二幕
修正中。
社務所には暁良と齢九十はいっているであろう見た目の老人が対峙して座っている。
「さて、昨日の仕事の報告を聞こうかの」
そう言った老人の身体からは、年齢に反して濃密な重圧が発せられている。
見た目だけなら好々爺の姿ではあるが対魔師ならば誰でも解る程のプレッシャーを纏っている。
それもそのはずだった。老人の名前は轟鬼 幻魔、対魔教会では知らぬ者は居ない程の実力者である十二聖の一人であり、この対魔教会最強クラスの対魔師である。
十二聖とは対魔教会で圧倒的な強さと偉業と功績を持った者達が与えられる称号を指す言葉だ。
そんな者が発する圧にも怯まずに暁良は報告をする。
「昨晩だけで餓鬼を三十八体駆除しました」
一息でその報告をすると老人は眉をピクッと反応させた。
「ほぅ、強くないとはいえ餓鬼が一夜でそんなに湧くとは……。他の者の報告を聞くまでは何とも言えんが対応を協議しよう」
幻魔は暁良にそう伝えると何かを考え込みはじめてしまう。
「討伐報告は以上になります」
考えこんでいる幻魔にそう告げた。
「──それはそうと暁良よ。儂の事を社長って言うのをやめよと何時も言ってるじゃろ……」
そう言った幻魔からは先程迄の圧は霧散しており、見た目通りの爺になっている。
「宮司様って呼ぶより、社長のが分かりやすいじゃないですか」
暁良はまた説教が始まった、と面倒臭そうな態度で反応した。
「弟子であるお主がそう言うから、早瀬や鏑木とかも儂の事を社長とか言いおうわい」
何を隠そう暁良の対魔の力は幻魔が教え込んだのである。
「気をつけまーす。それじゃ報告終わったので今日の担当場所に行ってきます〜」
更に面倒臭くなりそうだった為、暁良は逃げるように部屋から出て行くと、そのまま受付に向かった。
受付に近づくと夏希が暁良に気付いた。
「あ、源さんお疲れ様です！ お話しは終わったようですね！」
「終わったよ。そっちは？」
暁良が夏希の持つ腕輪に指を刺しつつ言う。
「終わりましたよ！ 今回は何を倒したのですか？ 何時もより妖気が溜まってましたよ？」
夏希は心配そうに暁良に聞くと、
「餓鬼が三十八体」
暁良は即答で返した。
「えぇ！ 普段は十匹前後なのに源さん金欠なんですか〜？」
そう言って夏希は討伐報酬をレジから三万八千円を取り出し、暁良に渡す。
「違ぇーよ！ いや、金欠なのは違わないけど。普段通りにやってそんなに湧いたんだよっ！？」
社務所でそんな突っ込みをした暁良であった……。
暫く雑談をした後、暁良は次の指定場所を聞くと時間が来るまで別の場所で過ごす事にした。
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「さて、ネカフェで少し寝るかな」
次の仕事場の近くにあるインターネットカフェに入ると、店員のやる気の無さそうな声が聞こえてきた。
「ラッシャセ〜」
何故店員はこんな感じの挨拶をする奴ばかりなんだ？ と思いつつ受付を済ませ指定の部屋へと入る。
（昨日から寝てないから流石に疲れたな……。今日は流石に帰ってゆっくりと寝たい）
ベルトを緩め、スマホのアラームをセットするとイヤホンを挿してから部屋で横になる。
昨日の疲れからか暁良の直ぐに意識は落ちていった。
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──夢を見た。
───夢を視た。
────夢ヲ観た。
（あぁ、久しぶりにコレを観せられるのか……）
辺りには逃げ惑う人々。
燃え盛る炎の中、嗤いながら生者を殺す俺とその仲間達。
「クカカ、今宵モ全てヲ奪え！ 喰ラエ！」
俺の言葉に周りの異形の手下達が歓喜の声を挙げ暴虐の限りを尽くさんとする。
──此処は地獄だ。
生者が亡者に地を這い赦しを乞い、そして無慈悲に喰われる。
──此処は地獄だ。
生者が亡者に地を這い赦しを乞い、親子で殺し合いをさせられる。
──此処は地獄だ。
生者が亡者に地を這い赦しを乞い、尊厳を犯し壊される。
──ココハ地獄ダ。
コノ地獄ヲ俺ガ作リ出シテイル事ガ地獄ダ……。
嗚呼、俺ノ手で地獄ヲ作ッテイルノガ愉悦ダ。
そこで意識は堕ちた。
「っっっつ！？」
暁良の目覚めは最悪だった。
耳に刺してたイヤホンを通してアラームが鳴り響いてはいるが止める気力が無いからか、放心状態でアラームの音を暫く聞いていた。
どれくらいの時間が経っただろうか？ 幾分か気力を取り戻した暁良は会計を済ませて外に出ると、世界は既に陽が落ち始めていた。
「うっし！ 夢見は最悪だが多少寝て楽になったし今日も一仕事頑張りますか！」
気合いを入れ直した後は今日の仕事場である場所へと足を進めていったのである。
そして現場に着いた頃には陽は完全に沈み、暗夜となっていた。
「うわぁ〜！ こりゃ今日も妖気がえらいこっちゃなぁ〜！」
今日の現場は二十階建ての廃ビルである。
そのビルは妖気を感じれる対魔師から見ると異様な気配を放っていたのであった。
陽気な感じで呟いてはいたが内心ではまたかよ……と毒付きたい気分で目の前の廃ビルを暁良は見上げる。
「餓鬼が一匹千円とか命張ってるのにサラリーマン対魔師は世知辛いわ〜」
そう言いながらも身体の力を抜き、戦闘態勢に入る為に頭の中のスイッチを切り替えた。
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に、我が言霊と魂魄に呼応し応えよ！」
旧約聖書の一文を使ってはいるが呪文は本人との相性による為、極端な話し何でも良いのであった。
そして、暁良が成した言葉に呼応する様に腕輪が淡い光を放つと光は刀の形を作っていく。
刀を手に取り暗夜に塗れた廃ビルへと足を踏み入れて行く……。
見て頂きありがとうございます。
因みに退魔師では無く対魔師なのは意図的です。
