八本目 既望剣ドルヒ
八本目 既望剣ドルヒ
希望は既に望ちてしまった。
後はもう、欠けるだけ。
希望剣ヒルドが役割を終えた成れの果ての姿。
一度願いを援けた希望剣ヒルドはその力を永久に失った。
しかしながら人は絶望の中の一筋の光に縋りつく哀れな生物である。
希望剣ヒルドがその輝きを失ったというのに、カイラル同盟の市民は無条件に希望剣ヒルドであった物を信じた。
信じてしまった。
既望剣ドルヒ――この時点ではそのような名は付いていなかった――は市民の願いに応えることはなかった。
カイラル同盟急造軍七万五千人対モルディアス帝国正規軍六万人の戦いの火蓋が切られた。
戦いは二時間で決着した。
同盟急造軍の死者七万五千、帝国正規軍の死傷者百十三人。
当然の結果だった。
希望剣ヒルドに頼っていた同盟急造軍の者たちは、その力を得られないことを知り、絶望に堕ちていたのだから。
カイラル同盟急造軍の総司令官、少女ヒルドは生きたまま捕らえられた。
そして、同盟最後の都市ニルヴァーナの固く閉じた城門の前で逆さ吊りにされて処刑された。
既望剣ドルヒがその処刑に使われたのだ。
ニルヴァーナの住民たちは開門し、皆モルディアス帝国へと連行された。
その住民たちは、全て十歳以下の子供もしくは七十歳以上の老人、妊婦のみであったという。
これが有名な竜翼の虐殺である。
少女ヒルドの剣に力を授けたのは、きっと悪魔に違いない。悪魔でないとしても悪魔的な性格の持ち主であったことは疑いようがない。
ただの絶望より、希望を与えられてからの絶望のほうがより苦しいのだから。
既望:既に望(満月)を過ぎた夜、あるいはその夜の月。
2021/10/21 加筆修正
→七本目