四十本目 幻肢剣へビルド
貴方の指が欠けたなら、私はその指になりましょう。
貴方の脚が欠けたなら、私はその脚になりましょう。
貴方の足りない部分に、私はなりたいだけなのです。
幻肢剣へビルドは所有者の欠陥を補完する魔剣である。
例えば所有者の四肢が失われたなら、幻肢剣へビルドは所有者の四肢へと成り代わる。
例えば所有者の血液が失われたなら、幻肢剣へビルドは所有者の血液へと成り代わる。
故に、幻肢剣へビルドを振るう物はまるで伝説の不死のように、戦場では恐れられてきた。
幻肢剣へビルドの最初の所有者は、名をケロイドと言った。
彼の生い立ちは至って平凡で、ただ唯一非凡であったのは、その無謀な冒険心だった。
彼は成人すると(当時彼が生きていたマガド国では、成人年齢は十四歳であった)、すぐに住んでいた村を飛び出して世界に羽ばたいた。
彼が飛び出したのは、紀元前四百五十年前後。つまり、異形が闊歩していた時代であり、怪物殲滅時代が始まる少し前である。
人類領域から少し外れると、そこは異形の領域であった。当そのような時代に冒険へ出る者など、当然まともである筈が無いのだ。
ケロイドは運良く生き延び続け、出発からおよそ一年が経った頃に異形の領域で、とある少女に出会った。彼女は決して名を名乗らなかったため、名は残されていない。
そして彼らは恋に落ちた。
彼らは共に冒険を続け、ある日とうとうケロイドは致命的なミスを犯し、片脚を大腿部から失った。
少女はケロイドの側で涙を流し、そして遂には一本の魔剣へと化した。
ケロイドが衝撃のままに剣を握ると、失われた脚が復元された。いや、補完された。
その脚は確かに失われる前と同じケロイドの物であったが、しかし彼はその脚が自分の物で無いことを深く理解していた。
ここまでが彼が残した手記である。
彼はその後も冒険を続け、何度も四肢を失い、その度に魔剣が彼の四肢を補った。
彼の最期は様々な説がある。
彼の命が尽きたのは、紀元前四百三十二年である。これは、英雄ジークフリートの証言からして正しいことは保証されている。
しかし、ケロイドはある時を境にまるで人が変わってしまったのだという。
それは彼が似非矮人の大集落に囚われた時である。
恐らく彼は、その時に心を失ってしまったのだろう。
そして、その心を幻肢剣へビルドが補ったのだろう。
幻肢剣へビルドは、失われた部分を完璧に再現し、補完する。
身体の全てと、心までもが補完された人は、果たして同じ人物だと言えるのだろうか。
現在幻肢剣へビルドは均衡塔が保管しており、認定英雄アルルメイヤに貸し出されている。
彼女は既に、◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️可能性がある。
(04/11/6077 検閲済み)
→三十本目
再生と補完は似て非なる現象です。
再生剣ケルトファルトの再生は治癒力を限界突破して増幅するものであり、当然痛みを伴いますし、時間もある程度かかります。
幻肢剣へビルドの補完は身体の一部が失われた瞬間に保管が行われるため、痛みもなく、戦闘能力が落ちる隙がほとんどありません。
さて、貴方はどちらを選びますか?




