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千の魔剣の物語  作者: 名も無き魔剣の所持者
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三十九本目 合一剣アスメラルダ


 なんでみんな喧嘩しちゃうんだろう。

 みんなが相手の身になって考えてあげられれば、争いなんて起こらないはずなのに。

 そうだ! みんな私になればいいんだ!


 十四回。

 これは記録に残されているこの世界が滅びかけた回数である。

 最も身近で、現代にも深く爪痕を残しているのは『ニーラカンタの笑顔』であるが、この厄災以上の危機がこれまでに何度もあった。

 その一つが、合一剣アスメラルダによって千九百四十五年に引き起こされた大災、『雨後の仮面と颯の湊』である。

 この災害での死者は計八千万人にも上ると言われており、当時の世界人口の一割が崩壊した。

 そして、我々はその大災に無力であった。


 人の世に争いは尽きない。

 それはどんな現実主義者にも、理想主義者にも明らかであり、変えようの無い事実である。

 何故人は争うのか。

 価値観の違い、文化の違い、思想の違い。

 なるほど、それは正しい。

 しかしながら、もっと根源的な、どうしようもない原因は存在する。

 それは、人が二人以上存在していることだ。

 人が一人だけであれば、争いは生まれない。

 だが、それは我々が人類である以上、実現不可能な夢物語であるり、屁理屈に過ぎない。はずだった。

 しかしながら、その解決法を本気にしてしまった少女がいた。


 合一剣アスメラルダは人に共感を呼びかける。

 彼女の、名を失ってしまった少女の理想を。

 ほんの僅かでもその理想に共感してしまった者は、合一剣アスメラルダの力により、意識が少女のに統合される。

 意識を統合された者は、元となった少女の面影を色濃く反映した象牙色の仮面が顔面から浮かび上がり、その仮面を被って行動した。

 仮面を被った彼ら、いや、彼女は合一剣アスメラルダの力を通して視界に入った人間に呼びかけた。

 『私と一緒になりましょう』と。

 数々の英雄が彼女を止めようとした。

 そして、一つの例外もなく彼女に取り込まれた。

 それらは全て彼女の力となり、最早誰の目にも彼女を止められないことがわかり、均衡塔でさえも匙を投げた。

 人類に衝撃を与えた未曾有の大災『雨後の仮面と颯の湊』は発生して三日と半日でカラハン大陸全土及び中央大陸の二割を覆い尽くした後、同大陸随一であった貿易港ハルメルト湊の眼前まで迫った直後、突如として終息した。

 彼女に取り込まれた者はその大半が崩壊し、死亡したものの、終息直前に取り込まれた者は奇跡的に生還した。

 彼らの証言から、彼女があまりにも多くの人々を取り込んでしまい自我を保てなくなったため、彼女は崩壊してしまったのだと推察された。

 大災『雨後の仮面と颯の湊』は斯くして終息し、我々人類は圧倒的な災害を前に、全くの無力であると知らしめた。



 私は私。

 あなたも私。

 みんな私で……え、あれ。私って誰だっけ。

 わかんない、わかんないよ。

 誰か助けて!

人は差異があるからこそ、歪で美しい生き物だ。

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