弁当と拷問
朗報です。自分この話書き始めてからタイプが早くなりました。
「あんた、ちゃんとやれた?」
「意外といい人だったよ。優しかったし」
「良かったぁ。男っていい人そうな顔しててゲスい人いるからねぇ」
「女も同じでしょ」
「そうかもね、ところであんた夕飯食べた?」
「あの人がビーフストロガノフ作ってくれた」
「ええっ?料理もできるの?あのイケメン」
「そんなにイケメンイケメン言わなくたっていいでしょ」
「男はとりあえず褒めたくれば褒めるだけいいのよ」
「ベンキョウニナリマス」
「おいしかった?」
「うん」
「いい人見つけちゃったんじゃない?あんたあの人の家出る時まだ居たそうな顔してたわよ」
「してない」
「ええー絶対してた、お母さん分かるから。弁護士やってると分かるのよ」
「信じないから。弁護士は嘘つくでしょ」
「あら、人聞きの悪い」
「実際そうじゃん」
「いや、ああん?うん。うん?ああ」
「曖昧にごまかさないで」
「ところで、鍵をなくしたそうじゃない」
「ごめんなさい」
「私もね、あるのよ。その時はスクールバッグの中の生地の隙間に挟まってた。あんたのリュックの隙間にでも隠れてるんじゃない?」
「帰ったら探してみる」
「お母さんは見つかるに三億円♪」
「いちいち賭けなくていい」
ふう、と軽くため息を吐くと隣のお母さんはハンドルをきゅっと握りなおした。スーツ。事務所からそのまま来たのか。悪いことをしてしまった、と後悔した。また、怒らず面白くもないギャグを飛ばしてくれる母はやっぱりいい人だと、感じた。
「何でそのことラインで教えてくれなかったの?」
「お母さん意外と気が利くのよ」
「全然利いてない」
「いやいや、あの顔見ちゃったら良いことしたなあって自分でも思っちゃうって」
そういって右手を振った。
「はい着いた。忘れ物しないでね」
「ありがと」
「そりゃあね、お母さんだから」
ドアを閉める。赤い軽自動車が黄色く光る。
「ああ、久しぶり。やっぱりお父さんの家は綺麗で落ち着くね。ああ、良い木の香り」
鞄を全部ひっくり返して教科書やらなんやら全部出した。
「ないだろ」
鞄のポケットは全部見た。ない。
「ないよなあ」
素早く落ち着いた淑女的な服を着たお母さんがやってきた。
「よっしゃ。お母さんに任せてみ」
数分後
「ほれ」
「ええっ?どこにあったの?」
「あんたが教科書とか入れてるところ。ほら、この生地とここの隙間。やっぱり私の娘だあっ!」
けらけら笑う母さんの右手にはビール。どこから持って来たんだ。てか飲みはじめるの早すぎないか。酒に強い母は、気持ちよさそうにソファーに寄りかかって体を揺らしている。
「早く娘と酒が飲みたいですっ!」
美しい母を残して、父は数年前に旅立った。最後の言葉は、
「桂、強く活きなさい」
だった。中学生だった私の胸にその言葉は強く残っている。しかし、まだ、強く生きれているとは思わない。胸に手を当て、深呼吸。確かに私の胸には目に見えない穴が開いている気がする。この穴は何で埋まるのだろう。
「けーい?あの人からライン来たわよーっ」
「えっ?」
慌ててダイニングに置いてきたスマホを見る。
『六月十日、写真撮りに行きませんか?』
「良かったじゃん。行ってきたら?」
「行かない」
「えー残念」
シンプルな文で断った。
「あー、そういう文一番男が悲しむやつだよ」
「いいの、これで」
「ふーん」
母はパソコンに向かって仕事をし始めた。右手にはもちろんビール。
「風呂入ってくる」
「行ってらっしゃい、雨の時からだ汚れてるからよく洗うのよ」
「うぃ」
なんだよ、あいつ。調子乗ってるじゃんか。大体、今回あいつの家に行ったのは雨が降るからで、雨宿りしに行っただけ。あとご飯、とシャワー、か。
「忘れろ忘れろ、ぶくぶくぶく」
その後は何もしないで寝た。
「おはよう」
「おはよう、遅いね、いつもこんな時間に起きてるの?」
「うん、ていうか、お母さんが早すぎるだけだから」
時計は六時半を指していた。
「できたぁ、お弁当、作っておいたよ」
「え?」
弁当を覗き込んだ。すごく豪華で、美しい。計算されつくしたお弁当だった。しかし、私には似合わなそうなものだった。
「ありがとう」
「じゃあ、楽しんできてね。母さんは、事務所行くから」
「うん、ありがと」
数分間弁当を見続けていた。ミニトマトのみずみずしさ、弁当の魅力をすべて語りつくせるほど見つめ続けた。はっと気づいたら首が右に落ちそうになっていた。慌てて体勢を立て直すとのそのそと学校にいく準備をした。
国典の教科書に少し浸水したあとがあった。
「おはよ」
「あはよ」
「あの教科担任がさあ、ね、ほんと」
