてほしいから勝負は無しだよ!」
サヤカさんは見事な渋面を見せた。
「まあ、映画を楽しみましょう」
「いや、勝負は行う」
そのとき、サヤカさんは人差し指を立てて口元に寄せていた。
・・・・茶川さんには言うな、ってことか。
ちなみに今回の映画はサヤカさんが予約してくれた。そのため、僕は全く内容を知らない。
「どういう映画なんですか?」
「ベタなホラーと聞いた。主人公一味がとある廃墟を探索していた際に閉じ込められ、得体の知れないなにかに襲われるそうだ」
本当にベタだな。
ちなみに、僕のホラー耐性は普通ってところである。ジャンプスケア要素があれば流石にビクリとはするが、観れないというほどではない。まあ進んで観ることもそうないが。
チケットを購入して、僕たちはポップコーン等を売っているコンセッションの列に並んだ。大きめのポップコーン一つと二人分の炭酸ジュースを注文する。
そして、ようやく劇場に入った。予約した部屋の中心辺りの席に座ると、大きなスクリーンが目に入る。
「わくわくしますね」
「そ、そうだな」
その返答とは裏腹に、サヤカさんはビクビク震えていた。
その理由はなんとなく察することができた。ホラー映画を前にして体が拒絶反応を起こしているのだろう。
そんな状態でCMに入り、本編が始まる。
映像は主人公一味の平凡な日常会話から始まった。その会話は流れで怪談に変わり、次には廃墟に行こうという話に変わった。皆の性格もあり、反対する者は出なかった。
そして場面は変わり、主人公達は廃墟近くに車を停める。そしてそのまま廃墟に入ると、扉が勝手に閉まった。開けようとするが、微動だにしない。
そこで一旦、映像から目を離し、サヤカさんに目を向けた。
まだ序章にも関わらず、サヤカさんは体を震わせていた。大丈夫だと言っていたが、予想通りとなった。
「なあ、ヒデ」
ふいに、サヤカさんから震えた声で呼ばれる。
「負けでいいから・・・手を握らせてくれ・・・」
「えっ」
動揺した。
言われたのが手ではなく袖だったらびっくりしたとしても即答するだろう。しかし、手となると流石に言葉に詰まる。
僕はおそるおそる、手をサヤカさんに寄せた。何も言わず、ただ手を寄せる。
そして、サヤカさんが手を握る。その小さな手からどれだけサヤカさんが怖がっているかが伝わってくる。
そして、僕たちの間にほんのわずかに甘酸っぱい空気が漂った。・・・・ほんの一瞬だけ。
「・・・・ッ!」
ようやくジャンプスケアが登場したところで、サヤカさんが小さく声を漏らす。
そして、
「えっ、イタタタ」
サヤカさんの手に力がこもる。それが今まで見せられたちっぽけな力の何倍も強かったのだ。
流石に声は抑えたが、僕は痛みを声にあらわす。僕に構う余裕もないのだろう、サヤカさんは緩めることなく手を握り続けている。
「一体どこにこんな力が・・・・・」
そこから僕は、ホラー映画に向けるはずの警戒心をその未知なる手に全集中することになった。
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劇場から出た頃、僕の手は真っ赤になっていた。
「す、すまない。気づかなかった・・・・」
「いえ、大丈夫です・・・・・」
とは言いつつも、今もなおジンジンと痺れを感じる。
「あれれれれ!」
と、そこで。
「偶然だねー!」
聞き覚えのある声が乱入してくる。
「茶川さん・・・・?」
茶川さんが目の前に立っていたのだ。
「ほんと偶然だね」
「嘘をつけ」
そんな茶川さんの一言にサヤカさんがズバッとツッコミを入れる。なんとなくサヤカさんがそう言うのも分かる。露骨に偶然を装っている雰囲気がいやでも感じられるのだ。
「まあそんなことは置いておいてさ。どう? 勝てた?」
「・・・・・完敗だ」
大事なことを置いておく茶川さんの質問にサヤカさんは疑うこともなく返事をする。
が、それは見事に罠だった。茶川さんはニヤリと口角を上げる。
「勝負は無しのはずだけどぉ?」
「なっ」
鎌をかけられていたのだ。
言い返す言葉もなく、サヤカさんは参ったと言わんばかりに俯いた。
そして、茶川さんは視線を別に移した。それは僕の真っ赤な手。そして首を傾げては問う。
「手、どうかしたの?」
「あ、これは、サヤカさんが・・・・」
言いかけたところで、サヤカさんが慌てた様子で制止に入る。しかし、茶川さんはそれだけで満足だったようで、またニヤリと笑った。
「まあ結果的に仲が深まったようだし、やっぱいいや」
そういえばそんな話だっけ。ただ、あれが仲を深めることに繋がったかどうかは謎だが・・・・。
「じゃあ私、別のところ行くね。今度いいラブコメ映画紹介してあげるよ、バイバイ〜!」
と、そんなふうに姿を消してしまった。ほんとうに嵐みたいな人だった。
「・・・・今の話だが」
そこで、サヤカさんがポツリと話し出す。
「紹介してもらったら・・・・・・・また一緒に観てくれるか?」
ドキッとした。先ほどのほんの一瞬だけの甘酸っぱい空気に合わさってのタイミングが効果を果たしたのだろうが、今のはすごくドキッとした。
「・・・・はい」
そこからモール内をしばらく共に歩いたのだが、今までとは違った気分だった。
「デートみたいだとか」というサヤカさんの言葉が、きっとずっと心に残っていたせいだろう。




