三十本目 再生剣ケルトファルト
三十本目 再生剣ケルトファルト
夕紅にあなたの幸せを願いました。
美しいこの世界を、どうかその眼で抱いてください。
一人の奴隷の少女がいた。
彼女に名は無かった。ただ、主人からイスとだけ呼ばれていた少女はある日、不興を買って両目を焼かれ、放逐された。
彼女の居場所は当然どこにもなく、押し出されるように街から姿を消した。
怪物殲滅時代は、紀元前四百三十八年に英雄ジークフリートが悪竜ファフニールを倒したことに端を発する異形狩りの時代である。
世界中で英雄や騎士団、開拓者達が一斉に怪物を狩り始めたことで、人類を長きに亘って苦しめてきた怪物は、瞬く間にその数を減らしていった。
不死の巨人もまた、その一種であった。
異常な再生能力を持つ不死の巨人は、紀元前三百九十七年に最後の一頭が討伐された。
また、その討伐と同時に一人の少女が救出されたと記録が残っている。
その際、救出された少女が握っていたのが再生剣ケルトファルトである。
少女はその後、再生剣ケルトファルトを携え、聖女カレンとして各地で救済活動を行った。
不死の巨人は人類に人間に敵対的な種族である。人語を解さず、邂逅すれば問答無用で襲い掛かってくる。その上生物としての範疇を超えているほどに再生能力が高く、頭を半分失っても死なないという、この上なく厄介な怪物であった。
近年、未発表の研究レポートが発見された。
怪物を、不死の巨人を生まれた直後から人間の手によって育てたならば、果たして人間に友好的になるのだろうか、という。
この危険極まりない研究が未発表に終わったのには当然理由がある。
研究対象が、途中で脱走してしまったのだ。
研究者は事の発覚を恐れてか、報告もせず、当然レポートも闇に葬ろうとしたに違いないが、研究者としての欲が残ってしまったのだろう。彼はレポートを封印するに止まった。
そのレポートには、不死の巨人が人語を解し、操れるようになったとあった。
また、その不死の巨人をケルトファルトと名付けた、とも記録されていた。
聖女カレンは救出直後に魔剣の名を訊かれ、『ケルトファルト』と、涙と共に口にしたと伝えられている。
→四十本目




