第三話「作戦会議」
「え?」
そんな返事が口を衝いて出た。
なぜかと言うと、
「サヤカさん、友達いたんですか・・・?」
こういうことである。
ほんの少し話を遡ろう。いつも通り帰りのHRが終わったタイミングでサヤカさんが話しかけてきた。その内容は勝負を仕掛けるようなものではなく、友達の家に寄るというものだった。
それで、冒頭に戻るわけだ。
「し、失礼だな。一人ぐらいいる」
まあ確かに失礼な自覚はある。
それに、自分自身も友達がいないので煽るような真似もできない。
「ちなみに誰なんですか?」
「四組の茶川モエカだ」
まあ当然知らぬ名である。
「じゃあ、楽しんでくださいね」
「違う、楽しむのではない。今後の作戦を練りに行くんだ」
「さ、作戦?」
勝負の案が尽きたとか言ってたし、それかな。
とりあえず僕は鞄を背負って教室の扉に向かった。
「楽しみにしておきます」
そう言って手を振った後に学校を出た。
久しぶりの一人での下校は静かで、ちょっと寂しかった。
____________________________________
「邪魔する」
「邪魔するなら帰って!」
今私はヒデに伝えた通り、茶川モエカの家に来ている。
要件も言った通り、作戦を練りに来たのだ。ヒデに勝つための作戦。
私は前回の勝負でヒデに見事に勝利することができた。しかし、それ以外では負けているのだ。
奇跡的に掴む勝利などは求めていない。
「確実に勝てるようになりたい。何か策はないか」
私はモエカの部屋に入って早々にそう尋ねる。しかし、モエカはうーんと唸った。
「私まず、サヤカちゃんについて詳しくなりたい」
「ど、どういうことだ?」
「詳しくなりたい」に関しては言いたいことは分かる。
少し話すと、私たちが知り合ったのは中学校の時だ。とはいえ、三年生の二学期からの仲。互いに知らないことは多い。
「よりいい案を出すためだよ。なんでもいいよぉ・・・・好きなこと、嫌いなこと。後は・・・・・・」
溜めに溜めたあと、モエカは囁くような口調で、
「初恋の人とか」
こいつは生粋の恋バナ好きだ。自分は恋愛をしないくせに、人の恋バナには食いつく。
「まあ、そうだな・・・・」
私はモエカの囁きをスルーして、何を話すべきか頭の中で整理する。
・・・・・・思い付かない。
私の考えていることが丸わかりだったのだろうか。苦笑したモエカが代わりに話題を出してくれた。
「じゃあさ、なんで敵対視するの?」
「ああ、それは」
—私は小さい頃から、勝負というものが大好きだった。とりあえず、敵対視というのは勝負相手を敵として見ているという意味だ。
幼稚園にいた頃も皆に声をかけては勝負を仕掛ける毎日だった。しかし、中学生になる頃には子供の心境は変化してくる。私も例外ではなく、人に話しかけるのに勇気が必要になってきた。そこで、私が使ったのが敵対視だ。これはある意味吹っ切れることができて、人に普通に話しかけるよりも楽だった。
そういえば、モエカとの仲もそれがきっかけだったか。
まあ、そんなことで始まった縁というのは基本長くは続かなかったが・・・・それはまた別の機会で話そう。
「まとめれば、敵対視は別に物騒な話じゃない。ただのきっかけ作りだ」
「そっかそっか」
そうモエカは言うと、満足気に何度も頷いた。
「もっと話を聞きたいけど、そろそろ作戦・・・・だっけ? 考えないといけないよね」
「ああ。話を聞いて、何か思い付いたか?」
「うん」
続けてモエカは話し続ける。
「まずサヤカちゃんは人との仲をもっと深めるべき」
「仲を深める・・・・・?」
「敵対視って、別に本当に相手を憎き敵と思っているわけでもないし、言っちゃえばそれって友達じゃん」
モエカが言ったことに、確かにと思ってしまった。
