三十六本目 廃死剣ソルカ
貴方の命が絶えぬ事を祈ります。
それ以外、何も要らない。
無事でありますように。
廃死剣ソルカは紀元五千二百三十年から中央大陸で始まった五十年戦争中期に誕生した剣である。
紀元五千二百四十九年より五十年戦争は混迷を極め、帝王同盟と赤竜同盟、そして藍闘同盟の三同盟による三つ巴のカルディアの戦いが始まった。当時中央大陸に存在した十八国の内、巻き込まれることを回避したのは僅か二国。その一つである、大陸で最も弱小とされていた至ネハン国。その地にて一組の夫婦が在った。
当時軍拡に勤しんでいた他国に追随して、至ネハン国も軍備の拡張を迫られ、国民の労働人口の内一割を徴兵する事となり、その状況は彼の夫婦を引き裂いた。
至ネハン国は余りにも弱小故に、三大同盟からは脅威として数えられる事が無く、戦場と化した中央大陸の凪となっていたが、覇王剣アルカディアを携えた覇王パトリオットが登場すると、否応なく戦火に巻き込まれていく事となった。
至ネハン国の国民であったソルカは徴兵の対象となり、五千二百六十年に新興国ユラフィスが至ネハン国及び新赤竜同盟へと宣戦布告して始まった戦争、胎動平原の戦いに投入され、二十四年の短い生涯に幕を閉じた。
「何で、どうしてこの人が命を落とさなければならなかったのですか。」と、その女は棺桶の前で声を張り上げて言った。
憎悪と追慕、憐憫と妄執が溶け込んだ雫が一滴、男の亡骸が抱いた剣に垂れた。
戦いの痕が残る剣は魔剣、廃死剣ソルカへと形を変えた。
女が廃死剣ソルカに指先を添わせると、男の亡骸は意志を持たぬままに動き始めた。
ソレは女の意のままに起き上がり、女の背に両の腕を回しその冷たさを女に伝えた。
廃死剣ソルカは誕生して僅か九日の間に胎動平原に眠っていた戦死体約八万名分を動死体へと作り変え、直後、女の命令通りに新興国ユラフィス軍と激突した。
動死体によって死体が増えると、その死体を更に動死体へと作り変えるという廃死剣ソルカの厄介さにユラフィス軍は苦戦したものの、覇王パトリオットの覇王剣アルカディアの一薙ぎによって、最終的には十万を超えた動死体は全て再び永遠の眠りについた。
その後、統一国ユラフィスによって、五千二百八十七年に廃死剣ソルカは破壊された。




