サクラと自転車
新しい学校にも慣れてきた。
高校生活初めての一か月、無事に過ごせたと思う。
友達と言っていいかはわからないけど休み時間の間話す奴ならできた。
俺も馴染んできたなぁ、と思った。そろそろ五月、雨も降りだすだろう。
自分的にはチャリ通なのであまり降って欲しくはなかったが、見てる分には雨は、きれいだと思う。雨の匂いがかぎたくなってきた。
それよりも今もっと気になっていることがある。二個斜め後ろの席に文庫本を持ち眼鏡をかけ座っている『桐岡桂』という女子生徒である。
髪とかクソ長いのに結んで無いわ、止めてないわで一見すると最高に陰キャだが、彼女の中に何かを感じる。自分にはない、輝きを感じる。
なんか、惹かれる。
それでも他のクラスメイトは彼女に対して何も感じていないようだった。
「はい、では今日はここまで、次も古典をします。下校時は事故に遭わないように注意してください。以上。」
号令がかかり、七限目が終わった。まだ高校の水曜だけ七限制(場所による)
には慣れそうにない。背伸びをするとトシがやってきた。本名は野田都志だが名前のとしを取ってトシと呼んでいる。
「きっちーなぁ、何で七個もコマがあるんだよ、誰だよ考えたやつ。」
「それな。」
答えながら、目は桐岡を追っていた。
「ん?なんか今日お前反応悪くね?」
「そうか?わからん。」
あいまいに答えつつ、学校終わった後何するんだろう、部活入ってないのかな、など考えていた。
桐岡が立ち上がり、鞄の中に、文房具をものすごい勢いで詰め込んだ。そしてチャックを閉じるとスーと幽霊のように教室から出て行った。
「なぁ、お前ほんとに今日大丈夫か?」
トシが普通に心配してきた。
「ああ、ああ、大丈夫。」
「あっそ。てかさ、楓マジで可愛くね?目の保養だわ。飯三倍イケる。」
俺的には桐岡の方が気になるのだが、クラス中の男が、
「わかる。それな。共感の嵐。」
とか言っていたので、
「おう。」
と言っておいた。
「じゃあ、俺今日バイトあるから、また明日な。」
トシが教室から猛スピードで走り去っていった。
バイトあるなら楓の話してんなよ、と思いながら帰る準備をし始めた。
高校に来たら勉強も意味わかんなくなってきた。
マジで古典とななんなん、あれ。数学も、意味わからん、ちょっとは分かるけど。
そんなこと考えているうちになんか女子に絡まれた。
「遼平ってさぁ、何でこの高校きたの?」
やばい、いつの間にか教室の男が自分だけになってた。
カラマレタ…。ツライ…。
「家が近かったからだよ。」
いかにも無難な答えをしておく。
「へぇ、意外と普通だったわ、あとさぁ、親仕事何してんの?」
「父さんは美容師で母さんは美容関係の仕事。」
「えっ?美容家族じゃーん!」
「やバッツ」
「いいなー。」
「だから遼平髪綺麗なのかぁ。」
などいかにも言いそうな単語が連発した後、
「ありがと、じゃーね、樽田君。」
と数人の女子から解放された。
心の中でガッツポーズをした。解放された!しゃあぁっ
女子があまり得意ではない俺にとってはそうやって帰るタイミングを作ってくれるのはとてもありがたい事だった。しかし実にいろんな呼び方をされたな、あれが普通なのか?と思った。
帰るか。
三階から一階までの階段を駆け下りて自転車をつかみ、自転車に乗りながらブレザーのネクタイを緩めた。夕日がきれいだった。
今年は寒かったから、桜が咲くのが割と遅くなって、まだ若干桜残ってるんだよな、そろそろ五月だぞ、来年はどうなるんだろうか、などと考えて
分こいだ時、夕日と桜がきれいに見えるところで、桐岡が写真を撮っているのを見た。あいつ、カメラやってんのか、どんな写真撮るんだろうな、ってかマジで美人なんだろうな、七割髪に隠された顔を見てもわかる。楓は化粧してるからまあかわいく見えるんだろうが、桐岡はノーメイクやぞ、多分。ちょっと身だしなみ整えてるとこ見てぇな、と思った。校則マジ神、校則に感謝した。(校則メッチャ緩い。)
「おはよう。」
「ああ、おはよう、トシ。バイトどうだった?」
「どうだった、て普通だよ普通。」
「もう六月になるんだからさぁ、いい加減その質問辞めたら?」
「ああ、ゴメン。」
「高校入ってから、二か月だぜ、もう。」
「ああ。そうだな、楓を拝むのももう二か月たったのか。」
「お前、時間の感じ方あさっての方向行ってるぞ。」
「別に普通じゃね?」
「まあ、いいや。」
「トシ、桐岡って、どう思う?」
「あぁ?桐岡?あんなん、陰キャだろ、普通の。おまえ、どうしたの?」
「いや、別に。やっぱトシが見ても陰キャなんだな、あいつは。」
「誰が見たってそうだろ、あ、もう一コマ目始まる。また後でな。」
「ああ、じゃあな。」
「おう。」
やっぱり他の人は可愛く見えないのか、あいつ。
またチラッと桐岡を見た。
「晴れか。」
六月初日、朝本を読むふりをしながらちらちら桐岡を見ていた。
そんなに見て何になるんだよ、と思うが、見続けた。
一コマ目が始まる前、トイレに行こうとした。
梅雨には一週間で五日、雨が降るらしい。
「今日は二日のうちか。」
少し寂しい気持ちになった。