七幕
修正中。
「よっし! 体調も霊気も回復したし、今日は頑張るか」
昨日は悪夢も見なかった為、久しぶりに丸一日身体を休めた。その為、大抵の相手なら、問題無く戦える位に回復していた。
「未知瑠に今日は問題無い事をメールしておくか……」
スマホを操作し、未知瑠にメールをすると返信は直ぐに帰ってきた。
「(了解しました。)」
一文のみの簡素な返事ではあるが、未知瑠らしいと暁良は軽く微笑んだ。
その後、仕事の事で軽くメールのやり取りをし、昨日出来なかった昼間の調査をする事となった。
朝食を済ませ現場に向かうと、既に未知瑠は待機してストレッチをしていた。
「おっす。待たせたか?」
「時間通りだから問題ないわ」
軽く挨拶を済ませると早速打ち合わせを始める二人。
「昨日は社長に妖怪の特徴を伝えたら、覚かもしれないと言われたわ」
昨日のやり取りを未知瑠は暁良と共有した。
「そうか。覚は戦った事は無いが、そんなに強い相手ではないって資料で見たことあるな」
「でも探知能力は高いらしいから、霊気を纏うと直ぐに察知されるのが厄介ね」
「まぁ、でも妖気を隠せたとしても相手が俺達に敵意を持って近づいたら流石に気づくだろ」
暁良はお互いの実力を知っているだけに、心配はあまりしていなかった。
そして、それは未知瑠も同様の考えでもあった。
「まぁ、こっちはベテラン二人だし、霊気を抑えつつお互いをカバーすれば良いだろ」
「そうね。現時点で私達が出来る事なんてそれ位しか出来ないしね」
「そう言うことだ」
二人は昼の暖かい山を歩き、この山で起こってる事を調査を始めていたが、特にコレといった事は見つけられないでいた。
何も知らない人が見れば、山でデートをしているカップルの様にも見えるが、現在ここは一般人立ち入り禁止状態の為、その様に思う者達は居ない。
「でもよ、調査って言っても原因なんか分かるもんなのか?」
暁良はふと思った事を口に出した。
「そうね。私はこの調査で何も無かったとしても、異常事態だと思ってるわ」
「その心は?」
「異常が無いのが異常」
「お見事!」
未知瑠はそんなやり取りに「ハァ〜」と軽く溜息を吐いた。
「確かにここまで色んな事が起こってて異常無し! じゃ腑に落ちないよな」
「えぇ……だからこそ、今夜には一昨日会えなかった奴を発見したいわね」
「あぁ。そもそもの話しとして覚かどうかも判明してないしな」
「そうね」
実際に相手を確認していない二人は若干不安になりつつも調査を続ける。
それからかなりの時間調査をした二人は空が大分傾いている事に気付く。
「そろそろ休憩して逢魔時に備えるか」
「分かったわ。それなら一度山を降りてご飯にしましょう」
二人は山を降りていく。
遠くからそんな後ろ姿を見ている者がいるとも知らずに……。
山を降りた二人は近くのベンチに腰掛け、ご飯の準備をしはじめた。
「ん、おにぎりか?」
「えぇ。今回は山でのお仕事だしね神様に力を貸してもらう為に握ってきたのよ」
そう言った未知瑠は暁良に二つおにぎりを差し出す。
「良いのか?」
差し出されたおにぎりを見つめつつ未知瑠に聞いた。
「どうせ準備してないと思ってたから多目に作ってきたのよ」
「そうか。サンキュー」
おにぎりを受け取ってから暁良はさっき未知瑠が言った言葉が気になった。
「そういえば、神様にお願いする意味でおにぎりってどう言う事だ?」
「一応は神職なのに貴方はそんな事も知らないのね」
未知瑠が言うには昔の人々は山には神が住む場所であると信じており、その加護を受けとる為におにぎりを山の形に結び、ゲン担ぎとして食していたと言われている。
「ふーん。まぁご馳走さん」
「全く貴方って人は……お粗末様です」
おにぎりを食べ終わった二人は時刻を確認し、十八時を過ぎてた事に気づいた。
「そろそろ逢魔時ね。少しゆっくりしすぎたかも」
「そうだな。これから戦う事を考えると億劫になっちまいそうだけどな」
二人は立ち上がり再び尾上山に向かうのだった。
日は既に沈みかけており、妖が活発になり始める逢魔時となった。
前回の二の舞にならない様に予め霊気を抑えてから二人は山に近づいた。
その甲斐あってか尾上山に再び来た二人は警戒レベルを引き上げる事になる。
「これ、覚じゃないだろ」
「え……えぇ、この妖気はAランク相当の気配よ」
現在の尾上山は妖気を感知出来ない一般人でも違和感として感じ取れる程、濃密な気配で覆われている。
「だけど、一昨日来た時に一瞬感じ取った妖気はここまで桁外れではなかったぞ」
「これは調査出来なかった昨日何かあったのかしら……?」
未知瑠は昨日、来なかった事を軽く後悔した。
「これは一度引き返した方が良いかもしれないわね」
「そうした方が──ッッッつ!」
未知瑠の言葉に返事を返そうとした時、二人の身体に強烈な悪寒が走った。
「帰っちゃうの?」
その声と共に山の中にあった濃密な気配は何時の間にか二人の背後から感じられた。
「もっと遊んでけば良いじゃない」
未知瑠は金縛りに掛かった様に動けなくなり、暁良も濃密気配に身体が強張ってしまっていた。
「どうしたの? 動けなくなっちゃった?」
尚も背後から声を掛けてくる。
暁良は強張った身体に鞭を入れ、意を決して相手の方に振り返る。
「やっとこっち見てくれた」
トクンっと心臓が高鳴る音が頭の中に響いた気がした。
見て頂きありがとうございます。