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千の魔剣の物語  作者: 名も無き魔剣の所持者
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三十五本目 夢跡剣フラティック

夏草や

 我ら最後の一兵となろうとも戦い続けよう。

 後の世に名など残るべくも無いが、然れど尚戦い続けよう。

 それが我らがこの世に生を受けた証となるのだから。


 聖暦四千五百十年から翌年にかけて行われた第六次湖島戦役にて、小国であった湖島共和国フラティックはディアス=マキシナ連合軍に敗れ、その百年余りの歴史に幕を閉じた。

 争いを嫌った初代総主ミナテュルク・フラティックは、中央大陸に存在する、世界で六番目に大きい湖である灰被湖の中心部に浮かんでいた赤粧島に約百人の友を連れ、共和国を建国した。

 以降百年に渡り、共和国は豊かな環境資源を礎に安定した繁栄を遂げ、人口は三千人にまで膨れ上がった。

 彼らは皆、自然を愛する牧歌的で温厚な人々であったという。


 ある時、周辺国の研究者による地質調査で、赤粧島の地下にはレアメタルであるアイジーフィルムが膨大に埋蔵されていることが明らかになった。

 アイジーフィルムとは、汚水を真水に変える効果のある鉱石のことであり、水資源に乏しい国々にとっては金よりも貴重な存在であった。

 当時灰被湖周辺には四の国が存在した。

 ギルド商業連合国、ディアス霧雨王国、マキシナ白百合王国、そしてキルワ共和国である。


 湖島戦役の経緯は以下の通りである。

 貴重な交易品となるアイジーフィルムを欲したギルド商業連合国は、元首が野心的であったディアス霧雨王国とマキシナ白百合王国に多量の武器を提供し、湖島共和国フラティックを占領するよう誘導した。

 周辺四国の残り一つであるキルワ共和国は静観を選択した。

 聖暦四千四百七十二年、商業連合国は湖島共和国に対し地下資源の採掘権を要求したが、自然を愛した湖島共和国はその要求を切り捨てた。

 その直後、二王国は連合を組み、計六度に渡り湖島共和国へと侵攻を行った。

 聖暦四千五百十一年夏、六度目の戦役において湖島共和国の奮戦虚しく、ついに赤粧島はディアス=マキシナ連合の手に落ちた。

 湖島共和国の死者は成年男性の八割に上った。

 一本の剣が島の大地に突き刺さった。

 島を、生まれ育った地を守ろうとした兵共の想いに剣は応え、一本の名も無き剣は魔剣と化した。


 六度に渡る戦役は幕を閉じた。

 勝者であるディアス=マキシナ連合及び、武器を提供したギルド商業連合国の手には、魔剣の力によって全土が開発不能となった赤粧島が残った。

 四十年に及ぶ激戦の中で大量の武器を供与されたディアス=マキシナ連合には莫大な借款が残り、返済の当てにしていた地下資源を採掘出来ず、両王国は財政破綻を起こし、民衆の暴動により崩壊した。

 ギルド商業連合国はディアス霧雨王国及びマキシナ白百合王国の崩壊により多大な損失を出し、またアイジーフィルムの取引を行う予定であった国々からの信用を失い、徐々に衰退していく事となった。同連合国は聖暦四千五百七十年に解散した。

 キルワ共和国にはフラティック湖島共和国からの難民が流入し、元首の手腕も相まって急激に勢力を拡大することに成功した。


 今も赤粧島に刺さり、その力を発揮し続けている夢跡剣フラティックの腹には以下の文字が刻まれている。


 『もし貴方たちが歴史から忘れられる事があっても、わたしは貴方たちを覚えています。夏草が貴方たちの上で靡こうとも、わたしが語り継ぎましょう。護国の英雄に誉れあれ。』

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