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千の魔剣の物語  作者: 名も無き魔剣の所持者
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四十二本目 復光剣アギエルバ



 あなたの心にもう一度、灯りを灯しましょう。

 折れてしまった心に寄り添いましょう。

 壊れてしまった心を包みましょう。

 あなたが笑顔を取り戻せる、その日まで。



 人類はこれまで十四度の大災と、八度の世界大戦を経験し、その度に多くの犠牲を払い、その全てを乗り越えてきた。

 それらからの復興に大いに役立った魔剣が復光剣アギエルバである。

 復光剣アギエルバは大災や大戦が起こる度に、被害に遭った人々の心の支えとなってきた。

 この魔剣は人々の心にある負の要素を、全て正の方向へと変換する。

 悲しみも、苦しみも、辛さも、涙も。全てを喜びに変え、人々を強制的に笑顔にするのだ。

 辛い時に無理矢理笑わさせるのを酷だと非難する者もいた。しかし、多くの歴史と実験結果が、それは立ち直るのに効果的であると証明しているため、それらの批判は騒音でしかないと言える。


 復光剣アギエルバが初めて登場したのは八度目の大災である、『足踏みと華麗なる輪舞曲』の直後であった。

 彼の大災は中央大陸の過半とカラハン大陸の三分の一を、生物が存在できない環境に(一時的にだが)造り替えた。

 世界中の人々が絶望し、人類の繁栄神話も終了だと均衡塔の人間の一部さえもがが諦めたその時、復光剣アギエルバが現れた。

 復光剣アギエルバを出現させたのはアキナ・ローズという女性である。彼女は何らかの宗教のシスターであったと言われているが、復光剣の出現と同時に彼女は全ての身分を捨て、過去を抹消したために、詳細は伝わっていない。

 アキナは普く慈悲深く、思慮深い女性であった。

 自身が特定の宗教の出であると知れれば復興の足枷となることをよく理解していた。被災した人々の心の支えとなるのが宗教、ひいては神であることは往々にしてあるが、復光剣アギエルバは心の支えとなるというその一点においてのみ、それらの代替となりうる。

 更には復光剣は中毒性が存在しないため、宗教とは異なり復興後は頼ることがなくなるのである。


 復光剣アギエルバは現在均衡塔の管理下に置かれており、大災もしくは大戦が発生した後のみに使用が許可されている。

 何にでも魔剣に頼れば良いというものではない。我々は我々の力で乗り越えられるものは、惨めに地を這ってでも、明日に手を伸ばさなければならないのだ。



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