今まで、相手を敵と呼んできたばかりに、仲を深めようという考えが思い浮かばなかった。
「と、いうわけで」
モエカは怪しい笑みを浮かべて、
「二人で映画見てきてください!」
____________________________________
「あ、サヤカさん」
サヤカさんが茶川モエカさんの家に寄った次の日の学校でのこと。
サヤカさんが近くまで歩いてきたのだ。それはいつも通りなのだが、問題は、何も喋らないこと。なので、珍しく僕から話しかけてみた。
「あ、ああ、ヒデ。その、あの・・・・・」
なぜか本題を切り出せないでいるようだ。
なので、先に自分から質問を投げさせてもらった。
「茶川モエカさんとの予定はどうでしたか?」
「た、楽しかったぞ。それでだな・・・・・」
返事が来たのはいいが、またもや黙り込んでしまうサヤカさん。
すると、
「だ、ダメだーッ!!」
サヤカさんはいきなり大声を上げて、教室から走って出ていってしまった。
「・・・・えぇ・・・・」
流石に困惑した。
____________________________________
「手伝ってくれ!」
こんにちは、茶川モエカです。
サヤカちゃんからいきなり廊下に呼ばれたと思えば、そう言われました。
「映画に誘うの、手伝ってくれ・・・・」
映画に誘うというのは、私が昨日、サヤカちゃんが佐木山君と仲良くするために出した案。
「仕方ないなぁ・・・。まあ、佐木山君に会ってみたいし、丁度いっか」
____________________________________
「佐木山君、はじめまして!」
「・・・・こんにちは」
いきなりサヤカさんに呼び出されたかと思えば、そこには昨日話していた茶川モエカさんがいた。
その挨拶と表情を見ればなんとなく性格が分かる。眩しいオーラを放つタイプだ。
「それでね、サヤカちゃんが一緒に映画に行きたいんだって」
「映画ですか?」
「い、行きたいとはなんだ、モエカの提案だろう!」
言い方に納得がいかないのか、サヤカさんが騒ぎ立てる。
「でも行きたくなかったら最初から断ると思うんだけど?」
「・・・・」
サヤカさんは見事に黙らされていた。
「まあ、映画は別にいいですけど」
「よし!」
「なんでモエカが喜んでるんだ・・・・?」
どうやら二人でいる時に話が色々と進んでいたようだ。
「じゃあまあ、後は一人で頑張れるよね?」
「あ、ああ。・・・・助かった」
そういうと、茶川モエカさんが自分の教室へと歩いていった。・・・・スキップを交えて。
「・・・・なんであんなに嬉しそうなんですかね」
「さあな。まあ生粋の恋バナ好きだから、変なことでも考えているんだろう」
「変なこと?」
「デートみたいだと・・・か・・・・」
言い終えた後、サヤカさんは黙り込んだ。ちなみに僕も黙り込んだ。必然と無言の空間が生まれる。
耐え切れずサヤカさんは顔を真っ赤にしていく。僕も少し赤くなっている気がして、今までサヤカさんに向けていた視線を別に逸らした。
「・・・・なに観ますか?」
「そ、そうだな。この前ホラー映画の予告がやっていたぞ」
「ホラー観れるんですか?」
「ああ。何より、これは勝負だ」
さらっと回答しているが、僕はまだ疑問の目を向ける。
それを気にせずにサヤカさんが勝負内容を語り始める。
「ルールはシンプルだ。映画を観て、少しでも怯えたリアクションを起こした方の負けだ」
「結局勝負するんですね」
その後もいろいろ話し、日程やら集合時間、場所が決まった。
その日の晩、僕はどうもサヤカさんの発言が頭から離れないでいた。
『デートみたいだと・・・か・・・・』
たまに親からも能面とまで言われる具合の僕ではあるけど、こればかりは許してほしい。結局男子というのはこういう生き物なのだから。




