第十三話「約束」
様々なレストランがある中で、二人で深く考慮し厳選した場所でお腹を満たした。
その後は穏やかな乗り物から激しい乗り物、小さな屋台で体験できるミニゲームまで。今日一日を楽しみ尽くそうと言わんばかりに僕達は動き回った。
そろそろ夕方も近くなってきた頃だ。
ということで、頃合いだろうか。
「次にやりたいのがあるんですけど」
「む?」
隣で腰を下ろしながらお茶を飲むサヤカさんがそう返事をする。
僕はある一箇所を指差してリーフレットを見せる。すると、サヤカさんはペットボトルに口を付けた状態でフリーズした。
「どうですか、お化け屋敷」
そう、溜めに溜めたお化け屋敷だ。
「ふ、ふふ。ちょっとした冗談だろう? わざとやってるんだろう?」
「まあわざとではありますけど」
この調子ではサヤカさんをお化け屋敷に連れて行くことはできないだろう。
まあこうなれば、やることは決まっている。
「じゃあ、勝負をしましょう」
「・・・・・またか」
いつもサヤカさんがやっていることなのに、何故か呆れ顔で見つめられる。
「まあ簡単な勝負ですよ。——10回ゲームです」
そう、説明するまでもなく、みんなが知っているあの10回ゲームだ。
「お互い順番にお題を出し合って、不正解が出た方の負けです。僕が勝ったら、お化け屋敷に行きましょう」
「・・・・・まあ、やってやらんこともない」
と、嫌々サヤカさんは引き受けてくれた。
勝負に向けて意識を改めるつもりか、サヤカさんは体ごとこちらを向いてきた。
・・・・・この表情、しっかりと勝ちに来ていると伝わる。
「じゃんけんで先攻後攻決めましょう」
「うむ」
「じゃんけん」
「ぽん」
グーとチョキ。
僕とサヤカさん。
「・・・・・なあ、じゃんけんで私がヒデに勝ったためしがないんだが」
「・・・・・まあ、とりあえずやりましょうよ」
悲壮感漂うが、まあ一旦置いておいて。
とりあえず、始めは簡単なもので攻めていこうか。
「ピザと10回言ってください」
「ぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざ」
「じゃあここは?」
「肘だろう」
見事に正解してみせるサヤカさん。
と、左方の眉を八の字に下げてみせて、若干の失笑を言葉に含みながらサヤカさんは言う。
「流石に舐めすぎているだろう。手加減をしているのか?」
「まあここからですよ、ここから」
そのサヤカさんの発言により僕も火がついた。お化け屋敷に連れていく以前に、この勝負、絶対に勝ってみせる。
「では私の番だ。好きと10回言え」
「すきすきすきすきすきすきすきすきすきすき」
「ありがとう」
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
え、どういうこと?
「待て待て待て! 何故だ!?」
僕はサヤカさんの腕を掴んで強制的に連れていく。
「勝負にならないので失格です」
「でもそんなルールはなかったはずだ!」
まあ確かに。
理不尽は良くない。ということで仕切り直しだ。
「じゃあ、勝てんと10回言ってください」
「かてんかてんかてんかてんかてんかてんかてんかてんかてんかてん」
「窓が開かないようにかけるものはなん」
「負けん」
サヤカさんが食い気味にそう答える。・・・・・が。
違う、そうじゃない。本来ここはカーテンと引っかかり、正解は鍵でした、という流れであるべきなのだ。
私は負けない。そう宣言したつもりなのだろう。サヤカさんは見事なまでのドヤ顔を披露している。
「じゃ、行きましょうか」
「へ? ど、どこに」
と、いきなり腕を掴まれて立ち上がらされたサヤカさんが困惑気味に問うてくる。
しかし、すぐに把握したサヤカさんは反乱行動を起こす。
「待ってくれ! 本当に無理だ!」
と、サヤカさんが全力で拒絶する。
いつも勝敗には素直なのに。ここまでとは思わず、腕を掴む力が若干弱まる。その隙にサヤカさんは腕を振り解いた。
こんなに嫌がるなら、諦めたほうがいいだろうか。
・・・・・いや、でも。なんだか最近、茶川さんの精神がちょいちょい自分に憑依してきてる気がする。
僕は諦めきれなかった。
「とりあえず近くにだけでも行ってみましょうよ」
そう言ってみるが、サヤカさんは無言でブオンブオンと頭を横に振って拒絶するだけ。
・・・・・仕方ない。こんなときのために、ある策を取っておいたのだ。
実は、茶川さんから助言をもらっている。
——サヤカちゃんは煽られると弱いからさ、挑発してみるといいよ。試しに、私が「えーサヤカちゃん、そんなんじゃ敵として威厳を保てないよ?」って言ってたって伝えてみて!
