四十三本目 断絶剣ユーステス
名工アクセルシリウスは問うた。
「剣を以て何を斬るか」と
英雄ラビッドは答えた。
「全てを。彼女を奪った敵を。彼女を閉じ込める牢壁を。彼女を縛るしがらみまでも。全てを斬り裂く。全てを斬り拓く。彼女との未来を手に入れるために」
名工は告げた。
「ならば貴様に剣を打とう。何物にも刃が通る剣を。何者にも妨げられぬ剣を」
絶断剣ユーステスは全てを断つ剣である。
恐らくその剣の刃は物質のみならず、概念にさえも及ぶと想定される。
十一世紀から十三世紀にかけて、中央大陸に存在した国ナヒルド連合王国は、一人の男によって滅びた。
男の名はラビッド。彼は連合王国の兵士として、隣国エルダー王国との戦争で多大な功を挙げた。
ラビッドは元々流れの剣士であり、その腕を見込まれ、連合王国に然るべき報酬を約束され、雇われることとなった。
ラビッドは報酬に、王の姫であるテレーザとの婚姻を要求した。
しかし、その願いは拒絶され、彼は救国の英雄から一転し、追われる身となった。
逃亡中に、ラビッドは一人の男と出会った。
その男の名はアクセルシリウス。人の身でありながら神の業を再現するまでに至った伝説の名工である。
ラビッドはアクセルシリウスより一本の魔剣を授かった。
その魔剣、断絶剣ユーステスを用いて、ラビッドは連合王国の王城に乗り込み、まず二百年続いた王の系譜を斬った。連連と受け継がれてきた王の繋がりを、無意味なものとしたのである。
その瞬間、王位の継承は一切不可能なものとなった。つまり、当代の王と姫テレーザとの繋がりを無かったことにしたのである。
続いてユーステスは玉座ごと王を絶った。
そしてテレーザを攫い、追っ手のことごとくも斬り裂き、二人で連合王国を離れたのである。
ラビッドの死後、断絶剣ユーステスは長年行方不明となっていたが、破魔暦三千十二年、中央大陸のサラヅ王国で起きた革命において、処刑の為の剣として用いられ、その最中に永遠にその権能を失ったことが分かっている。
僕は約束を守ったぞ。
子供の頃君が願った、あの鳥籠からの解放をやりきったんだ。
なのになんで、なんで君はそんなに哀しい顔をしているんだ。




