二十四本目 孤独剣ヘレ
二十四本目 孤独剣ヘレ
人は一人では生きていけないと、初めて唱えたのは誰であろうか。
その言葉は全く以て正しい。
しかし彼にとってはその言葉は別のニュアンスに感じられたのだろう。
だから彼は狂ってしまった。
孤独剣ヘレは、紀元前七百年代半ばに中央大陸北西部をまとめ上げ、北方狩猟勢力の一つ、氷臥を建てた将軍ヒュレードによって創られた剣である。
ヒュレードは三十年に渡る長き戦いを経て、氷臥を建てた。
この世の頂上とも思えるような日々の後、彼はふと我に返り、絶望的なまでの孤独を感じた。
共に肩を並べて戦った戦友たちは首を垂れ、彼を慕い追ってきた家族のような部下たちは決して目を合わせようとしない。
世界には、彼一人しか居ないも同然であった。
彼の本当の望みは、世界の頂に立つことではなく、仲間たちと笑い合える場所を手に入れることだったのだ。
彼はそれを悟ったとき、全ては遅きに失したとも理解し、そして彼は壁に飾られていた宝剣を手に取り、自身の喉を貫いた。
その宝剣こそが孤独剣ヘレの前身である。
ヒュレードの孤独は剣を変質させるほど、深く昏いものであったのだ。
以来孤独剣ヘレに触れた者は彼が感じたものと同質の孤独を与えられ、その全てが一様に自殺を試みる。
孤独剣ヘレは現在、氷雪の下に覆われていると思われる。