というわけで、その通りにやってみたのだが、
「く・・・・・くっくっくっ。いいだろう、やってくれる!!」
見事に上手くいってしまった。
あの人、サヤカさんを扱うの本当に上手いなあ。気圧されるぐらいのやる気をみなぎらせるサヤカさん。
・・・・・最初からこうすればよかったな。
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というわけで、お化け屋敷前にやってきた。
お化け屋敷のテーマは学校。これが随分と見事なもので、作り物のはずなのに、まるで本物の廃校が建っているかのような、そんな異様な雰囲気を醸し出している。
そこから溢れるオーラに押されるかのようにサヤカさんは僕の後ろに隠れる。完全に恐怖に押し負けているが、茶川さんに対する意地を見せてなんとか気力を保っている。
とりあえず突っ立っていては何も始まらない。列に並び順番を待つ。そして徐々に建物内に入っていく。すると、
「な、なんだ。い、意外と大したことないな!」
サヤカさんが引き攣った笑いを浮かべてそう述べる。
「まだ本番じゃないですよ・・・・・」
だというのに、サヤカさんの足はブルブルと震えている。
無理やり連れてきたのがだんだんと申し訳なく思ってきたが、もうここまで来ては引き返せない。
「では、お気をつけて!」
暗い雰囲気とは真逆な活気のあるスタッフの声を背に受けながら、ついにスタートラインに立った。
事前の説明によると、このアトラクションは前半部分と後半部分があるらしい。
前半部分では、分かれ道もなく、ただ道を進んでいくだけ。後半部分は迷路となっていて、スタンプを三つ集めて脱出を目指す。クリアした際には報酬がもらえるのだとか。
シンプルな内容で個人的には楽しみだが、サヤカさんは以下省略、だ。
「ふん、ただ機械仕掛けがあるぐらいだろう。何もそんなに焦る必要はにゃ!?」
堂々としてみせようとするサヤカさんを邪魔するかのように雑音が辺りに響いた。
驚いた衝撃と噛んでしまった恥ずかしさで顔が真っ赤っかになってしまっている。
・・・・・ここからが更に不憫なのだが。
醜態を忘れようとサヤカさんが急ぎ足で道を進んだのだが、ちょうど曲がり角に、
「アアアアアアア」
「うわああああっ!?」
第一の仕掛け、首から上が無い男生徒がいたのだ。スピーカーから流れる悲鳴と共鳴するかのように大声をあげるサヤカさん。これにて残機が一つ減った。その場でへたり込んでしまう。
「大丈夫ですか・・・・・?」
「・・・・・ぐすっ」
「え、え!?」
な、泣いている。いや、無理に連れてきたのだし、泣かせたと言うべきだろうか?
