第一話「敵対視」
僕はヒデ。
何故かは知らないけど、僕は同級生のサヤカさんにー
「敵だ」
今日も今日とて、敵対視されている。
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高校生になってから一週間とちょっと。僕には友達の代わりにできたものがある。それは、真逆の存在の、敵。
「おい、ヒデ」
突然の声と共に、机の上に人影が生み出される。そして、僕はその主の方に目を向ける。
「どうしたんですか、サヤカさん」
僕を呼んだ彼女の名前は香山サヤカさん。高校生活初日から僕を敵呼ばわりした人だ。
少し経緯を話すと・・・・・いや、話すような特別な経緯などない。いきなり僕の席に近づいては「敵だ」と一言放ったのである。 当然僕は困惑した、面識がないのだから。
まあ、こんな状態が続いてから数日が経っている。迷惑な話と思う人もいるかもしれないが、これが意外と楽しい。
きっと、今回も何かしらの「勝負」を持ってきたのだろう。
「じゃんけんをしよう」
ほら来た。
この通り、サヤカさんは毎度勝負を仕掛けてくる。これが「敵対視」の意味なのだろうと個人的に解釈している。
なぜ敵対視されるのか、そんな意味を込めて僕はサヤカさんの顔を見つめる。すると、サヤカさんが困惑したような表情を浮かべてから声を一層張りあげた。
「じゃんけんだ!」
「わ、分かりました、分かりましたって!」
反射的に返事をする。
承諾を確認したサヤカさんが、じゃんけんのポーズを取る。
やれやれと、僕もグーを握る。
「始めるぞ。じゃーんけん、ぽん」
・・・・・。
あっさりと勝負はついた。
眼前にあるのは広げられた手と、力の籠った拳。僕は前者である。
ということで、敗者は言うまでもない。
と、サヤカさんの肩が震え出した。
「もう一回だ・・・・!」
そして、納得がいかないと言わんばかりの表情でそう言い放った。
まるで幼い子供を相手している気分だ。
「・・・・いいですよ」
そうして、お互いもう一度じゃんけんのポーズを取る。
「じゃーんけん!」
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バンバン、と。
サヤカさんは今現在、じゃんけんで連敗、ボロ負けして悔しそうに机を何度も叩きつけている。
しかし、実際には全く力が足りておらず、バンバンというよりかは、せいぜいポカポカ音が辺りに響くくらいだ。
「もう周りの生徒が全員いなくなるぐらい続けたのに・・・・・」
もう数え切れないくらいにはじゃんけんを繰り返した。途中からじゃんけんの掛け声が無くなるぐらい長い時間だった。
それでも、サヤカさんはー
「一度も勝てないなんてことあります?」
「・・・・・」
完全に喋らなくなってしまった。
こうなると、どうにかして勝たせてあげたくなる気持ちが湧いてくる。
「もう一回やりませんか?」
「・・・・・うん」
いつもは変わった口調のサヤカさんだが、今はめげて口調が柔らかくなっている。・・・・・少し見ていて面白い。
ということで、最後にもう一度じゃんけんをすることになった。作戦としては、敢えて負けるつもりだ。自分なりに分析してみたところ、次はチョキを出す。
サヤカさんがグーを握るが、それも弱々しいものだった。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
「・・・・・じゃんけーん、ぽん」
僕は目の前の結果を見て、
「あっ」
と、そんな声が出た。
サヤカさんは結果を恐れてか、目を瞑っていた。僕の声に反応して、おそるおそる目を開いていく。そして、見えているものを声に出した。
「パーと、グー・・・・・」
僕はサヤカさんがチョキを出すと予想して、負けるためにパーを出した。
しかし、実際に出たのはチョキではない。サヤカさんが言った通り、グーだ。
「・・・・」
「・・・・」
僕たちは一言も声が出ず、教室内はしんと静かになった。
サヤカさんは、全く動かなくなった。気持ちは分かる。完全敗北は受け入れづらいだろう。
完全敗北を意図せず突きつけた僕も、こればかりは声のかけ方が見当たらない。
「・・・・・帰りますか」
