二十六本目 刹那剣トワ
二十六本目 刹那剣トワ
この刹那を永遠に。
彼女が願ったのはたったそれだけで、それ以外の何も望まなかった。
刹那剣トワは、人の意識を永遠に停滞させる魔剣である。
紀元十一世紀頃に最盛期を迎えた、中央大陸西部に存在したイリュシール王国には、とある習わしがあった。
一定の年齢に達した貴族の男女は、国王によって強制的に結婚させられるのである。
六十一世紀に生きる我々からすれば、自由を侵害するこの風習はとんでもない悪習に聞こえるが、実態はそれほど悲惨なものではなかった。
国王はそれぞれの家の地位や財産、力関係などを吟味した上で、彼らが最も幸せになれるであろう婚姻を決めた。
このシステムは意外なほど順調に稼働し、貴族であれば誰もがそこそこ以上の結婚生活を送ることが出来たのだ。
とある貴族の令嬢がいた。
名をシャルフィリーナといった。
ある時彼女は名前も残っていない一人の使用人と恋に落ち、使用人もまた彼女に恋をした。
そして中を深めること三年。
ついにシャルフィリーナにも国王によって婚姻が命じられた。
当時、誰が国王に逆らえるものか。
彼女は願った。
恋人と過ごすこの奇跡のような一瞬を永遠に揺蕩うことを。
彼女は誓った。
仮令引き離されようとも、彼だけを永遠に愛し続ける、と。
気付けば彼女の手には、一本の短剣があった。
恐らく彼女はそれを以て喉を貫こうとしたのだろう。
しかし、その瞬間彼女の意識は永遠に閉ざされた。
倒れ込んだ彼女の顔は、まるで最愛の人と過ごしているかのように、幸せそうであったという。
真っ先に駆け付けた使用人もまた、その短剣、刹那剣トワに触れ、意識を閉ざした。
彼は本当にソレを望んでいたのだろうか。
この世界では、剣で喉を貫くことは崇高なことだとされています。昔の日本人にとっての切腹と同じような感じだと思っていただければ。
だからここまで何人も喉を貫いて自決していたんですね。
→二十七本目