どう声をかけるべきか戸惑っている僕に、サヤカさんが顔を俯かせながら手を伸ばしてくる。
「・・・・・?」
「ジェットコースターのときみたいに、握ってくれ。・・・・・そうしたら多分、怖くない」
若干こちらを向いている顔が赤いのは、泣いているからか恥ずかしいからか。
そんなことは考えても答えを出すことはできないが、とにかく今は、この差し伸ばされた手を握る。
「頑張って、早く出ましょう」
「・・・・・うむ」
最後の涙を拭き取り、泣き止んだサヤカさんが立ち上がって前を向く。
覚悟の決まった顔だ。
——だが、現実は残酷なもので。
「ひっ!?」
「うわあ!?」
「うぉっ!?」
「いいいい!?」
次々と襲いかかる仕掛けに、サヤカさんは心身ともに削られていく。お手上げ白旗KO状態、フルボッコである。
そんなこんなで前半部を突破し、とうとう迷路に辿り着いた。
迷っていても仕方ないので、まずは入口を通る。すると意外なことに、割と親切設計。すぐそこに一つ目のスタンプがあったのだ。まあどうせここからレベルが上がっていくのだろう。そう思いながら事前に配られた紙にスタンプを押す。
そこから進んでいくととうとう分かれ道。手を繋ぐ必要のあるような精神状態のサヤカさんと別れることができるわけもなく、二人で一つの道を進んだ。
「アアアア! タスケテエ”エ“エ”エ“!」
残念ながら行き止まり。そしてここでも容赦なく脅かし要素が。
しかし、驚きまくったサヤカさんは、もう声を出す気力もないそうで。そこの人形に死んだような目を向けるだけだった。
一つが外れなら正解は必然的に分かる。もう片方の道を目指す。ところどころの叫び声や手が伸びてくるなどのびっくり演出を潜り抜け、数回道に迷いながらもなんとか二つ目のスタンプを入手。
「・・・・・・」
チラリとサヤカさんを確認する。
「・・・・・・」
幽霊も顔負けの表情である。
とりあえず見なかったことにして、三つ目のスタンプを探すべく道を進んでいく。
そして左右への分かれ道。今回も成功率50%を狙う、そう思ったのだが。
「・・・・・二人で一つでは効率が悪い。最後は二手に分かれよう」
サヤカさんが選んだのは成功率100%だった。
「大丈夫なんですか?」
「時間がかかった方が心身に悪影響だ。最後はささっと終わらせてしまおう」
「・・・・・分かりました」
本人がそう言うのだからこれ以上は言わない。
サヤカさんは左に行くというので、僕は右に進む。紙は僕が持っておき、仮にサヤカさんが進んだ方にスタンプがあったとしたら、僕が戻ってそちらに向かう、といったふうに策を立てる。
正直心配だが、もしかしたら左の方にスタンプがあるのかもしれない。そんな希望を持って、一旦は自分の目の前のことに集中する。
ところどころで仕掛けが発動するが、申し訳ないがあまり動じない。そんなこんなで奥に到着すると、そこにはなんとスタンプが。
直後、
「うわあああっ!?!?」
「サヤカさん?」
左の方から悲鳴が聞こえてくる。
僕はスタンプを押さずに急いで戻ると、そこにはセーラー服を着た長い髪の女とサヤカさんが。
どうやらタチの悪い仕掛けに遭ってしまったようだ。きっと行き止まりに気づき後ろを振り返ったタイミングで発動するような仕掛けだったのだろう。
サヤカさんは床に手を付いていて、完全に腰が抜けてしまっている。
「大丈夫ですか」
「・・・・・・」
震えるだけで返事は来ない。わずかに残った力が消し飛んだことだろう。
サヤカさんはもう歩けないと踏んだ僕は、サヤカさんに背中を向ける。そしてしゃがむ。
流石に意図が分かりやすかったようで、サヤカさんは拒絶を示す。
「さ、流石に恥ずかしいぞ」
「で、でも歩くのもままならないでしょう」
今ばかりは素直なサヤカさんが「むぅ・・・・」と唸る。
「・・・・・・わかった。頼む」
長いようで短い思考の中で承諾を下したサヤカさんが両腕をこちらに伸ばしてくる。
「まずは立たせてくれ」
「はい」
苦笑混じりに返事して、サヤカさんの両脇を持ち、赤子の如く持ち上げて立たせる。
するとサヤカさんが不満気味に言う。
「・・・・・・もう少しやり方があっただろう」
「あっ、す、すみません」
今のサヤカさんは子供のように見えたせいでつい。心の中でそんな言い訳をしつつ背中を向ける。
おそるおそる、ゆっくりと忍び寄るように僕に近づくサヤカさん。そして小さな両手が僕の肩を掴み、次第に身を任せてドスン、というよりかはスポンと体重が乗っかる。
「軽っ」
「何か言ったか?」
「あ、いやなんでも」
つい本音が漏れたが、本当に軽い。まあ身長に見合った軽さというか・・・・。
