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千の魔剣の物語  作者: 名も無き魔剣の所持者
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三十七本目 叛意剣エイカ


 許して欲しいなんて贅沢なことは言いません。

 ただ、理解して欲しいのです。

 私は私なりの正義が有ったのだということを。



 歴史上、暴力による政権交代は数多行われてきた。

 原因は政権交代の数だけあり、一概には纏められないものの、概ね二種類に分類することが出来る。

 一つは政権交代を主導した人物、もしくは集団に何らかの利益が見込まれた場合。

 もう一つは、国が、国民が為政者によって不利益を被っていた場合である。

 紀元五千二百年代中頃に中央大陸を統一した、統一国ユラフィスにて発生した政権交代である『ケーニヒズベルクの一夜』の原因は後者である、と叛意剣エイカは伝えている。

 以下は叛意剣エイカによって刻まれた文章を、現代共通語に翻訳したものである。



 嗚呼、偉大なる覇王パトリオットよ。

 私は貴女が作り上げた平和を守ることが出来ませんでした。今やこの国の人々は貴女が最も憎んだ飢餓に苦しんでいます。原因は天候や災害などてはありません。むしろそうであったなら、いっそのこと諦めもついたでしょう。

 それは人々のすれ違いでした。言語の異なる人々。文化の異なる人々。思想の異なる人々。私たちが統一したと、あの星の降る夜に思った国は、幻だったのです。

 貴女は夢の中で逝きました。

 私も夢を見たまま逝きたかった。

 でも私は生きているから、夢から覚めてしまったから、現実に醒めてしまったから。

 私がやらなければならないのです。

 それがあの日、貴女と共に夢を見て、この地獄を作り上げた一人としての責任です。

 明日は貴女の三回忌。

 『覇王の八剣』が貴女の魔剣の前に集います。

 時の流れは人を変えてしまいます。

 良い方向にも、悪い方向にも。

 彼らはあの頃の理想を捨ててしまいました。

 貴女の後ろを無邪気に歩いていた無垢剣のヤヨイは、彼女の出身である赤芽族の利益のために動いています。

 武を求め、武に生きると謳っていた残殺剣のクルナハドは、子供にまで決闘をさせる殺人鬼と堕しました。

 貴女のために料理を作り、大陸中に美味しい料理を広めるのだと意気込んでいた美食剣のラナインケンは、食料の生産地を占有し、この飢餓の原因の一つとなっています。

 私は彼らに問うつもりです。

 この地獄を終わらせるつもりはあるか、と。

 私は彼らを信じたい。

 彼らと共に在った日々を信じたい。

 だから、

 私の問いに彼らが少しでも迷えば、私は彼らを終わらせます。

 彼らの伝説が完全に汚れきってしまう前に。

 私たちの旅が醜いものとなってしまう前に。

 どのような結末となっても、私が、私たちが愛した貴女のことは穢させません。


 私は、いえ、私の元となったエイカは『ケーニヒズベルクの一夜』を起こした二週間後に農民の鋤に串刺しにされ、支配の象徴としてこの世を去りました。

 貴女の墓と、魔剣が秘されているこの園にもやがて火の手が回るでしょう。

 私はもはや自分では何もすることができません。

 私は少し疲れました。

 暫く眠りに着きます。

 覇王剣アルカディアを手にするのに相応しい人物が現れるその日まで。

 貴女の後継者がここに辿り着く日まで。



 叛意剣エイカは人間と同等の思考能力を持った魔剣である。正確には、統一国ユラフィスの宰相エイカの意識の複製物が憑依した剣である。

 彼女は次の覇王となるべき人物に、仕えるために休眠を選んだ。

 しかしながら、その力を恐れた中央大陸の国々により、覇王パトリオットの墓とその周辺には封鎖剣アインズの力により、何者も立ち入れないようになっているため、彼女が目覚めることはないだろう。



 夢を見たまま死ねるのは、どれほど幸せな事か。

各話の後書きに、関わりのある剣を記載してみました

気が向いた時に読み返していただければ幸いです


→十八本目

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