「・・・・」
サヤカさんから返事は返ってこないが、とりあえず僕は帰りの準備を始める。
するといきなり、バンッという衝撃音が響き渡った。それは一回では止まず、次々と鳴り続ける。
慌てて振り向いてみれば、サヤカさんがまた机を叩きつけていた。今度は錯覚ではなく、しっかりと音が出ていたのだ。
「・・・・・御免って」
そんな一言が自然と口から漏れていた。
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僕達は登下校をいつも共にしている。本当に敵対視されているのかと疑問に思う程の付き合いだ。
最初は下校の際にサヤカさんが勝手に付いてくる形だった。そこで、ほぼ同じ道だということが発覚し、一緒に登下校することになったのだ。
「おい、ヒデ」
ふいにサヤカさんが話しかけてくる。
いつも何を言うのか予想できないんだよな。
「お前、何故私に対して敬語を使うんだ?」
「あー・・・・・なんででしょうね」
答えは自分でも分からない。同級生だし、特別尊重してるわけでもないのに、何故だか敬語が外れない。
それでも、ピンと来るというかなんというか。
「私たちは敵同士だ。敵に敬語は不要だ」
改めて考え込んでいると、サヤカさんはそんなふうに言い放つ。
というか、まずどうして敵なのかが分からないのだが。
「あと、さん付けもしているだろう。それも不要だ」
「は、はぁ」
どちらも実行しようとすれば慣れるには時間がかかるだろうが・・・・本人の希望ならば少し試してみよう。
「じゃあ、サヤカ」
・・・・・。
反応はない。
「どうかしまし・・・・じゃなくて、どうかした?」
変わらず反応はない。
もしや、気持ち悪かったのだろうか。
「・・・・ナシだ」
と、サヤカさんがぼそりと何かを言った。
聞き取れず、僕は近づいて聞き返す。
「なんて言いました?」
「ッ!?」
すると、サヤカさんは目を見開いて、次に一気に距離を取った。危険を感じた生物の本能と言えるほど、それは素早い動きだった。
視界を改めて確認してみると、異様に距離が近かったことに気づいた。こればかりは僕の失態だ。「すいません」と一言謝罪を入れる。
「それで、さっきなんて言ったんですか?」
「その、やっぱり敬語とさん付けは外さなくていい・・・・・」
「え? は、はい」
色々といきなり過ぎて、少々追いつけないでいる。
それに、なんだか敬語とさん付けを外さなくていいと言われショックに似た感情すらある。やはり気持ち悪かったのだろうか。
「あれ、サヤカさん?」
自分のことはひとまず置いておいて、とりあえずサヤカさんの方を見てみた。そして、そこには顔を真っ赤にしたサヤカさんがいたのだ。
「顔真っ赤ですけど・・・・」
僕はそっと手を伸ばしてー
「風邪ですか?」
サヤカさんの額に触れた。
「季節の変わり目ですかね。しっかり体調管理はするんー」
「いきなりどうして親御のようになるんだ、私は大丈夫だ!!」
「本当ですか? 結構赤いですけど・・・・」
念の為しつこく聞いてみる。だが、サヤカさんはもう何も言わず、顔も見せてくれなくなってしまった。
「まあ、本人が言うなら大丈ー」
「ああああ!」
ーサヤカさんがいきなり大声を上げる。
「呼び捨てで呼ばれて、恥ずかしくなったんだぁー!」
そして、そんなことを言いながら先の道を駆けていってしまった。
・・・・・なるほど。
「・・・・はは」
自然と笑いが溢れた。
前を見れば、体力が大してないのか、ほんの少し先でぜぇぜぇと息切れしているサヤカさんがいる。
僕はゆっくりと歩み、サヤカさんの元に向かった。
「サヤカさんも、そういうこと思ったりするんですね」
「う、うるさい! 早く帰るぞ!」
結局、何故敵対視してくるのかは謎のまま。
それでも、こんな日常が続くことを、少し楽しみにしている自分が心の底にいた。
はじめまして、リュウ星群です。この作品に触れてくださったことを感謝いたします。
このように始まった「今日も今日とて敵対視」の連載ですが、これから新キャラが出たり、関係が発展したり・・・・様々な展開が見られますので、これからも是非よろしくお願いいたします。
また次回でお会いしましょう!