「サヤカさんって身長いくつでしたっけ」
「150だが」
「まあ、こんなもんなのかな・・・・」
「さっきからなんの話だ?」
自己完結する僕にサヤカさんは戸惑いを向けるが、女性に体重に関する話は失礼な気がしたので黙っておく。
そしてさっき押し忘れたスタンプまでの道中、
「結構がっしりとしてるんだな・・・・」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよ」
サヤカさんが急に身体中を触ってくる。
「パパ以外の抱っこは初めてだが、おっきい背中だな」」
「く、くすぐったいですって。せめて背中を触りながら言ってください」
「今回私は醜態を晒してばかりだ。少しはやり返させろ」
「いや僕のせいなんですかね? ・・・・・・僕のせいですね」
素直に反省して、刑を制するのをやめる。が、なんとも気になる。特に、時々くすぐったくてサヤカさんを落としてしまいそうな気がして気が気でない。
まあ幸いそんなことが起こることなくスタンプを押すことができ、そのまま脱出口まで向かう。
「おぉ、光だ。長かっ」
「アアアアアアア!!」
「うわああああっ!?」
「あ、落ちる! 落ちる!」
最後の最後で仕掛けが張られていて危なかったが、なんとか脱出に成功した。
随分と久しいような大地の光を浴びて、何か長い旅を終えたような、そんな気分に入り浸っていたのだが、
「・・・・・・降りる」
「あ、すいません」
気づかずに大衆にお互い恥ずかしいところを見られていた。成功報酬として受け取ったシールの達成感で気を紛らわす。
「お疲れ様でした」
「本当に疲れたな。・・・・・・ちょっと暗くなってきたな」
「ああ、そろそろ夕方ですしね」
お化け屋敷に入る前とは一変して、空がだんだんと紅葉色に染まっている。真っ青な時とは雰囲気が違ってこれまた一興である。
実際、サヤカさんはしばらくの間その風景に魅入って立ち止まっていた。そしてそのまま視線を横に移動したサヤカさんの視界に、あるものが映る。
「そういえば、アレにまだ乗っていなかったな」
「アレ?」
そう言ってサヤカさんが指すもの。
——それは、
「観覧車だ」
遊園地に入る前から圧倒的な存在感を放っていたのに、確かにまだ乗っていなかった。 いや、わざと避けていたのだ。
「ちょうど、この時間帯に乗ろうと思っていたんです」
これは茶川さんからの入れ知恵だ。
「この時間帯の遊園地からの景色はすごい綺麗だからサヤカちゃんと是非〜」と言われたのだ。
サヤカさんは今日散々な目に遭った。それの労いだとも思えば、ピッタリではないだろうか。
「そ、そんな・・・・・」
僕が一人で思考しているとき、サヤカさんは赤く染まった頬でモジモジとしていた。
「・・・・・そんな、デートみたいな」
「そ、そのつもりは・・・・・!?」
サヤカさんの言葉で考えていたことが全て吹き飛ぶ。
だが、絵面的に言ってることは間違いないだろう。男女二人で遊園地、この時点でそれっぽい雰囲気があったのは間違いない。本能から考えないようにしていたのだろうか。
「い、急いで列並びましょう! 混むかもしれないので!」
「う、うむ」
急いで誤魔化す僕。サヤカさんも考えているだけで恥ずかしかったようで、これ以上僕達がデートという単語を掘り返すことはなかった。
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僕とサヤカさんは向き合って座っていた。
「おおお〜!」
と、サヤカさんの声。外から見たときと同じように感嘆して、その美しくもあり、どこかハラハラとした景色にサヤカさんは楽しげな反応を見せる。こちらに背中を向け膝を座席の上に置き、その様子は本当に子供のようで、僕はつい笑ってしまった。
「結構高いですけど大丈夫ですか?」
「ゆったりしてるのは大丈夫なんだ」
ゆったりと、少しずつ上に登っていく観覧車。上から見る小さな木々や建物の光、かろうじて見える人々、そしてあんなに大きかったはずのアトラクション。大量の情報が一気にまとまって視界に入り込んでくる。太陽とは違って眩しすぎない夕日もまた一つのスパイスだろう。
僕は一、二枚写真を撮った後に、サヤカさんの方にも携帯を向ける。
そして、カシャリ。
「む? なっ、撮っていたのか!?」
音が鳴ってようやく撮られていることに気づいたサヤカさん。
「わ、私も撮る!」
この場合を負けず嫌いと言うのかは分からないが、対抗心を燃やすようにサヤカさんは携帯を取り出し、それをこちらに向けてくる。
