二十五本目 蠱毒剣ファフナー
二十五本目 蠱毒剣ファフナー
蠱毒。それは古代泰河文明において創造された劇毒であり、僅か一滴で三千人以上の人を殺すことが出来たと言われる、史上最悪の毒である。
蠱毒剣ファフナーは、実物はおろか製法すらも完全に失われたとされていた蠱毒を、薬師ファフナーが創り出し、それを決して腐食しない金属であるアルメニア鋼を用いて作成した剣に幾重にも塗布した剣である。
ファフナーは蠱毒を自らの欲望を満たすために使った。
元々人を救うための薬を作っていた彼は、いつしか人の命への倒錯した感情を持つようになっていた。
そして彼は気付いてしまった。
人一人を救うより、百人を殺すほうが容易である、と。
ファフナーは蠱毒剣を完成させた後、街中で振るった。
四方百メートルは瞬く間に地獄へと変わった。
気化した蠱毒を吸い込んだ者は肺が焼け爛れ、直接掛けられてしまった者は死ぬよりも辛い苦痛を味わい、処置の甲斐なく悉く一週間以内に死亡した。
居合わせた者にできたのは、その苦しみから永遠に解放してやることだけだったのだ。
ファフナーはその後、彼が住んでいた、地獄へと変貌してしまった街を後にしようとして、銃殺された。
彼が何故蠱毒の影響を受けなかったかは、当人が死亡したため判明していない。
彼が破壊した街、ジェスヴェリヲは完全に焼き払われ、蠱毒の痕跡は灰燼と帰した。
古代、蠱毒の製法が失われたのは、このような事件があったからなのかもしれない。
蠱毒剣ファフナーはその後行方が分からなくなったが、恐らくはジェスヴェリヲ焼却の際に焼失したのだろうと考えられている。
誰にも触れることが出来ないのだから、誰かが持ち去ったとは考えられない。