等朝の教室はあまり静かではない。私的にはみんな本を読んでればいいと思う。でもそういうのに耐えるのが学校、学校は実は社会を小さくしたもので、会社、企業でも相手にいかに柔軟に対応することが求められるとか何とか、お母さんが言っていた気がする。あと二年、あと二年でこのずっとお世話になってきた汚い木の床にさよならするわけで、少しここにいてもいいかな、なんて考えてしまう私でした。そんな私が数時間昨日お世話になった彼が前方に頭を抱えて座っているところを見ると昨日のことを思い出した。一通のライン。顎に手を当てて、じっと考えた。行った方がいいのか、いや、でも、休日が潰れることになるかも、でも、写真を撮るなら?やっぱ一人の方がいいよな、その時私の顔の右から左へすれすれで黒板消しが飛んできた。
「あー、ごめーん。当たった?当たってない?そう、良かった」
わたしは知っている。彼女の後方で数人の塊が、
「あの子またノーメイクだ」
「眉毛位書いてくればいいのに」
「ぼさぼさだね」
「眼鏡っ(笑)」
とか言っている事を。でも顔には出さない。それがこの学校の私の仕事なのだから。
「あ、全然大丈夫です」
このセリフ、この台詞を何回言った事だろうか、私の人生『大丈夫』ですべて済ましてしまいそうで困る。
「そーだよね、じゃあ」
私と会話をしていた子も、塊に戻るとけらけら笑っている。男も、見えていないと思っているんだろうか。それとも、私に見せつけているんだろうか、自分がとても楽しく満喫した人生送ってますよ、と。それでも彼らは下品にけらけら笑い続ける。この教室から飛び出してしまいたい。それで、誰も知り合いのいない遠い国で、生きていきたい。気づくと両手で耳をふさいでいた。うるさい、煩い、うるっさいっ!頬に生暖かい涙が伝った。慌ててシャツで拭いた。分かっている。これが私の役割、あいつらに良い思いをさせるのが、私の。自分でもわかっている。教室に悲しそうに、いや、
『かわいそうに』
と言いたげな視線が数本あるのが。そう、私が選ばれた。ここが私の居場所。
もし私がクラスの人気者になって、あいつらより地位が上になったら、裏で蹴られるだろう。中学の時の男子のあの蹴りは忘れもしない。体が宙に浮くほどの蹴り、視界が歪んで、気絶するかと思ったら、できない。歪んだのはただの涙の所為だった。耐えがたい痛み、何度も吐いた。給食を、弁当を、ただ自分のすべてを捨ててしまいたくて。家では、父が優しく頭を撫でてくれた。父に抱かれると、全部どうでもよくなった。暖かいセーターの感触、自分の部屋では、物を投げ散らかしたくなった。しかし、片付けの時が空しくなると思って、一人で、泣いた。部屋にある布で、声を押し殺して、叫んだ。その時のどんな空しかったことか。神様は不公平だと、あいつらだけ、何で、とないた。しかしまだ神様は私に微笑まない。ずっと口角が下がったまま。私を見つめ続けている。神様の手をつかんだと思ったら、それはただの砂で、全部崩れた。なんにも縋るものが無い私は、写真を始めた。SNSで、ちょっとずつ。私の写真ははじめは酷評が多かったが、だんだん少しずつ、『気持ちのいい写真ではないけれど、胸に来る』『悲しく、美しく、儚い』などちょっとずつ、確かに誰かに褒めてもらえるようになった。ネットで流行っている人は案外こんな人が多いのかと、思った。ネットで流行った人はみんな弱くて、居場所が欲しくて、どうにか逃げてきた人なのかと思った。あのボカロP、あの絵師、あの人この人全員私の味方になった感覚がしてとても強くなった。確かに、何かをつかんだ。細く、脆い、糸。絶対離さないと決めて、強く握って、今、自分の盾となっている。学校で、唯一感謝しているのは、学校の段階で、この盾を手に入れられたこと。この盾の硬さだけだったら、あいつらに絶対負けない。と思った。神様は、私に言った。
「その盾が硬すぎると、来るものすべて拒んでしまって、愛すら感じなくなるかもしれない」
と。そんなものどうでもいいと、耳を塞ぎながら心の中で叫んだ。
そして、毎日あんな記憶こんな記憶を思い出しては悲しくなって泣く私がここにいる。どんなに盾が強くても、毎日泣いてしまうのは私が弱いからなのかと、クラスの真ん中で叫びたくなった。このまま、涙が枯れるまで、毎日悲しくなって空しくなって泣くのか。どこかの本で涙が枯れるときはほんとに空っぽになると読んだことがある。私はまだ何か体に残しているのだろうか、この空っぽな胸の中に。
変わらないと、どこかでそう聞こえた。変わろう。どこかで反響した。変わる。変わりたい。お父さん、私、変わりたい。
父が優しく微笑んだ気が気がした。そうだ、と。その調子だ、と。
ホームルームが終わった後、私は樽田君に話しかけた。
「六月十日、ね。いく」
ちょっと書いてて悲しくなったので、文がねじれにねじれてぐしゃぐしゃだと思いますがそこらへんご容赦ください。