僕はなんとなくでピースを添えておき、カシャリと音が鳴り響く。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そして沈黙。
なんだかおかしくて、僕達は笑い合った。そして笑い足りた頃、僕は言った。
「どうせなら二人で撮りましょうよ」
そう言って僕は立ち上がり、サヤカさんの横に座る。一瞬体が触れそうになったところでサヤカさんが恥ずかしげにスッと横に避ける。
僕は苦笑しながらも内カメの携帯を構える。
「はい撮りますよ」
「ぴ、ピースでいいか?」
そしてぎこちないピースを作ってカメラに視線を向ける。僕もピースして、親指に力を込めた。
カシャリと音が鳴り、僕は写真を確認する。そして思わず噴いた。
「なんですかこの顔」
「いや、笑ってた方がいいかと・・・・」
サヤカさんが画面から目を逸らしてそう言う。
写真のサヤカさんは慣れない笑みを浮かべようとしたばかりに変に口角が引き攣っており、さらに半目だ。
「送りますね」
そう言って立ち上がって元の席に戻ろうとしたとき、サヤカさんが「あっ」と小さく声を漏らし、悲しそうな表情をしていたような気がするが、まあ気のせいだろう。
メッセージアプリを開き、サヤカさんとのチャットを開こうとしたそのとき、
「あれ、茶川さんからだ」
思わぬ来客からメールが届いていたのだ。
写真を送る前に一応確認しておく。
『見て見て〜近いうちに夏祭りやるんだって!』
そして言葉と共に添えられたのはその夏祭りの公式サイト。公式サイトがあるということは、それだけ規模が大きいものだと窺える。
8月1日から始まるその夏祭りでは屋台はもちろん、勇獅子や神輿、そして冠着太鼓が魅力的。だがなんと言っても、一番の目玉は花火大会だろう。
茶川さんがこれを紹介してきた意図は言われずとも分かる。サヤカさんを誘え、ということだろう。
「・・・・・・サヤカさん、次の一日って予定ありますか?」
「いや、ないが」
「じゃあ・・・・・僕と、夏祭りに行きませんか?」
僕は思い切って誘ってみる。
思い切れたのは、僕がサヤカさんとの予定をもっと増やしたい、なんて今日一日中考えていたからだ。恥ずかしい考えかもしれないが、こればかりは気持ちに素直になる。茶川さんに感謝だ。
「・・・・・うむ、行こう」
「え、いいんですか?」
「うむ。・・・・・・なんなら、私から誘おうと思ったんだがな」
「え?」
「お前との予定を作りたかったんだ」
聞き返す僕に、サヤカさんは言わせるなと言わんばかりに吐き捨てた。
・・・・・・僕と同じことを考えていた、ってことだよな。
そう思うと、なんだか嬉しくなってきた。
「ほら、約束だぞ」
そしてサヤカさんが腕を伸ばして小指を立てる。
「はい、約束です」
僕も小指を立て、サヤカさんの方に絡める。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます。指切った」
サヤカさんが歌い終わると、お互いの指が離れる。
そしてまだまだ長かった観覧車を楽しんだのちに、遊園地から去った。
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バスと電車に乗って徒歩の帰路に着いた頃、空から輝かしい晴天は無くなっていて、真っ暗闇へと変わっていた。
サヤカさんを一人にするのはよろしくない。ということで、サヤカさんの家まで見送った。
「今日はありがとうな」
「いえいえ、こちらこそ。それでは、おやすみなさい」
そう言って僕はその場を去ろうとした。そのとき、
「なんだか、今日ずっと一緒にいたからか、離れるとなると寂しいな」
サヤカさんがポツリと呟く。
そんな言葉に僕は笑って返す。
「またすぐに会えますよ」
「・・・・・・そうだな」
サヤカさんも悲しそうな顔はやめて、ニッと笑う。
「じゃあな」
「はい」
そして今度こそ帰宅の道を辿る。
その道中、僕も考えていた。
「離れると寂しい、か」
あれを言われたとき、正直びっくりした。なぜなら、僕も似たようなことを考えていたからだ。
「・・・・・すぐに会えるって自分で言ったくせに」
そしてこの気持ちが落ち着くことなく、夏祭り当日までと時間が流れていく。
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そして僕がサヤカさんを見送った後のことだが。
「・・・・・・む、敵対視とは絶対にこんなのではないだろう」
サヤカさんは頭を悩ませていた。
「何が寂しいだ! くぁぁぁ・・・・・・」
そしてベッドの上で頭を抱える夜を過ごしたのだ。
次回、13.5話としておまけ回的なものを投稿します!




