黒猫と嵐
最近忙しいので少し短くなりました。すみません。
この話友達の為に書いてたはずなんですが、友人以外の人も見てくれているらしいので手が抜けなくなりました。残念。まだ一人にしか教えてないのに。
次回、五月三十一日、乞うご期待!!
「はい。一応、してきました。」
目を奪われた。さっきは無かった大人な感じがそこにはあった。
「すげぇ。」
「え?」
「いや、なんか。言葉じゃ表せない感じ?なんか、こう、とにかく、すげぇなって。」
「はぁ、そ、そうですか。」
やってしまった。お願いしたくせにまともな答えが出来ていない。相手も相当気まずいだろう。取り敢えず、何か話してみてから、写真撮らせてもらえるか考えようと思った。また達者な口が、
「ちょっと、来て。」
「へぇ?何ですか?」
「いいから。」
「はい?」
と一人歩きし始めた。いやな口である。なんだかんだでさっきの洗面所に連れていき、さっきの洗面所に連れてきて椅子に座らせた。少し会話のタネを探していただけなのに、何故かかなりの移動距離になってしまった。
明かりを最大限つけて、言った。
「ほら、ちょっとムラがあるでしょ?」
「ほ、ほんとですね。」
「そういう時は、これ使ってみ?」
俺は棚を開けて大きめのチークブラシを手に取り、渡した。数分後、
「凄い!これ凄いです!」
「良かった。」
「なんかたまにメイクするときなんか変だなぁと思ってたんですけど、凄く良くなりました!」
「そう、それはいいことをしたなぁ。」
発言がロボットみたいになっている。桐岡が上手く会話を繋いでくれているから会話が成立しているけど俺はどうしようもないと思った。いつもクラスの端にいるけどしっかり話出来たんだなぁ、と多分人見知りの俺は思った。
「でも何でこんな事知ってたんですか?」
「ああ、母さんが美容関係の仕事してるって言っただろ?それで、俺かなり実験台にされてたんだ。」
「へえ、凄いですね!」
「ありがとう。その、一つだけお願いしてもいい?」
「どうぞ。」
さっきもお願いしたからこれで二つ目ということに気付いたが、その時にはもう口が動いていた。
「写真、撮ってもいい?」
「へ?」
桐岡が椅子の上から勢いよく振り返った。
かなり困惑しているようだった。少し目が泳いで、手を揉んで、足を組んだり戻したりして、眉が動いた。
「何でですか?」
流石に攻めた頼みだったのか、完全に怪しまれる事に成功してしまった。
「敢えて言えばかわいいから?」
言うと同時に二人とも、顔が赤くなるのを感じた。心臓の音が人生最高レベルに煩い。感覚では一時間も経ったかと思うほど長い三分を過ごした後、桐岡が、
「いいですよ。でも、クラスの他の人には見せないでください。」
「見せない、見せない。ほんとにいいの?」
「気が変わらないうちに早く、撮ってください。」
「ありがとう。」
俺が部屋から走り去るとき、少し桐岡が震えているように感じた。やっぱり怖いのかなぁ、男の家に上がるのは。そうだよな、男なんて何考えてるかわからないしな。と自分が一番当てはまりそうなことを考えた。もう今日は他のお願いはしないようにしよう。調子に乗ってはいけない。と自分を抑えた。
リビングに走りこんで、テーブルの上の一眼を取った。椅子に薬指をぶつけたが気にしない。地面をスライディングして(脚色)風の様にさっきの部屋に走りこんだ。
俺の頭おかしい程急ぐ姿を見て桐岡は若干引いていたが、気にせず、
「撮らせてください。」
といった。
「どうすればいいのか言ってください。」
「そのまま、困っててもらえると助かります。」
「へ?」
「撮ります。」
彼女が状況を飲み込めていない内に、数枚シャッターを切った。次は少し下から、また数枚撮った。その後もかなり気まずい雰囲気の中、俺はもう開き直って彼女を撮った。あとでファイル確認したら俺はこの時四十五枚写真を撮っていたらしい。
「ありがとうございました。」
「もう、いいんですか?」
「はい。ありがとうございました。じゃあ、部屋、戻りますか。」
「はい。」
おれが自分の口調が敬語になっていると気付いたのはその時だった。急いで直した。
その後は、リビングで飲みかけだったと気付いたコーヒーを飲んだり、母から仕組まれた料理などを振舞った。男子高校生にしては初めて異性を家に上げるとしたら上出来な方なのではないか、とも思ったことはだれにも言えない。その後は桐岡の親が来るまで少し話したり、勉強したり、格ゲーをしたりした。高校入ってから一番心臓が働いたと思った日も、割とあっという間に過ぎていった。
「あ、そうだ。ライン交換しない?」
そう俺が言うと桐岡がさっきご飯を腹に詰めて少し眠そうだったのがバチンと眼が冴えてすごく動揺していた。多分心の中でうーんうーんとか言ってたんじゃないかと俺は推測する。彼女はリビングにあるソファーの上でビシッと背筋を伸ばして、深呼吸して、言った。
「お、おねがい、します。」
「あ、いいんだ?」
「は、はい。」
かなりの確率で断られると考えていた俺は、有頂天な気分だった。
「ありがと。」
連絡先を交換したときに桐岡の母からもうすぐ着く。というメッセージが来たらしいので、俺は送る準備、彼女は、帰る準備をした。
と言っても男同士でどんちゃんした後ではないのでほぼ片づけたり準備したりするものはなかった。じゃあ、と言いかけたところで気付いた。
夕食の前に干しておいた桐岡の制服を忘れていることに。
「ちょっと待ってて。」
それだけ言うと二階へ素早く移動した。洗濯機が二階にあると便利なこともあるが不便なこともある事に気が付いた。無事桐岡に洗濯物を渡し終わった頃、丁度桐岡母が帰って来たので、玄関まで迎えに行くことにした。
帰ってくるとき降っていた雨は止んでいた。濡れたアスファルトの匂いはまだ漂っているものの、九時まで。という予報は外れたらしい。とにかく、俺はなんだかんだで相手の母親と対面することになった。その人は赤い軽で迎えに来た。
「あらぁ、イケメンじゃなーい!よくこんな男を捕まえられたわね、さすが私の娘。」
「いや、僕が勝手に連れてきてしまっただけで。」
「うそ!逆なの?どっちにしても、さすが我が娘。グッジョブ!」
「あの、いや、それはちょっと違いまs……。」
「分かってる。分かってるわ、そんなこと。若い男の子からかうと可愛くってね、つい。ありがとね、桂の面倒見てくれて。助かった。またよろしく!」
「へ?」
それだけ言うとその人は帰っていった。嵐みたいな人だったなぁ、すごい風圧だったなぁ。と思いながら、家へ帰った。その日は、ずっとあいつの顔が離れなかった。
あざした。
つぎ5/31なんでよろしく。