三幕
修正中。
薄暗い廃ビルの中、屋内を照らすのは月夜の光のみ。
しかし、月夜の光だけではまだ暗い為、対魔師は身体強化を掛けて肉体や五感を強化して戦うのである。
暁良は強化した身体で入り口から順に妖気のある場所へと駆けていく。
その速度は時速五十kmは出ているだろうか。──妖気を感じる所に走っては元となってる妖怪達を手に持つ刀で一閃し、即座に次の場所へと向かって行く。
一階から十五階迄はこれの繰り返しで何事も無く制圧していった。
「十五階迄は低級の妖怪で大した事はなかったが……これより上は大物がいるなぁ」
十五階最後の妖怪を倒した暁良が愚痴の様な言葉を発しながら妖気を探知すると上階にはかなり大きな気を持った者がいる事が分かった。
「まぁ、ここからは慎重に行かないとヤバいかもな」
気持ちを切り替えてから上の階への階段を登って行く。
十六階では何も無く十七階に登って行くにつれ部屋の温度が上昇していった。
十七階に辿り着くと、部屋の温度を高くしている原因を廊下で見つける。
そこには女の妖怪が暁良を待ち構える様に立っていた。
「片車輪かよ……この場所で戦うにはちょっと不利かもな」
片車輪とは燃えた車輪に女か男の見た目の妖怪が乗っている妖怪で、今回は女性型の妖怪だった。
強さとしてはどちらが乗っていても関係はないのだが、女性と言う事で少しやりずらいなと感じる暁良だった。
そして、片車輪の攻撃方法は焔を纏った車輪を幾重にも飛ばしてくる為、この狭い廊下ではやりづらいであろう事も予想される。
「さて、まぁ面倒だけどやりますか」
暑さの為か頬を伝う汗を手で拭い何時も通りのやる気の無い態度で言葉を吐く。
態度こそ、こんなのではあるが暁良は油断等一切していない。
「ヴァァァァァァ！！」
片車輪は暁良を視認すると、燃えた車輪に乗ってこちらに突っ込んでくる。その速度は暁良がここに来るまでに出してた速度と同等かそれ以上に出ていた。
「ちょ！ おまっ！ 危なっ！」
片車輪の攻撃を躱し、隙をついて攻撃を仕掛けようとするが車輪から吹き出る焔が邪魔をしてくる為に攻めづらい。
幾たびの剣閃が舞い、片車輪に攻撃を仕掛けるもこの狭い廊下では車輪と焔に攻撃を阻まれてしまう。
この車輪を突破し刃を届かせるには攻撃が一手足りていなかった。
キンッと金属同士を打ち付ける音が廊下に暫く鳴り響く。
「使いたくないけど使わないと無理かぁ……」
暫く続いたやり取りに嫌気が差したのか、暁良は自分の手札を一枚切ろうとする。
「スー……ハー……」
激しい戦いをしながらも呼吸を整えると、刀身を指でなぞり霊気を注入していく。
霊気とは人間誰もが持つ力ではあるが、誰もが扱える力ではない。
対魔師は霊気という神秘の力を扱えてこその対魔師である。
身体強化は霊気を身体に纏わせる事によって発動するが、その力を武器にも纏わせるとどうなるかと言うと……。
「五月雨一閃！」
雨のような斬撃が片車輪に降り注ぐ。その一つ一つが強力な霊気に覆われており、そのどれもが敵の放つ車輪と炎を切り裂き、致命の威力を秘めた斬撃で片車輪を追い詰めていく。
それでも片車輪はこの攻撃しか出来ないと言わんばかりに車輪で剣撃を防ごうとするが、紙の様に切り裂かれる車輪。
そして斬撃の衝撃はそのまま片車輪の本体である女へと流れ首を断つ。胴体から切り離された首はその勢いのまま、廊下の壁にダンッと打ち付けられていく。
女は何が起こったか理解出来ずに視線を彷徨わせると、少し離れた所に細切れとなり崩れ始める自身の身体を見つけて理解した。
自分はもう死ぬのだと。
「あぁ〜、何でわだじがぁ……」
先程迄上げていた奇声とは違い、その声には人らしい感情が乗っていた。
消えていく女。片車輪を眺めつつ暁良は声を掛ける。
「まぁ、悪いなこっちも仕事だったからな……」
謝罪を口にするが、次に出た言葉は非情であった。
「それにアンタも人間を何人も食ってるんだ。いつかはこうなると覚悟してただろ？」
暁良は対魔師をしている中、偶に人間みたいな反応をする妖怪に会うと何とも言えない気分に毎度なっていく。
「身体強化以外で霊気使うとホント疲れるな……」
鬱々とした気分になる為、気持ちを何時もの通り切り替える。
「これより上には妖気の反応もないし、後の処理は社長に任せて飯食って帰るかな」
戦闘があった場所を見回す。一部焼け焦げた廊下と戦いの爪痕を見ない振りして後処理の事を丸投げしようと考えながら、階段を降りて行った。
（今日の収穫は餓鬼二十一体と片車輪一体。片車輪はともかくとして、餓鬼の数が明らかに増えてるな……。明日は今回の事を社長に報告してから未知瑠と現場情報を共有しておくか）
廃ビルから出ると夜が明け始めていた為、暁良はそのまま二十四時間やっている牛丼家で遅めの晩御飯を食べてから帰路についた。
（明日は報告と情報共有終わったら休みにしよう。流石に連日これはキツいな）
勝手に休日にしようとするが、命のやり取りをする対魔師は身体が資本の為、これ位の自由は認められている。
だからこそ、その願いは叶わないとは思ってもいない暁良だった。
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